京都市美術館(左京区)の総称が「京都市京セラ美術館」となる。市が美術館の再整備費用の半分を賄うため導入した命名権(ネーミングライツ)で、昨年10月に京セラ(同市伏見区)が50億円(税別)で契約候補者となったためだ。だが、命名権をめぐっては、市民団体などが「市民を無視した導入手続きに問題がある」などと撤回を求めている。命名権を得た京セラにとっては市民の反対が広がれば広がるほど、株主の理解を得られないということにもなる。もしそうなれば、契約の白紙撤回も検討せざるを得ない状況になる恐れがあり、事態の推移が注目される。

老朽化で空調故障、展覧会が一時休止

 京都市美術館は、昭和8年に建設。昭和天皇の即位の大典を記念した「大礼記念京都美術館」と名付けられ、日本で2番目に古い大規模公立美術館だ。

 それだけに老朽化も著しく、昨年7月には、展示室内の湿度を制御する2台の空調装置のうち1台が故障。展示作品の保護のため展覧会が一時休止になるなど、再整備は喫緊の課題になっている。

 市では昨年6月、本館の外観はそのままに内装を全面的に改修することで、耐震性能の向上や空調・照明設備の全面的更新などを行い、抜本的な展示機能の強化を図るという再整備についての基本設計をまとめた。概算工事費は約100億円で、その半分を賄うために命名権の導入を決めた。

 これに唯一、手を挙げたのが京セラだった。

 「創業地である京都の文化への貢献と地域の発展に寄与したい」と応募。10月5日、美術関係者などでつくる審査委員会が開かれ、市美術館のイメージや設置目的に合致しているかや、文化芸術に対する理念や活動実態、市美術館の知名度向上への貢献実績などを審査し、600点満点中570点と高評価を得て、翌6日、市が京セラを契約先に決めた。

 契約内容は美術館全体の総称を「京都市京セラ美術館」とし、美術館を構成する本館や大展示室といった個別の施設の命名権については今後、審査委員会の審査を経て決めていくというもの。契約額の50億円は、平成29、30、31年度の分割納付となる。命名権は、同美術館の再整備終了後の31年のリニューアルオープンから使用される。

市民団体が反対、京セラの出方は…

 しかし、命名権導入には、昨年8月の市議会の委員会で「歴史ある美術館に命名権はふさわしくない」などの異論が噴出。市民団体からも市議会に命名権導入の取り消しを求める請願書などが出されていた。

 さらに、京セラが契約候補者に決まった後も、美術関係者や市民団体関係者らが市民団体を結成した。

 市民団体側は「市議会や市民を無視した(命名権を導入の)手続きに問題がある」と主張。過去に美術館に作品などを寄贈した人たちのことを取り上げ、「市美術館に寄贈したのであって、京セラ美術館に寄贈したわけではない。寄贈者の中には作品の返還を求めていく人もいる」とした。

 また、命名権が50年間に及ぶことから、「この間、他の企業からの寄付が得られず、今後の作品の収集が危ぶまれる」と指摘。市に対して命名権の撤回を要求するだけではなく、京セラに対しても命名権の取得について異議を唱える文書も出している。

 命名権に対する反対が出れば出るほど、気になるのは京セラの今後の対応だ。

 50億円もの出資について、株主から「市民が反対するところになぜ出資するのか」と反発を招きかねない。京セラにとって、株主の理解が得られなければ、契約の解除も検討せざるを得ない状況になる。

天然記念物に命名で物議も

 京都市が命名権を取り入れるのは初めてではなく、20年にスタートしている。これまで、ロームシアター京都(京都会館、命名権50年52億5千万円)、わかさスタジアム京都(西京極球場同10年2億5千万円)など9件(1件は契約終了)の実績がある。

 この中でも今回は、「公的な美術館の命名権」というところが反発を招いているとみられる。

 だが、市は命名権の契約に応募できる企業として、市の広告基準に照らして風俗産業、消費者金融、ギャンブル関係は排除した上で、「金額だけで判定するわけではない。文化芸術への貢献、美術館への貢献も重要な基準」「(条件として)京都市という言葉の前に名前を冠しないということを明確にしている」などと理解を求めていた。

 命名権をめぐっては、兵庫県が、ふるさと納税で県に30万円以上を寄付した人に県立コウノトリの郷公園(豊岡市)で飼育するコウノトリの命名権を特典にする−と公表し、批判を浴びた。

 「生き物に命名して寄付を募るのは不適切」「特別天然記念物の一生を金で買うのはどうか」といった批判的な意見が寄せられたもので、県は当初「一生涯」としていた命名権の期限を3年間限定に修正せざるを得なくなった。

 一方、大阪府立体育会館(大阪市浪速区)では、それまで命名権を契約していた企業が「費用に見合う広告効果が得られない」などとして契約を更新せず、急遽別の企業を探して契約するまで「空白期間」が生まれた。企業としても慈善事業として金を出しているわけではないのだ。

「命名権は税金負担の軽減に」

 京都市の門川大作市長は「(命名権を採用すれば)税金投入という市民負担の軽減につながる」「文化芸術の発展のためには、民間企業による支援が必要だと考えている」と命名権採用の妥当性を主張。今後の再整備を「世界を代表する美術館として飛躍し、市民に『よかった』と評価いただけるよう全力で取り組む」とした。

 昨年12月には、陶芸家で文化功労者の今井政之氏や木工芸家で人間国宝の村山明氏ら、日本を代表する京都在住の芸術家ら12人が、市役所を訪問。「愛称を付けることに種々の感慨もあろうかと推察するが、首肯に値する」「早く再整備を進めてほしい」と述べた。