阪神大震災で負傷者の治療や避難所での診療に当たった神戸赤十字病院(神戸市中央区)が、龍谷大大学院(京都市下京区)に協力して「臨床宗教師」の養成研修を受け入れている。災害や医療の現場で心のケアに当たる宗教者らに、被災者や遺族とどう関わればよいかを考えてもらうためだ。「死と向き合う覚悟のある宗教者には、医療者にはない強みがある」。医師からそう期待された受講生たちは、19日に研修を締めくくる修了式に臨む。

 心療内科医が講義

 受講生7人が神戸赤十字病院を訪れたのは、昨年12月15日。心療内科医として数々の災害現場で活動してきた村上典子さん(53)の講義を聴き、医師らと意見交換した。

 同病院の心療内科は阪神大震災翌年の平成8年、被災者の心のケアを目的に設置。その当初から勤務している村上さんは、16年の新潟県中越地震や23年の東日本大震災で救護班の一員として現地に入ったほか、17年のJR福知山線脱線事故でも負傷者や遺族、救護スタッフのケアに当たった。

 講義で村上さんは「災害は大切な人や家屋、仕事、希望など、同時多発的な喪失体験を伴う」と指摘。阪神大震災から5年後と10年後に、心療内科の受診患者に自分の病気が震災と関係があると思うかどうかを聞き取り調査したところ、5年後で37%、10年後でも39%が「関係ある」と答えていたことを明かした。

 「表面上は癒やされたように見えても、被災者や遺族の心の奥底の悲しみは、一生消えることがない」。村上さんはそう話した。

 死に向き合う強み

 災害における悲嘆や苦悩の表れ方には、家族でも個人差がある。独りよがりや自己満足に陥らないケアを心がけ、時には相手から嫌な感情を向けられることへの心の準備も必要だ−。

 実際の活動で得られた教訓を受講生に伝えた村上さんは「遺族や遺体と関わるには、医療者にとっても特別な覚悟が必要。みなさんは、死というタブーに真正面から向き合うことが強みだし、私たち医療者の刺激にもなる」と語りかけた。

 「身の引き締まる思いでお話を聞いた」。受講生で浄土真宗本願寺派の僧侶、奥田正弘さん(26)はそう振り返る。

 北海道伊達市出身。12年の有珠山噴火を小学生の時に体験した。学校の体育館が避難所になり、噴火を知らせるサイレンの音や火山性地震の記憶はあったのに、自分には突然の死別という悲嘆に向き合う力が足りないと感じた。

 「宗教者は、先人の方々が積み重ねてきた信仰の歴史を背負っている。そんな私たちにしかできないことを探したい」。将来は北海道を拠点に、災害支援に当たりたいと考えている。

 震災の記憶を継承

 「私も阪神大震災で被災し、大切な人を亡くした方々の悲しみに寄り添ってきた」

 そう話すのは、指導教員の鍋島直樹教授(真宗学)。神戸市中央区にある実家の寺院は本堂が半壊し、門徒が亡くなった。関西にある龍谷大が臨床宗教師を育てる以上、阪神大震災の記憶を継承することが使命だと考えてきた。

 臨床宗教師は、東日本大震災の被災地で活動する宗教者たちが、布教を目的とせず、教義の違いを超えて協力し合ったことをきっかけに、24年に東北大大学院で養成が始まった。

 鍋島教授は、被災地での実習先に東北だけでなく、神戸も選んだ。受講生は防災研究・展示施設「人と防災未来センター」(神戸市中央区)や、阪神大震災で両親を亡くした神戸市東灘区の女性宅も訪れた。

 鍋島教授は「死別の悲しみが時を経ても消えないのは、亡くなった人から受けた愛情が深いからだ」と言い、遺族に寄り添う意味をこうとらえている。

 「残された人々の中で生きている愛情は、次世代の命を災害から守り続けたいという願いに通じる。それが防災の本質ではないか」

 臨床宗教師 苦悩や悲嘆を抱える被災者やがん患者らの心のケアに当たる宗教者。相手の価値観を尊重し、布教や宗教勧誘を行わない。宗教は仏教やキリスト教、神道など多岐にわたる。特定の教会に属さない欧米の聖職者「チャプレン」に対応する専門職として平成24年度から東北大、26年度から龍谷大がそれぞれ大学院で養成を始めた。龍谷大では26人が研修を修了済み。19日に新たに7人が臨床宗教師となる。