約9年の時を経て、自身のターニングポイントとなった大作が、本拠地のトップお披露目で巡ってきた。現在、兵庫・宝塚大劇場で上演中の星組公演「スカーレット・ピンパーネル」(潤色・演出、小池修一郎氏)。宝塚歌劇団の星組新トップ、紅(くれない)ゆずるは「不思議な気持ち。最初は懐かしがっていましたが、そんな場合じゃない。相変わらず必死です」と笑う。

 革命後の18世紀末フランスを舞台に、弾圧される貴族を国外へ逃す活動を行う英国貴族パーシーを軸に描く米国発のヒット作。宝塚版は2008年、安蘭(あらん)けい率いる星組で初演。当時入団7年目の紅は、“ラストチャンス”となる、その新人公演で初主演を果たした。必死で本役の安蘭の芝居を見た。が、その時、気付かなかったことを今、感じているという。

 「当時は、とうこ(安蘭)さんのマネをしていただけだった、役の動きや外した目線1つ1つに、感情や意味があると分かった」

 主人公のとらえ方も変わった。揺るがない正義感、という軸があることは大前提だが…。「でも正義感だけで(活動に)突き動かされたのではないんじゃないかと。(芝居も)それだけじゃ、面白くない」

 財力と時間に恵まれて、人として余裕があるゆえ、知力を尽くして“鮮やかに救助する”ことを楽しむ姿や、本音が見えないニヒルさも魅力の1つと考えた。「映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジョニー・デップのように、一癖あるエッセンスを入れたい」

 もっとも、初演から変わらぬことも。演出家、小池修一郎氏の厳しい指導。初演時、紅は洗礼を受けた。「ホントに何もできなかったので。ひと言のせりふも言えず、ほぼ毎日2時間怒られ、『本当に外すよ』とも何度も言われた」と苦笑い。が、人を怒ることは、「愛情とエネルギーが要る。それだけ愛情をかけていただいたと思う」

 今公演の稽古場で、小池氏が妥協を許さず、仲間を厳しく指導している姿を見たとき、「この子を伸ばそうとしている」と感じた。「だから今回、少しでも成長を…。見せられないと悲し過ぎる(笑)。ま、今も怒られているんですが」

 注意されたのは、相手役の娘役新トップ、綺咲愛里(きさき・あいり)との声のバランス。紅は地声が高めで、綺咲は低い。「声を逆にしろ。気持ち悪い。それぐらい計算しろ、と言われ、その通りと(笑)。上級生となり、怒られなくなる中、あえてバシッと渇を入れてくださる先生の思いに応えたい」

 大阪出身。“しゃべり”も達者な明るい新トップは、好奇心旺盛で真面目な努力家。下級生時代から憶せず、何事にも体当たりしてきた。「とにかくまず、やってまえ! で、思いっきり怒られる(笑)。でもそれを先生や先輩方に面白がっていただいた。いろいろやってみることで確立される、自分の道がある」

 組の仲間も個性的だ。“体育会系”の2代前のトップ、柚希礼音(ゆずき・れおん)、“文科系”の前トップの北翔海莉(ほくしょう・かいり)の時代から今も、「ずっと変わらないのは、うるさく、面白いこと(笑)。1人1人の個性が強くて、休憩時間がすごく楽しいんですよ」

 が、その個性を舞台で発揮できず、「ヒューンとなっちゃう」後輩たちを“もったいなく”感じる。「もっと自分を出してええねんでと。引いてばかりだと、自分と役の面白さが出ない。注意されることを恐れず、怒られたら『1ポイント』ぐらいに思うとけ!と(笑)」。時折、“体当たりな後輩”を見つけると「かわいくて仕方がない」とか。

 自身と同様に関西、兵庫出身の相手役に望むことも同じ。「厳しい指導に、負けて(萎縮して)ほしくない。『絶対に引いたらあかん』『やってまえ』『やれ!』と(笑)。前のめりで、と言っています」

 といって、“押して”ばかりではない。繊細で気配りの人である新トップは懐も深い。リーダーとしての心構えは「みんなといっぱい、コミュニケーションをとること」と即答した。

 「大昔の芝居小屋では、主演が共演者の家庭環境まで把握していたと聞いたことがあって。主演は気配って当然。普段の性格は、芝居ににじみ出る。個性を引き出してあげることが、組の活気にもつながる」

 新生星組を、明るく伸び伸びと率いる。

 宝塚大劇場では4月17日まで。東京宝塚劇場は5月5日〜6月11日。