【戦略経営者登場】 総合力で挑むバスのオールラウンドプレーヤー : ヴィ・クルー代表取締役社長 佐藤全

gooニュース×戦略経営者2012年8月20日(月)13:00
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◎佐藤 全 プロフィール
さとう・あきら●1972(昭和47)年宮城県生まれ。大学在学中から放送作家として活躍。その後父親の営む(株)オートパルに入社。2006年車体整備事業部門の分社化にともない設立されたヴィ・クルーに移り、代表取締役社長に就任。現在に至る。


整備から製造まで総合力で挑むバスのオールラウンドプレーヤー

宮城県白石市でバスの車体整備・製造を営むヴィ・クルー。敷地面積1万5000平方メートルの整備工場は東日本最大規模を誇る。佐藤全社長(39)はこれまで果敢に新事業にチャレンジしてきたが、周囲には従業員、会計参与をはじめとした“チーム・ヴィ・クルー”というべき存在があった。

 「昨年の春に下した決断が成果を生み、手応えを感じています。当社のメーンの業務である修理業はいわば下請け的な仕事。修理だけでなくお客さまのニーズに合った車を製造するとなると、会社の立ち位置がまるで変わってきます。いまが攻めどきなので燃えていますよ」

 ヴィ・クルーの佐藤全社長は意欲をたぎらせている。これまでバスに特化した車体整備を手がけてきたが、昨年から本格的に取り組みはじめた製造業務が軌道にのり、事業の柱にまで成長しつつあるのだ。

社員のアイデアで製造に進出

 「これは仕事が無くなる……」。昨年の3月12日。ヴィ・クルー本社に続々と出社してきた社員は互いの無事を確かめあったのもつかの間、誰もが危機感に襲われた。車体整備のうち観光バスが占める比重は圧倒的に大きい。世の中が平穏であってこそ成り立つ観光産業。観光バスの出番が減ればおのずと整備業務が落ち込むことは明らかだ。2006年の創業以来、増収を続けてきた同社が迎える危急存亡のときである。

 佐藤社長は全従業員を集め会社の方向性を話し合った。そこで社員たちから出されたのがバスの車体製造というアイデアだった。

 「まず大型バスを改装し、地元スーパーの移動販売車をつくりました。真夏になるとスーパーにアイスクリームを買いに行けなくなるという話をある人から聞いたことがあります。スーパーがあまりにも遠いため、帰り道の途中でアイスが溶けてしまうというのです。高齢化がすすみ、今後マイカーで買い物に行くことができる人は減っていくでしょう。そもそもバスは人を乗せるために設計されているので高齢の方も乗り降りしやすく、移動スーパーとして使うには持ってこいでした」

 さっそく佐藤社長は自社ホームページにその移動販売車を掲載。これが新たな展開を生むきっかけとなった。ある大手印刷会社社員の目に留まり“移動図書館”の話が持ちかけられたのである。奇貨おくべし。「どこへでも気後れせず突撃していくタイプ」と自らを評する佐藤社長。本を通して被災地に人的交流の場を創りたいという一担当者の熱意に打たれ、プレゼンを行うため東京の印刷会社本社に単身乗りこんだ。まだ東北新幹線が完全に復旧していないころの話である。首尾よく企画は認められ、移動図書館「ブックワゴン(BookWagon)」号が完成した。

 「1冊の本で見知らぬ人同士が話し合ったり、子供たちに読み聞かせをしてあげたり、コミュニティーづくりにつながる素晴らしい取り組みができました。社員たちが考えてくれた車体製造というアイデアをなんとか形にしたいという思いもあったので、印刷会社の社員からメールで問い合わせをいただいたときは本当にうれしかったですね」

 以来車体整備で培ったノウハウを生かし、空港内を走るランプバスや子供たちが中で遊べるプレイバスなども手がけ、製造部門が担うフィールドは着実に広がっている。
 
失敗バネに自社ブランド開発

 20年200万キロ――。一般的にいわれる観光バスの寿命である。だが近年、旅行者の少人数化や放射能問題による外国人観光客の減少など、バス業界を取り巻く環境は厳しい。あまつさえFRP(繊維強化プラスチック)をはじめとした耐久性に優れた素材が車体に用いられるようになり、バスが長寿命化。すなわち修理のサイクルが長くなってきているのだ。 

 車体整備業には「壊れたら修理する」といういわば“待ち”の印象がつきまとう。だが佐藤社長は「ただ堅実に黒字をキープするより、リスクをおそれず挑戦する方が大事」と言いきる。「人と車、地球に元気を与え続けるメーカーを目指す」という経営理念を掲げ、車体整備の枠にとどまらない分野にも挑んできた。

 そのひとつがインターネット上にバスの中古部品を扱うショッピングモールをつくるという壮大な構想である。社内にIT事業部を立ち上げ、大がかりなホームページを開設した。7000万円をつぎ込んだ一大プロジェクトだったが、やがて膨大なランニングコストがヴィ・クルーの収益を圧迫。そこへ取扱商品の不具合が発生し回収を余儀なくされた。

 「経営者は自分が始めた事業はなんとしてもやり遂げたいという思いが強いので、撤退するのは非常に勇気がいりました」

 ショッピングモールを閉鎖したものの、バス業界に中古部品を扱うという新たな芽が生まれたのも事実。 深手を負うまえにインターネット事業から手を引いたことが、その後の業績回復につながった。一転、部品製造に力を注ぎ、日本初のLEDを使用したバス用路肩灯「シャインマーカー(SHINEMARKER)シリーズ」を開発したのである。

 「バスの後輪付近を明るく照らすので、右左折時の巻き込み事故防止に役立ちます。資源の循環を念頭に置き、従来路肩灯に主に使われていた金属と電球を樹脂とLEDに変えました。自社ブランドとして特許を幅広く取得しています」

 シャインマーカーは国内シェアの3割にまで成長。デンソーセールスジャパンをはじめ、全国12社の企業が同商品を扱う代理店として名を連ねている。

方針発表会が一体感を生む

 もともと佐藤社長は大学在学中から放送作家をしていたという異色の経歴の持ち主。根が文系というだけあって「頑張るためにはまず夢が必要」と、ビジョンや夢を掲げることをひときわ重要視している。

 毎年9月30日に行っている方針発表会は、経営方針を浸透させる場でもある。佐藤社長は期の内容を総括し次期の重点テーマを発表するが、あくまで主役は社員。各自が壇上に上がり、1年間の仕事内容を振り返ったうえで目標を宣言するのだ。ホテルの大会議室を貸し切りにし取引先や交流のある地元経営者、金融機関担当者を招くなどして舞台づくりに力を注ぐ。社長は「普段つなぎを着て仕事をしている若い社員たちがスーツ姿で発表しているのを見ると、ぐっとくるものがあります。みんな回を重ねるたびに堂々とうまく話せるようになりました」と目を細める。

 そして注目に値するのが9月30日という日にちである。実はこの日はヴィ・クルーの決算日。1年で最も慌ただしい日に方針発表会を開催するなど、そうそうできることではない。当期の売上高はもちろん、商品在庫数や業績予測など正確に押さえておくべき項目が多過ぎるのだ。

 にもかかわらず、それを可能にしたのは、宮城県中小企業家同友会で知り合ったという青木正顧問税理士の存在。「ヴィ・クルーを設立する前のオートパルという会社の専務だったころから、いつか税務顧問をお願いしたいと思っていた」という意中のひとをむかえ、『FX2(戦略財務情報システム)』を活用した月単位の業績管理、商品の月次棚卸し業務が習慣化していった。

 「以前は期末に棚卸しをするまで売上高がわかりませんでしたが、自計化でリアルタイムに業績を把握できるようになりました」(佐藤社長)

 さらに創業したての会社の信用度を高めるべく、佐藤社長は会計参与への就任を依頼し、青木氏もふたつ返事で引き受けた。

 「当事務所で会計参与に就任している関与先企業様は9社ですが、創業当初から務めているのはヴィ・クルー様だけです」(青木税理士)

 青木税理士はいわばヴィ・クルーの一員として日ごろから社員ともコミュニケーションを密に図り、経営状況を肌で感じることを心がけている。2カ月に1度開かれる取締役会にも出席し、計数面にとどまらない“生きた”経営助言につなげているのだ。佐藤社長はいう。

 「例えば業績が芳しくないときに相談すると、売り上げを伸ばしたり、固定費を抑えたりするヒントをわれわれが気付かない視点から教えていただける。当初決めた計画どおりに進んでいないとき、社内の人間だけだとどうしても『忙しかったから』などといいわけが先行してしまいがちですが、青木先生から『計画はやり遂げないといけない』ときっぱり言われるので雰囲気が引き締まるのです。進ちょく状況がいいときでも叱られますから……『計画が甘い』と(笑)。でも創業間もない当社にとって、現場に即したさまざまなアドバイスをいただけるのは非常にありがたいと感じています」

 そんな自計化→月次業績管理→取締役会というPDCAサイクルの積み重ねがあればこそ、決算日に方針発表会を開催できるというわけである。従業員、会計参与を推進力に成長路線を走るヴィ・クルー。佐藤社長の挑戦は続く。

『戦略経営者』は、中堅・中小企業の経営者の戦略思考と経営マインドを鼓舞し応援する経営情報誌です。1986年9月「TKC全国会」に加盟する税理士・公認会計士の関与先企業(現在約76万社)の経営者を読者対象に創刊されました。TKC会員税理士約10,000人が現場で行う経営助言のノウハウをベースに、独自の切り口と徹底した取材で中小企業経営者にとって真に有用な情報だけを厳選して掲載しています。本誌を発行する株式会社TKCは、TKC会員会計事務所とその関与先企業、並びに地方公共団体向けシステムを開発・提供しています。
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