【ザ・イノベーター】黒川健太 生産者直売のれん会 社長 “1坪売り場”で中小生産者を支援

●イノベーター
黒川健太 生産者直売のれん会 社長
くろかわ・けんた
1975(昭和50)年東京都生まれ。
1999年慶應義塾大学経済学部を卒業。同年4月、株式会社ベンチャー・リンクへ入社。2004年に株式会社三代目茂蔵を設立し、代表取締役社長就任(ベンチャー・リンク子会社として設立)。07年、株式会社生産者直売のれん会を設立、代表取締役社長就任(ベンチャー・リンク子会社として設立)。10年7月にMBOで独立を果たす。
“1坪売り場”で中小生産者を支援
広島県にある八天堂という食品会社がある。昭和8年創業の老舗だが、ここ数年、大幅な業績の伸びをみせている。2008年には年商2億円程度だったものが、都心部の駅ナカ店舗が大ブレークし、前期は10億円を超えるまでになったのだ。最近では4月下旬にオープンした名古屋店が2時間待ちの行列ができるほどの大人気だという。カスタードとパン生地にこだわり抜いた1個200円のクリームパンが飛ぶように売れているのである。実はこの八天堂、当社がはじめたまったく新しい食品流通の仕組みで成功した企業の代表例なのだ。
その仕組みとは、全国で発掘した優れた中小食品企業同士を組織化し、それぞれの商品単品を私たちが仕入れ、駅ナカや百貨店などの空きスペースにつくった即席の1坪売り場で短期間に集中して売り切る、というものである。
たとえば「駅ナカ・百貨店でのスイーツ販売」の他にも、さまざまな業種業態の店頭・店内に売り場を設ける「ショップ・イン・ショップ」の形態で、商店街(酒販店、お茶屋等)、道の駅、農産物直売所など大手資本が入り込まない販路で実績を重ねてきた。いずれの売り場でも多くの小売業のように食品メーカーから商品を買いたたくことは一切しない。
スーパー銭湯のような温浴施設内のスペースも販路として開拓した。豆腐や梅干し、バウムクーヘン、豆菓子などの商品を独立した売り場を並べて売っているのだがこれが大人気なのである。なかにはその売り場で商品を買うのが楽しみで来店頻度が上がったお客さまもいるという。このような出店の仕方で、前述の八天堂のほか、油で揚げない和風の『禅ドーナツ』(東京都)、最高級素材を使用した『王様マンゴープリン』(東京都)、生の味を超える『鯖とろ寿司』(福井県)などの商品が大幅に売り上げを伸ばした。
新しい食品流通を創る
実はかつて、豆腐を酒販店内の1坪程度のスペースで売る、というビジネスを全国に拡大した経験があった。最初に取り組んだのは埼玉県蕨市のある酒販店だったが、その店ではなんと、店主が一生懸命接客した効果もあり、一日2万円、月間50〜60万円の売り上げを稼ぎだすことに成功した。豆腐を買いに来るお客さんが増えるということは、当然本業のお酒の販売も伸びる。瞬く間に全国400店舗のフランチャイズを展開するまでになった。
その事業が一区切りつき、もっと多くの生産者の支援に取り組みたくなった。ひたすらパソコン画面に向き合い、片端から全国各地の食品メーカーのウェブサイトをチェックした。そして経営者の情熱が感じられた会社を私なりにピックアップし、「みんなで力を合わせて新しい食品流通をつくろう」と呼びかけていったのである。結局、私の夢に賛同してくれた中小食品会社約100社が会員となり、2007年に生産者直売のれん会がスタートした。
会員各社の1坪売り場を一カ所に集めたオリジナル店舗を全国展開しようとしたが、最初の2年間は鳴かず飛ばずだった。しかし苦しい状況でも月会費を毎月払ってくれている会員企業のためにも簡単にあきらめるわけにはいかなかった。そこで、多くの企業の売り場をまとめて一カ所で売るという当初のやり方を改め、「この商品は駅ナカ」「この企業は百貨店向き」など、それぞれの商品の売り場として最も適切な場所を別個に選択する現在の手法に変えた。この方針転換が吉と出たのである。
大きな写真を使ったパネルや照明に工夫をこらし、商品が最も輝くような魅力的な売り場づくりに努めたのも成功の要因だろう。
空きスペースを活用した短期の催事販売が基本だったが、ただ長机を広げただけの売り場ではせっかくの優れた商品も色あせたものになってしまう。かといって当初は施工業者を使う資金的な余裕もなかった。そこで、まったくの素人である当社スタッフが見よう見まねで売り場のデザイン・制作を手がけることにしたのである。そのうち売り場の施工は完全に内製化されてしまい、いまでは溶接やLED器具の自作もなんなくこなせる高度なノウハウを身につけてしまった。一番苦しいときに必要に迫られてしていたことだが、そのおかげで魅力ある1坪売り場づくりを低コストで行うことができるようになったのである。
業績は2008年12月期に4億円強だったグループ売上高が2012年に28億円を超え、今期は30億円を上回る見込みだ。13年までの3カ年計画では「局地市場の覇者」をスローガンにかかげており、それぞれの販路についてシェアトップをとることを目指している。リーディングカンパニー不在の市場を狙っていることもあり、駅ナカ催事、温浴施設、商店街などさまざまな分野でトップが視野に入りつつある。
広がる「希望の環」プロジェクト
ところで東北の食品生産者同士が連携する「希望の環」プロジェクトをご存知だろうか。加盟している100社のうち2社が石巻市の会社だったのがきっかけで当社がはじめたもので、1社1社単独で事業を立て直すのではなく、統一ブランド「希望の環」の旗印のもとで復興を目指す、というコンセプトで展開している。津波でサビやへこみが生じた缶詰を『希望の缶詰』と名付け、駅ナカ、商店街、百貨店で催事販売する取り組みが各地で大きな反響を呼び、最近では全国約70の高校の学園祭でも取り上げられるようになった。また2月から地元4社の商品を詰め合わせた「希望の詰め合わせセット」の販売を開始、1箱3150円(送料税込み)の詰め合わせが2〜3月で約1万件売れる驚異的なヒット商品になり地元は大きな希望を感じている。
しかし気がかりなのは震災関連ニュースの減少で復興応援機運が下降してしまうこと。そこで地域新聞社などと提携し、当時の新聞記事や写真を大きく貼り出す「希望の環パネル展」の全国展開をはじめた。今後も、中小食品会社が力を合わせ本当にいいものを適正な価格で消費者に届けられるよう支援する取り組みを続けていきたい。(談)
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