こじま・ふじお
1987年富山県生まれ。大阪府立大学工学部卒、京都大学大学院エネルギー科学研究科中退。2011年11月株式会社ピリカを設立。ピリカはアイヌ語で「美しい」を意味する

ITを駆使し世界からゴミを一掃する

 世界77カ国で利用されているゴミ拾いSNS──スマートフォンアプリ「ピリカ」のプロフィルだ。ユーザーは道端に落ちている空き缶、タバコ、ペットボトルなどのゴミを撮影して場所とコメントを投稿しあう。ゴミを拾うのも捨てるのもあくまでユーザー次第。にもかかわらず、提供5年にして全世界で拾われたゴミは4000万個をこえた。これほど多くの人びとが参加しているのをいぶかる向きもあるかもしれない。
 カギとなっている機能のひとつとしてコメント機能がある。ありがたいことにピリカには熱心なユーザーが非常に多く、投稿するとたちまちコメントや「ありがとう」が寄せられる。まさにSNSの持つ威力だ。1日で最も多くのゴミを拾った人をMVPとして毎日表彰したり、5月3日の「ごみの日」に投稿すると豪華賞品が当たるキャンペーンも開催している。
 いまビジネスの大きな柱となっているのが自治体、企業版ピリカで、こちらはパソコンから専用ホームページを開いて入力できるようになっている。福井県や大阪府などの自治体、大手コンビニエンスストア、食品メーカー等幅広い団体で利用いただいている。
 自治体、企業の清掃活動では一般的に参加人数が多く、収集されるゴミも相当な量になるのでインパクトがとても大きい。業界のライバル企業が触発され、新たにユーザーとして加わるという相乗効果もある。協賛企業からの広告収入や自治体向けレポートの作成、講演活動が目下の収益源だ。
 ピリカを提供開始後3年が過ぎ、拾われたゴミが300万個に近づいたころ、ある疑問が頭をもたげてきた。

AIを活用し見える化
 拾われたゴミは確かに増えているが、数年たったときに町並みが本当にきれいになっていなければ、この取り組みは意味がないのではないかということ。例えばタバコを拾うのを敬遠する人が多ければ、道端にポイ捨てされたタバコはずっと手つかずのままだ。つまり、ピリカの効果を客観的に計る「ものさし」が必要だと考えた。
 そのためには何よりもまず、どこにどんなゴミが落ちているのか現状を正確に把握し、分析するシステムが必要になる。われわれは町に出てゴミの分布調査を行ったが、ゴミを発見する能力には個人差があるということがわかった。野球部出身の調査員は道路脇の茂みの中からゴミをたくさん拾ってきた。視力や注意力は個人ごとに異なる。調査は難航していた。
 「ポイ捨てされたゴミを動画撮影し、コンピューターの最新の機械学習を活用すれば、ゴミを正確に捕捉できるかもしれない」
 取締役の高橋のアイデアを元に、調査員を増やして人海戦術でゴミの読み取りをくり返した。例えば人は名刺を受け取ったとき、ひと目で名刺だと判断できる。過去に数多くの名刺を目にして、イメージがインプットされているからだ。一方、コンピューターに名刺だと認識させるためには従来は長方形、白色……といった情報を覚えこませる必要があった。しかし、人工知能(AI)の進化は目覚ましく、今では名刺の画像データを大量に読みこませれば、かなり高い確率で正確に認識することができる。こうして完成したのがポイ捨て調査・分析サービス「タカノメ」である。

仮説検証をくり返す
 おかげさまで自治体やNPO団体を中心にタカノメの引き合いは増えていて、昨年からことしにかけて、「東京オリンピック会場予定地におけるポイ捨て深刻度調査」に活用された。スマホで路面を動画撮影するとゴミの種類、数量をAIが計測し、地図上にヒートマップとして可視化する。調査を実施してわかったのは、区の境界線はゴミがたまりやすい傾向があること。国立競技場周辺は新宿区と渋谷区が隣接しているが、渋谷区側の方が目立った。データを解析し報告書にまとめるほか、今後、喫煙所やゴミ箱の効果的な設置場所の検討に役立てられる。
 現状は動画で撮影した後、間違いなくゴミであるかどうか社員が目視して確認している。搭載されているAIは日々進化中で、当初歩道の溝をタバコと誤認識するケースがあったが、タバコの落ちていない歩道の画像を大量に学習させることで精度を高められた。ピリカ、タカノメの開発双方に当てはまることだが、仮説を立てて実験を行い検証し、改善策を施してあらためて実験を行うというやり方で、機能をブラッシュアップさせてきた。私自身、理系出身のため、何事も仮説、検証のくり返しだと思っている。
 タカノメによる調査事業は緒に就いたばかりだが、米・ニューヨーク市におけるポイ捨ての実態調査に活用されるなど、手応えを感じている。ゴミ箱の設置場所や道路の舗装素材などにより、人のポイ捨て行動は変化するかもしれない。人のモラルに働きかけるのはむずかしい。われわれは客観的なデータを元に解決策を提示し、世界中のゴミを一掃していきたい。