「メード・イン・ジャパンのエントリーモデルウオッチブランドとして世界一を目指しています」
 こう意欲を燃やすのはKnotの遠藤弘満社長。Knotは遠藤社長が2014年に立ち上げたウェブサイト発の腕時計ブランドで、月間7000〜8000本を売り上げる。昨年東京・吉祥寺にギャラリーショップを開設したのを皮切りに、国内外に4店舗の直営店を展開するなど躍進著しい。国産腕時計市場といえば、大手2社による寡占状態が長らく続いていた。量産国内時計ブランドの誕生は実に80年ぶり。腕時計離れがいわれる昨今、久々のスマッシュヒットである。
 「われわれの提供しているのは単なる腕時計ではなく、カスタムオーダー体験です」と遠藤社長が表現するとおり、人々は自分だけの1本を求めて来店する。好みの文字盤とリストバンド、バックルカラーを選ぶことができ、組み合わせは7000種類にのぼる。衣替え感覚でリストバンドを買い替えたり、家族同士でシェアしたりするリピーターも少なくない。
 時計店で腕時計を試着するとき通常、店員にショーケースから取り出してもらう。どこか敷居が高く感じられるものだが、Knotのギャラリーショップでは自由に手にとり、心ゆくまで腕時計選びを楽しめる。来店客の平均滞在時間が1時間というのもうなずける。
 「ギャラリーショップで耳にするのはお客さまの『楽しい』という声です。洋服や気分に合わせて変えられるリストウエアファッションとして提案しています」
 カスタムオーダー体験をただうたうだけでは、目の肥えた日本の消費者を引きつけることはできない。「高品質」と「低価格」を両立させたところにKnotのすごさがある。
 Knotは国内の時計工場でつくられる。日本の腕時計製造技術はスイスと並び称され、品質は折り紙つき。文字盤の外周をバフ仕上げといわれる技法で磨き上げ、文字盤をおおう風防には強固なサファイアガラスが使われている。リストバンドには京都の伝統工芸である、くみひもを用いたストラップや栃木県の栃木レザーなどを採用し、こちらも日本製にこだわる。
 さらにパートナー工場と直接取引し商品企画、販売も自社で行うため、1本1万円台からという価格を実現できた。国内に数社の時計工場はメーカー同士の奪い合いの状況にあるという。
 「腕時計工場の大半は中国などに移転してしまったため、創業時、日本国内のパートナー工場を探すのに半年ほどかかりました。月産本数が増えて製造を断られた時期もありましたが、最近潮目が変わりつつあります。精密機械部品メーカーなどに業種転換した時計工場がもう一度腕時計製造に挑戦したいと、当社にコンタクトしていただけるケースが増えています」

ファッション性を付加
 Knotを起業する前、遠藤社長は15年間海外腕時計の日本国内販売元として代理店ビジネスに携わっていた。前職社長時代の詳細は本誌既報のとおり(2012年2月号)だが、当時注目を集めていたのが北欧発のシンプルライフだった。腕時計を通して北欧のライフスタイルを紹介することを掲げ、やがてデンマークの腕時計ブランド「スカーゲン」と出合う。日本人の琴線に触れる繊細なデザインが受け、同社による累計販売本数は60万本に達した。その功績がたたえられ、2011年にはデンマークから「デンマーク ヘンリック王配殿下名誉勲章」を授与された。
 授賞式のわずか3カ月後、思わぬ事態に直面する。スカーゲンが世界的な時計ブランドによって買収されたのだ。売上高に占めるスカーゲンの割合は7割。従業員を解雇し、事業規模を縮小せざるを得なかった。
 「二度とあのような思いをしたくないと思いました。当時手がけていたのは卸売りが中心だったため、デパートなどの取引先や海外メーカーに目が向きがちでしたが、本来はお客さまにより良い製品、サービスを提供するのがビジネスの原点であるはずです。次に会社を興すときは自分でブランドを立ち上げ、販売も行おうと決意しました」
 当時、アパレル、メガネ業界では製造販売を一貫して行い、中間コストを排したSPA企業が台頭していた。遠藤社長はこのビジネスモデルに着目する。
 「メガネをかける人が増えたのはコンタクトレンズにはないファッション性という価値をメガネメーカーが追求したからです。翻って腕時計の価値を考えると、時間の正確性という点では携帯電話の方が優れています。ならばこれまでになかった高品質かつ日本人の嗜(し)嗜(し)好(こう)好(こう)に合うブランドを立ち上げ、腕時計をファッションとして打ち出そうと思いついたのです」
 インバウンド需要を見込み高額モデルの販売に力を注ぐ大手ブランドに対し、Knotの目標は若者をはじめ腕時計愛好者の裾野を広げること。その方向性は明らかに異なる。遠藤社長は腕時計技術者養成を行う専門学校で教鞭(きようべん)教鞭(きようべん)をとるなど、技術者の育成にも余念がない。来春には吉祥寺に自社工房も開設する。
 「会社名のKnotには絆とか結ぶという意味があります。現在ウェブ会員には7万人ほど登録いただいていますが、Knotを通して腕時計の魅力をより大勢の人たちに伝えていきたいです。お客さまに喜んでいただければ、作り手であるパートナー工場の活性化につながります。お客さま、生産者、当社の三者の結びつきをより強固にしていきたいですね」
 遠藤社長の思いは着々と結実しつつある──。

COMPANY DATA
株式会社Knot
設 立 2013年10月
所在地 (店舗)東京都武蔵野市吉祥寺本町2-33-8
売上高 7億8000万円
社員数 12名
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