日本はこのままでロシア・ワールドカップに辿り着けるのか。アジア最終予選の初戦で格下と目されたUAEに逆転負けを喫し、さらに「1998年のフランス大会以降、アジア最終予選で黒星スタートのチームは予選突破の確率が0パーセント」と不吉なデータもあることから、このところハリルジャパンの危機説をあちらこちらで耳にするようになった。
 
 確かに、UAE戦を「たかが10分の1の敗戦」と楽観的に捉えるのは危険だ。2戦目でタイに勝利したが、最終予選において勝点3が必須のホームゲームで引き分けにさえ持ち込めなかったのはやはり痛い。しかも、極めて重要な初戦で──。
 
 なにより懸念されるのは、精神的なダメージだ。勝ち星を重ねて?貯金した後?に黒星を喫した過去2大会の最終予選(ブラジル大会の最終予選は6戦目で、南アフリカ大会は最終戦で初黒星)と違って、今回はいきなり借金を背負わされた格好である。
 
 その分余裕がなく、「もう負けられない」というプレッシャーが大きなミスにつながる可能性はある。実際、数多くのチャンスがありながら2ゴールしか奪えなかったタイ戦の決定力不足も、余裕のなさが原因だったと、そんな見方もできなくはない。
 
 おそらく10月シリーズのイラク戦(ホーム)とオーストラリア戦(アウェー)は、「もう負けられない」というプレッシャーとの戦いにもなるはずだ。開幕2連敗で後がないイラクは死に物狂いで挑んでくるだろうし、一方で開幕2連勝のオーストラリアは紛れもなくグループ最大の難敵。強靭なメンタルが求められるこの2試合のうちひとつでも落とすと、日本は崖っぷちに立たされる。
 
 というのも、データで判断するかぎり、過去5大会のアジア最終予選で3敗以上したチームは本選に辿り着いていない。例えば、日韓大会のUAEはアジア地区プレーオフ、ドイツ大会のバーレーンは北中米&カリブ海地区との、南アフリカ大会のバーレーンはオセアニア地区との、ブラジル大会のヨルダンは南米地区との大陸間プレーオフでいずれも敗退。
 
 要するに、今回各グループの3位に入ってプレーオフの出場権を手にしたとしても、本大会への道のりは極めて険しいのだ。アジア勢にとって大陸間プレーオフは鬼門になっているのである。
 
●アジア地区プレーオフ(第1戦:17年10月5日 第2戦:17年10月10日)
最終予選の各組3位の2か国がホーム&アウェー方式で戦う。勝者が大陸間プレーオフに。
●大陸間プレーオフ(開催期間:17年11月予定)
アジア地区プレーオフの勝者が北中米&カリブ海地区の5次予選の4位(アメリカ、パナマ、 ホンジュラス、コスタリカ、メキシコ、トリニダード・トバゴのいずれか)とホーム&アウェーで 戦う。勝者が本大会出場権を獲得。
 ちなみに、過去5大会で大陸間プレーオフを制したのは、98年大会のイランだけ。当時オセアニア地区代表のオーストラリアを下した彼らも、アジア最終予選では?2敗?しかしていない。
 
 負け数はともかく、すでに1敗の日本は敵地のオーストラリア戦でさえ落とせない状況と言っても大袈裟ではない。なぜなら、スケジュール的に来年のほうが明らかに厳しいからだ。

 今年はホームゲームが3試合と比較的楽だが、来年はホームゲームが2試合のうえに、アウェーゲームの3試合がすべて中東なのである。前回の最終予選でも同じ中東のヨルダンに敗戦を喫している点を考えると、どこか頼りない今の日本代表では……。

 埼玉スタジアム2002での激闘を制して自信を得たはずのUAEに、果たして日本はアウェーで勝てるのだろうか。
 
グループBの順位表(9月6日現在)
1位 オーストラリア 勝点6(2勝/3得点・0失点)
2位 サウジアラビア 勝点6(2勝/3得点・1失点)
3位 日本 勝点3(1勝1敗/3得点・2失点)
4位 UAE 勝点3(1勝1敗/2得点・2失点)
5位 イラク 勝点0(2敗/1得点・4失点)
6位 タイ 勝点0(2敗/0得点・3失点)
 
日本代表の今後のスケジュール
2016年
9月1日 W杯予選1節 UAE(H) ●1−2
9月6日 W杯予選2節 タイ(A) ○2−0
10月6日 W杯予選3節 イラク(H) 埼スタ
10月11日 W杯予選4節 オーストラリア(A) ドックランズ
11月11日 親善試合 オマーン(H) カシマ
11月15日 W杯予選5節 サウジアラビア(H) 埼スタ
2017年
3月23日 W杯予選6節 UAE(A) 会場未定
3月28日 W杯予選7節 タイ(H) 会場未定
6月13日 W杯予選8節 イラク(A) 会場未定
8月31日 W杯予選9節 オーストラリア(H) 会場未定
9月5日 W杯予選10節 サウジアラビア(A) 未定

 過去5大会のワールドカップ最終予選、日本は中東勢とのアウェーゲームで5勝1分2敗と勝ち越しているが、10年大会のカタール戦以外はすべて接戦だ。前回大会のオマーン戦も、0―1で迎えた77 分に一旦は追いつかれ、終了間際の89分に岡崎慎司のゴールでなんとか突き放すという展開だった。
 
 そう考えると、来年、中東勢との3試合で全勝するのはタフなミッションに映る。できれば、最終節のサ ウジアラビア戦の前にグループの2位以内を確保して本大会出場を決め たいが、UAE戦の黒星でそういう 計算も現時点ではしにくい。
 
 いずれにしても、年内の残り3試合でどれだけ勝点を積み上げられるかが大きなポイントだ。イラク、オーストラリア、サウジアラビアを叩いて4勝1敗とすれば希望は膨らむが、逆にひとつでも引き分けると精神的にもさらに追い込まれる。
 
過去5大会のW杯最終予選
中東勢との日本のアウェーゲームの戦績
※自国開催の02年大会は予選免除
98年大会
UAE △0−0
06年大会
イラン ●1−2
バーレーン ○1−0
10年大会
バーレーン ○3−2
カタール ○3−0
14年大会
オマーン ○2−1
ヨルダン ●1−2
イラク ○1−0
 UAEとの予選初戦をモノにしていれば「ドローでもOKだった」アウェーのオーストラリア戦が、「ドローでも厳しいか」という状況になったのは誤算だろう。過去2大会の最終予選でオーストラリアに一度も勝ったことのない日本(3分1敗)が、果たしてこのグループ最大のライバルから白星を掴めるだろうか。
 
 このように不安要素は複数あるものの、ただ、「アジア最終予選で黒星スタートのチームは予選突破の確率が0パーセント」というデータを鵜呑みにすべきではないだろう。そもそも、今回と過去5大会のワールドカップでは最終予選に参戦しているチーム数が違う。

 98年、02年、10年、14年大会は計 10か国、06年大会は計8か国だったが、ロシア大会は計12か国。 つまり、試合数が増えた分、1敗の重みは多少なりとも軽くなったという見方もできるわけだ(今回は3敗以上してもグループの2位以内を確保できるかもしれない)。
 
 さらに、過去5大会のアジア最終予選で初戦黒星のチームを挙げると以下のようになる。98年大会/カザフスタン、ウズベキスタン、中国、クウェート、カタール、02年大会/タイ、ウズベキスタン、06年大会/北朝鮮、クウェート、10年大会/バーレーン、ウズベキスタン、UAE、14年大会/ウズベキスタン、レバノン、オマーン。そう、ほぼアウトサイダーなのだ。
 
 韓国、イラン、オーストラリアといったアジアの強豪国は見当たらず、日本サッカー協会の西野朗・技術委 員長がUAE戦後に「(過去に)日本チームにそういうこと(初戦を落 とす状況)があったわけではなく、あくまで他国のデータ。日本は今、まったくそういうこと(ジンクス)は考えていないし、前に向かって行くだけ」と、強気に語ったのも頷ける部分はある。
 
 だからといって、日本代表が今回のアジア最終予選で危機的状況にある事実は変わらない。10月6日のイラク戦に敗れれば、それこそ緊急事態。初戦黒星のジンクスを深刻に捉える必要はないが、「日本はワールドカップに出て当たり前」という感覚は一旦捨てるべきだ。
 
 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督も、サッカーダイジェストの独占インタビューで日本サッカーの現状についてこう述べていた。
 
「日本のフットボールは今、下降線 を辿っていると思います。そしてラ イバルたちは成長曲線を上向きに描 いています」
 
 もっとも、かつてないような、少なくとも93年のJリーグ誕生後に初めて直面した「最終予選で初戦黒星」という苦境を乗り越えてワールドカップの出場権を掴めれば──。それはそれでチームの成長につながるのではないだろうか。日本にとって、良い意味での試練にしたい。
 
文:白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)