ヨーロッパリーグでイスラエルの無名チーム(ハポエル・ベエルシェバ)に0-2の敗北を喫した先週木曜日(9月15日)、サン・シーロにはインテリスタのブーイングが鳴り響き、気の早いマスコミはさっそくフランク・デブール新監督の解任説をぶち上げたものだった。
 
 ところが、それから3日後の9月18日に同じサン・シーロで仇敵ユベントスに2-1で逆転勝ちし、さらに続く9月21日にもエンポリを2-0で一蹴。インテルの周囲は1週間前とは正反対の明るくポジティブな空気で満たされ、デブール監督にもその手腕を讃える賛辞が降り注いでいる。
 
 たった1週間で地獄から天国へ――。絵に描いたような「手のひら返し」は、イタリアのマスコミとサポーターの十八番である。
 
 ハポエル・ベエルシェバ戦の翌日、デブール監督には手厳しい批判が降り注いだ。開幕から4試合(セリエAが3試合、ELが1試合)の結果は1勝1分け2敗。3バック導入の失敗(キエーボとの開幕戦)にはじまり、試合ごとにシステムとメンバーを入れ替え、しかもELではターンオーバーに失敗しての完敗という試行錯誤の連続に対して、スポーツ紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』は一面トップに「インテル、恥ずかしくないのか?」という大見出しを掲げ、「サン・シーロは真っ暗。見るに堪えないインテル。戦術もなければハートもない」と酷評した。
 
 また一般紙『ラ・レプブリカ』も、「デブールを監督に選んだのは大きな過ちだった。次の国際Aマッチウィークまでの5試合で流れを変えられなければ解任は必至。後任候補にはチェーザレ・プランデッリ(元ガラタサライ監督)、ファビオ・カペッロ(元ロシア代表監督)の名前が挙がっている」と書き立てた。
 
 続く週末のイタリア・ダービーの前日には、ハポエル・ベエルシェバ戦の前半だけで交代を告げられ、ハーフタイムのロッカールームで監督と口論したマルセロ・ブロゾビッチが、その懲罰としてベンチ入りのメンバーから外されるというトラブルがマスコミを騒がせた。
 こんな状況のため、ユーベ戦を前にしてインテルの巻き返しに賭け金を投じようという向きはほとんどなかった。大手ブックメーカー『SNAI』のオッズも、インテル勝利4.50/引き分け3.30/ユーベ勝利1.90という数字だったほどだ。
 
 ところが蓋を開けてみれば、インテルがアグレッシブなハイプレスでユーベを困難に陥れ、66分に先制を許したものの2分後の68分にマウロ・イカルディのゴールで追いつき、78分にはイバン・ペリシッチが決勝弾をゲット。最後は敵の猛攻をなんとか弾き返し、見事な逆転勝利を収めた。
 
 サン・シーロを埋めたインテリスタは、ジョゼ・モウリーニョ時代以来というホームでのイタリア・ダービー勝利に酔いしれ、試合終了後もスタンドに残ってチャントを歌い続けた。
 
 ちなみにこの日は、今夏に新オーナーとなった中国・蘇寧グループの張近東会長が、新スタジアムの構想を巡ってミラノ市長と会談する目的もあって現地入りしており、前オーナーでとりあえず会長職に留まっているエリック・トヒルとともにサン・シーロに姿を見せていた。
 
 張近東オーナーは試合後、チームとスタッフの総勢60人をミラノ市内の高級中国料理店に招待。フカヒレスープから北京ダックまでの各種料理、そして中国の中秋節を祝う月餅を振る舞ったという。
 
 翌日のガゼッタ・デッロ・スポルト紙は、「クレイジーなインテル」という大見出しを掲げ、「ひとつのチームが誕生した。リードされながらイカルディ、運動量、戦術で勝利を掴む」と、3日前と同じ新聞とは思えないほど持ち上げた。
 
 また、ラ・レプブリカ紙も「戦術的ディシプリン、虎の眼差し(アイ・オブ・ザ・タイガー)、勝利を求めるハングリー精神。そこにはデブールの手が見て取れる」と、3日前にこき下ろした監督を一転して賞賛した。
 この「手のひら返し」はともかく、イタリア・ダービー勝利がインテルを取り巻く空気を文字通り一変させたことは間違いない。それまではすべてのマスコミ対応を英語でこなしていたデブール監督は、試合後に『インテル・チャンネル』のマイクに対してたどたどしいながらもイタリア語で受け答えし、その後は続くエンポリ戦の前日会見、試合後のインタビューも含め、すべてをイタリア語に切り替えた。
 
 マスコミに対して張っていたバリアを緩め、よりストレートなコミュニケーションを取ろうという姿勢に方向転換したことは明らかだ。それだけ気持ちに余裕が出たということだろう。
 
 そして、ミッドウィークのエンポリ戦でも勝利を収め、首位ユーベと2ポイント差の3位タイに浮上した今、1週間前の「監督解任か?」から一転して、インテルの周囲では「スクデット」という言葉までが飛び交い始めている。
 
 もちろん、これもまた目先の結果がもたらした一時的な感情の起伏の結果でしかないことは明らかだ。インテルがモウリーニョ時代以降の6年間陥ったままの混迷から本当に抜け出すには、マスコミとサポーターの一喜一憂、そしてそれがもたらす巨大なプレッシャーを受け止めつつ、それに振り回されない明確なアイデンティティーと結束をチーム、そしてクラブが確立することが不可欠。新オーナーの蘇寧グループ、そして新監督のデブールの力量が問われるのはこれからだ。
 
文:片野道郎
 
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【著者プロフィール】
かたの・みちお/1962年生まれ、宮城県仙台市出身。1995年からイタリア北部のアレッサンドリアに在住し、翻訳家兼ジャーナリストとして精力的に活動中だ。カルチョを文化として捉え、その営みを巡ってのフィールドワークを継続発展させている。『ワールドサッカーダイジェスト』誌や当サイトでも、ロッシ監督とのコラボによる戦術解説や選手分析が好評を博す。