10月のワールドカップ・アジア最終予選が近づいてきたが、ここで問いたいのは「日本は本当に弱くなったのか?」だ。2015年1月のアジアカップを比較対象に、ここまでのハリルジャパンの歩みについて、4人の識者に裁決を仰いだ。
 
識者1 熊崎 敬氏の回答
Q:日本は本当に弱くなっているのか? A:はい
 
 アギーレ体制で臨んだアジアカップでは、4試合連続で同じスタメンが起用され、最後に足が止まった。あの頃に比べると、選手層は厚みを増していると思う。
 
 もっとも、方向性としては退歩した印象が否めない。アギーレはピッチの幅を生かし、 選手が適度な距離を保ったプレーを推進。志半ばで退任したが、そのスタイルはピッチ上でそれなりに表現され、論理的にも説得力があった。だがハリルホジッチが監督に就任して、目指すべき方向性が曖昧になった。
 
 振り返ればハリルホジッチ監督は就任直後、縦に速いサッカーを打ち出した。理に適って はいるが、実際には形になっていない。むしろ最近は日本の悪しき伝統が蘇っている。
 
 本田や香川が中央に集まることで発生する、車線の少ない「大渋滞サッカー」だ。中央突破に固執して実りのない90分を過ごしたUAE戦は、南アフリカ大会前の、にっちもさっちもいかなくなった岡田ジャパンと重なる。
 
 日本の課題を打破する(という期待のなかで就任した)はずの指揮官が、悪い意味で日本らしいサッカーをやっているのは皮肉だ。アジアの中の日本は「負けても仕方がない国」から「頑張れば勝てる国」に変わりつつある。
 
 現状を打破する特効薬は見当たらないが、ひとつには親善試合でのベストメンバー主義をやめることだ。チケットを売り、視聴率を稼ぎたいのも分かるが、練習試合なのだ。積極的に若手を起用して競争を煽るべきだろう。
 
PROFILE
くまざき・たかし/1971年生まれ、岐阜県出身。本誌記者 を経て、2000年にフリーランスへと転身。世界のサッカー事情に精通し ており、様々な媒体で健筆を振るう。サッカー以外の分野にも明るい。


識者2 二宮寿朗氏の回答
Q:日本は本当に弱くなっているのか? A:どちらとも言えない
 
 弱くなったというより、過渡期にある難しさに直面しているところだと思う。本田、香川、長谷部、岡崎ら常連メンバーがチームの中心であることに変わりはなく、チーム自体 にマンネリ感が強く出ているように感じた。
 
 UAE戦では1‐2とリードされて残り約30分もあるなかで、ゴールを奪い取ることができず、敗北を受け入れてしまった。経験のある選手たちが多くいたにもかかわらず、だ。過去にアジアで勝ってきた、最終予選を勝ち上がってきた経験が、逆に慢心につながった可能性はなかったか。
 
 刺激を入れるべき時期が訪れているのは間違いない。敗北という「結果」を発奮材料にして、タイ戦では立て直してきたが、2敗目など許されない今後は、「競争」で刺激を入れていく必要があるように思う。
 
 そのためには新しい人材の「突き上げ」が求められる。個人的には、国内組にもっと活気づいてもらいたい。減少一途の強化合宿を増やし、ハリルホジッチ監督が直に指 導できる機会を増やしていくべきだろう。
 
 オシムジャパンが国内組を基盤としてチームを作ったように、国内組の選択肢が広がっていけば、戦力を底上げできる。現在、国内のスケジュールはパンパンで、試合以外に代 表が使える期間は限られている。アジア全体のレベルが上がり、易々と勝ち上がれる時代ではない。「所属クラブで成長してくれればいい」ではなく、日本協会としても底上げで きる環境を整備していかなければならない。
 
PROFILE
にのみや・としお/1972年生まれ、愛媛県出身。95年にスポーツニッポン新聞社に入社し、サッカーや格闘技などを担当。2006年に 退社後はNumber編集部を経て、現在はフリーランスとして活躍している。
 
識者3 後藤健生氏の回答
Q:日本は本当に弱くなっているのか? A:いいえ
 
 昨年のアジアカップではUAE相手に一方 的に押し込みながら、カウンターで先制され、なんとか同点にはしたもののPK戦で敗れてしまった。望ましいことではないが、そういう負け方なら想像はできる。
 
 だが、早い時間帯に先制しながら試合の進め方を誤り、逆転されるなど決してあってはならない負け方だ。ただ、その事実をもって「昨年より弱くなった」と断ずることはできない。埼玉でのUAE戦では海外組のコンディションの悪さが 最大の敗因だったからだ。
 
 チームとしてトレーニングの時間も持てたアジアカップの時と比べるには、あまりに条件が違いすぎる。しかし、「強くなっているか」と問われれば、答は明らかに「NO」だ。アジアカップはアギーレ前監督の就任からわずか半年で迎えたのに対して、ハリルホジッチ監督は就任からすでに1年半が経過し、2次予選もともに戦ってきたはず。本来ならアジアカップより強くなっていて当然だろう。
 
 今後も海外組を含めた合宿を実施する時間などないのだから、急速にチームを強化できるとも思えない。その時点でコンディションの良い選手を使い、ベテランの力を借りながら最終予選を乗り切るしか方法はないだろう。
 
 9月の2試合でアジアの予選の厳しさは身に染みたはず。監督に求めるのは、その時々の選手のコンディションの見極めと、本田や香川といった主力といえども、状態が悪ければメンバーから外す決断力だけだ。
 
PROFILE
ごとう・たけお/1952年生まれ、東京都出身。慶応大学法学部大学院修了。64年の東京五輪をきっかけにサッカーの虜となり、ワールドカップは74年の西ドイツ大会から欠かすことなく取材している。
 
 
識者4●浅田真樹氏の回答
Q:日本は本当に弱くなっているのか? A:はい
 
 現在の日本代表は、アジアカップ当時より弱くなっているばかりか、それ以前から?ず っと弱くなり続けている?。おそらく強さのピークはザッケローニ時代の11年夏から12年夏頃。「たられば」の話だが、もしワールドカップが12年に行なわれていれば、日本はベスト8を十分に狙えたと思う。当時からすでにチームが完成するのが早すぎるとは感じていたが、案の定、徐々に下降線を辿り、現在に至っている。
 
 理由は単純。主たる選手が入れ替わっていないからだ。本田、長友、岡崎ら北京世代は 10年のワールドカップ当時、まだ20代前半で伸びしろが十分にあった。同じメンバーで戦い続けることでチームの成熟もあったが、個々の強化によって日本代表は強くなった。
 
 だが、16年現在、北京世代は30歳前後となり、伸びしろを期待するどころか、むしろ衰えを心配する年齢になった。経験によるプラスアルファはあるにせよ、今後飛躍的な成長はありえない。このまま手をこまねいていれば、ジリ貧になることは目に見えている。
 
 やはり清武を旗頭とするロンドン世代が中心となり、大島、浅野らのリオ世代を加え、 北京世代が随所でアクセントになるくらいが、日本代表の将来を考えても理想的な年齢構成 だろう。世代交代によって、一時的に多少弱くなったとしても、このままでは悪化の一途を辿るだけ。北京世代に頼り続けることは、問題の先送りに過ぎない。
 
PROFILE
あさだ・まさき/1967年生まれ、新潟県出身。6大会連続で現場取材中のワールドカップをはじめ、国内外を問わず精力的に動き回る。また、アンダー世代も追い、若年層の取り組みにも造詣が深い。