準々決勝でU-16UAE代表を1-0で下し、来年のU-17ワールドカップ出場を決めたU-16日本代表。まずは至上命題を達成し、次はアジアチャンピオンという新たな目標に舵を切った。
 
 間違いなくこのチームはアジアの中でも1、2を争う力を持っている。インドでも日本チームの強さはもっぱらの評判だ。
 
 そして、このチームを作り上げたのは森山佳郎監督に他ならない。森山監督のキャラクターは『ユーモアの塊』。希代のモチベーターでありながら、それでいて、強烈な厳格さを持ち合わせている。まさに『柔剛兼備のボス』だ。
 
「戦っていない選手は許さない」
 
 広島ユース時代からこう語っていたように、選手たちには常に全力でぶつかっていく。象徴的なのはハーフタイムでの『熱さ』を伴う振る舞いだ。不甲斐ない戦いをしていれば、全身を使って檄を飛ばし、選手のハートに火を点ける。
 
 Jヴィレッジで行なわれたある年の日本クラブユース選手権。前半不甲斐ない戦いでリードを許し、ハーフタイムに引き上げて来た広島ユースの選手たちに対し、森山監督はベンチに置かれたテントの柱を叩いて、「なんで戦わないんだ! これでいいのか! 戦わないで終わっていいのか!?」と、聞き耳を立てずとも相手ベンチにも聞こえるほどの声で檄を飛ばした。
 
 強烈な森山監督の魂が注入されたチームは、その後劇的な逆転勝利を収め、選手たちが森山監督とともに喜びを爆発させる姿は、まさに全員から『勝ちたい』という気持ちに溢れていた。
 
 今大会はハーフタイムにロッカールームに下がるため、その姿を見ることは出来ないが、毎日のトレーニングの冒頭には、選手全員を集め、必ず熱い言葉を投げかけている。
 
「いいか、俺たちはまだなーーーんにも手にしていない! 決定戦(準々決勝)に勝ってようやくひとつ成し遂げたことになるんだ」
「もっと『俺を出せよ!』という気持ちでやってほしい」
 
 毎日変わる言葉の一つひとつに愛と情熱、そして厳しさが感じられる。それが選手たちに伝わっているからこそ、どの日の練習も選手たちのモチベーションは高く、明るさと激しさが伴っているのだ。
 
 またチームメイトは仲間ではあるが、個で見ればしのぎを削り合っている者同士、チームは戦う者が集まる集団だ。このバランスを取ることが非常に難しく、それを上手くオーガナイズしていることも、森山監督の指揮官としての大きな能力のひとつと言える。
 
 今回のU-16日本代表の遠征に団長という立場で関わっている日本サッカー協会の西野朗技術委員長は、森山監督のマネジメントの巧さを次のように語ってくれた。
 
「彼は基本的に厳格ですよ。でもどこかに緊張感を解くというか、遊び心ではないけど、選手一人ひとりがプレッシャーから離れる場所を作って、うまく話などで持っていくやり方をする。それは素晴らしい。1年半の積み重ねもあるし、短期間でもそういう雰囲気作り、モチベートが出来る。それは育成のなかで一番大事なこと。当然いい選手は居ますが、それをステップアップして次のステージに上げるための厳しさもあるし、サッカーの本質、楽しさ、素晴らしさを上手く伝えているなと思います」
 
 かくして、『育成のスペシャリスト』に導かれたチームは世界への切符を手にした。稀代のモチベーターは、その先に見据えるアジアチャンピオンの座、そして来年のU-17ワールドカップに向けて、さらに選手の心に火を点ける。
 
取材・文:安藤隆人(サッカージャーナリスト)