去る9月27日、ローマのフランチェスコ・トッティが40歳の誕生日を迎えた。
 
 ここ10年のセリエAにおいて、フィールドプレーヤーで40歳まで現役だったのは、パオロ・マルディーニ(元ミラン)、ハビエル・サネッティ(元インテル)というふたりの「バンディエーラ」(旗頭=チーム/クラブのシンボルの意)だけ。やはりローマの絶対的なバンディエーラであるトッティもまた、同じように歴史に名を刻むことになった。
 
 マルディーニとサネッティはともにDFだったが(後者はしばしばMFも務めた)、トッティはテクニックはもちろんスピードやクイックネスにおいてもより高いレベルが要求されるFW。このポジションで40歳になっても現役を続け、しかもピッチに立てば決定的な違いを作り出すトップレベルのFWというのは、近年ではほとんど例がない。
 
 同様に40歳まで現役を続けたライアン・ギッグス(元マンチェスター・U)にしても、晩年の主戦場はウイングではなくセントラルMFだった。
 
 ちなみに、同じ1976年9月生まれで、22日に40歳を迎えたロナウド(元インテル、R・マドリーなど)の今(もはや元フットボーラーとは思えない体型)と比べてみると、その違いに驚かされる。
 
 さて、トッティのこの記念すべき40歳の誕生日は、あらゆる意味でマスコミを騒がせる一大イベントになった。その“イントロ”となったのは、誕生日前日の26日付の『ガゼッタ・デッロ・スポルト』に掲載された、トッティの妻でありイタリアで指折りの人気を誇る女性タレントでもある、イラリー・ブラージの独占インタビューだ。
 
 直前までまったく情報が漏れておらず、完全なサプライズだったこのインタビューは、ローマの周辺を大きく揺さぶることになった。今年2月に起こったトッティとルチアーノ・スパレッティ監督との対立騒動(トッティがTVの独占インタビューで出番の少なさに不満を訴え、それを受けた監督が翌日の試合の登録メンバーからトッティを除外して家に送り返した事件)に、イラリーが言及し、スパレッティの当時の振る舞いを強い口調で非難していたからだ。
 
※2016年2月の「トッティ騒動」核心記事
 
「あの時、フランチェスコは自分の家から追い出されたって、はっきりそう書いてね。ありえないし、あってはならないことだわ」
 
「監督としての選択を非難するつもりはないわ。人としての振る舞いについて非難しているのよ。スパレッティはちっちゃい奴だっていうこと。それが真実よ。彼は口では素晴らしいことも言っていたけど、それは口だけ。 実際にはフランチェスコの存在に我慢できないのよ。人生の重要で難しい時期に直面している人間に対して、取っていい態度と悪い態度があるでしょ?」
 ガゼッタ・デッロ・スポルト紙が、一面に「イラリー・ショック」、「スパレッティは私のフランチェスコを我慢できない。ちっちゃい奴」という刺激的な見出しを打って煽ったこともあって、その日のイタリア・メディアやSNSはこのインタビューをめぐる報道で持ち切りとなった。
 
 その論調は、どちらかというとイラリーに批判的なもの。「内容はともかくタイミングが最悪」、「フランチェスコの誕生日を台無しにした」といったまっとうな意見が大半だったものの、「女にはサッカーがわからないんだから黙ってろ」、「スパレッティがクビになったらイラリーが監督やるのか?」という類いの性差別的なコメントも中には見受けられた。
 
 これに対して「火消し」に走ったのが本人。前日の夜、家に帰ってきたイラリーにインタビューのことを初めて聞かされたというトッティは、掲載日の午後になって、ツイッターで次のようなコメントを発表した。
 
「イラリーの言葉は、昨シーズンの出来事で彼女がどれほど辛い思いをしたか、改めて分からせてくれた。でも今は、パロッタ会長、スパレッティ監督と完全に波長が合っている。監督のことは心から尊敬しているし、会長とも率直で誠実な関係を築いている。3人とも同じひとつの目標、ローマの栄光に向かって力を合わせている」
 
 こうして、異常なほどの大きな注目が集まることになった誕生日は、通常は午後に組まれている練習が午前中に移されるなど、ローマのスケジュールまでもそれに合わせて変更されるほどだった。
 
 練習が終わった昼前には、トッティの父エンツォ氏がシャンパンとポルケッタ(子豚の胴体に詰め物をしたハム)をトリゴリア(ローマの練習場)に持ち込んで、それを囲んで選手とスタッフの全員が集まって乾杯した。
 午後が完全オフになったのは、22時からローマ郊外のトール・クレシェンツァにある城で300人の招待客を集めた盛大な誕生パーティーが開かれる予定だったから。ブラックタイ着用のドレスコードが設定されたこのパーティーは、すべてイラリー主導で計画されたもので、トッティ本人は準備にはまったく関与していないと伝えられている。
 
 事実、このパーティーをめぐるメディア戦略の周到さは、サッカー選手というよりも芸能人のそれに近いものだった。
 
 誕生日当日になると、トッティのSNSアカウント(フェイスブック、インスタグラム、ツイッター)には、リオネル・メッシ、アレッサンドロ・デル・ピエロ、アンドレア・ピルロから、ウサイン・ボルト(ジャマイカの陸上選手)、ラファエル・ナダル(スペインのテニス選手)、ロジャー・フェデラー(スイスのテニス選手)まで、多くの著名人からのビデオメッセージがアップされた。
 
 そして、パーティー自体も、参加者にSNSへの写真アップなど情報リークが厳禁された一方、トッティのフェイスブック・オフィシャルアカウントでライブ中継が配信された。
 
 こうして考えると、2日前のガゼッタ・デッロ・スポルト紙に載ったインタビューもまた、このイベントを盛り上げるための“仕込み”の一部だったのかもしれない。だとすれば、イラリーの狙いはまんまと成功したことになる。
 
 トッティが今シーズンもしくは来シーズン限りで引退するというのは、もはや既定路線。にもかかわらず、2月にスパレッティ監督との確執が表面化した時に本人が口にしていた通り、トッティはまだ引退後について具体的な構想を何も持っていないし、それを準備しようという強い意思もまだ持てずにいる。
 
 それを見かねたイラリーが、自ら主導して引退後へのレールを敷こうとしているのが、今の状況なのかもしれない。サッカー界のスーパースターと芸能界のトップスターというカップルで思い出すのは、デイビッド&ヴィクトリアのベッカム夫妻。ご存知の通りベッカムは引退後、ヴィクトリアの手引きもあって芸能界で活躍している。
 
 トッティ夫妻はそのイタリア版とでもいうべき道を歩むことになるのだろうか。
 
文:片野道郎
 
【著者プロフィール】
1962年生まれ、宮城県仙台市出身。1995年からイタリア北部のアレッサンドリアに在住し、翻訳家兼ジャーナリストとして精力的に活動中だ。カルチョを文化として捉え、その営みを巡ってのフィールドワークを継続発展させている。『ワールドサッカーダイジェスト』誌や当サイトでも、ロッシ監督とのコラボによる戦術解説や選手分析が好評を博す。

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