「15日前に所属クラブに連絡しなければならない。大迫がゴールを決めたのはそのあとだった」
 
 9月29日、10月のワールドカップ・アジア最終予選メンバーを発表したハリルホジッチ監督は、現在ブンデスリーガで2戦連続ゴールと活躍するケルンの大迫勇也の名がリストにないことをそう説明した。
 
 同時に「1、2点獲ったからといって、すぐに代表に呼ぶわけにはいかない。ただし大迫にもチャンスはある」とも語っている。「ここ3試合でスタメンを勝ち取り」とも話したが、実際には開幕戦はベンチスタートだったものの第2節から先発起用されて、4試合連続スタメンである。「追いかけている」というが微妙に間違っていた。
 
「数か月スタメンで出られず、ケルンのグループにも入っていなかった。出場した時も中盤あたりのポジションだった」というのは確かにその通りで、2014年夏にケルンへ移籍してからは、苦しい時期が続いていた。

 今年2月20日に観たボルシアMG戦では、先発に名を連ねたが、アウトサイドで起用され、大迫の持ち味を見せることができずに途中交代している。サイドで活きる選手ではないだけに、下がりながら守備に追われる大迫を見て、「もったいないな」と強く思った。
 
 2014年1月ブンデスリーガ2部の1860ミュンヘンに加入した大迫は、15試合に出場し6得点をマークしているが、この時も順調とは言い難い環境だった。1トップに立ちながらも、なかなかパスが出てこない。鹿島アントラーズで見せていた細やかな動き直しも影を潜めていた。
 
「動き直したり、動きすぎるとパスを出す選手が見つけられないから、あまり動くなと言われている。だけど、諦めずに練習から、チームメイトにアピールし続けたい」
 
 当時の大迫が語った言葉が忘れられない。その後、トップ下のポジションでパスを供給する側に回ったことで、チームに新しい落ち着きをもたらし、ゲームメイクも出来、得点も奪える選手として1部ケルンへ移籍を果たしたのだ。
 
 しかし、なかなか結果を残せず、2015年6月以降、大迫は日本代表にも招集されなくなった。
 今シーズン序盤戦のブンデスリーガで、大迫への注目度は一気に高まっている。5節終了時点で3位につけるケルンを牽引する“中心選手”となったのだ。
 
 9月25日、RBライプツィヒとのゲームで決めた美しいゴール。左からのパスを右足でトラップし、左足でゴールネットを揺らした。1本の柔らかいトラップで敵DFを交わし、最後はスペースも角度もない状況でシュートを放つ。大迫の高い技術に、辛口のドイツメディアも魅了された。
 
 その試合では前半から何本もパスを受けて、攻撃を演出。MFだけでなく、DFもボールを持つと大迫を探していた。そして大迫が指し示す場所へとパスが出て、そこから鮮やかなプレーを何度も見せていた。
 
「ゴールはイメージ通り。落ち着いて気持ち良く打てた」と冷静にそのシーンを振り返る。
 
「本当に今シーズンは良いトレーニングキャンプの期間があって、ボールを自分のところに引き込めるようになった。まあ、代表ウィークの間もたくさん練習ができて、たくさん試合もできるからプラスですね、自分にとって」
 
 代表招集から遠ざかっている現状がポジティブな効果をもたらしていると話す大迫。
 
 監督も代わっていないのになぜ、大迫の立場が大きく変わったのか?
「今季はシステムが2トップに変わり、監督からもFWとして見てもらえている」とその転機について語った。ケルンの公式サイトのインタビューでは、同僚だった日本人選手の長澤和輝が移籍したことで逆にチームメイトとの関係が深まったとも。試合中に堂々とチームメイトに指示を出す姿の理由のひとつがここにあるのだろう。
 
 足もとの技術の高さに加えて、ボールを引き出す動きなど、鹿島時代から大迫の武器とされてきたプレーが2トップの一躍を担うことで発揮できている。監督からの信頼も厚いようだ。
 
「監督は常に『僕の好きなようにやれ』と言ってくれますし、『力を信じている』と声をかけてくれる。常に、プラスの方向に考えてくれているので、これからもっと期待に応えていきたい。2トップでFWとして起用されているのだから、ゴールに対する勢いや相手に対する怖さをもっと出していかなくちゃいけない」
 充実感に溢れた表情の大迫はRBライプツィヒ戦後、なんの躊躇もなく、こう話した。
「代表のことはまったく考えていない。ケルンでやることが一番なので、これしか言えないけれど。今はケルンに一番やりがいを感じている」
 
 このRBライプツィヒ戦までに日本サッカー協会から代表招集のレターは届いていないのだから、彼が「代表のことはまったく考えていない」というのも当然だろう。
 
 10月1日にはバイエルンとのアウェー戦が控えている。王者相手にどこまで自分の強さを発揮できるのか? 大迫のドイツでのチャンレジは始まったばかりだ。
 
 一方で、長谷部誠のように長距離移動を要する代表参加によって、疲労を懸念されて出場機会がなくなった選手もいる。一部の選手たちを指して「この選手たちの代わりはいない」と話す指揮官(ハリルホジッチ)のもとへ馳せ参じるよりも、今はケルンでより一層成長し、巧いだけでなく、怖さを兼ね備えたゴールゲッターになることのほうが、大迫にとっても、日本代表にとってもプラスなのかもしれない。
 
取材・文:寺野典子(フリーライター)