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 今季のJリーグで悲願の初タイトルを狙う川崎フロンターレ。中村憲剛や小林悠、大島僚太といった大卒・高卒の生え抜き選手が活躍するが、“育成”といったイメージは、これまであまりなかったかもしれない。しかし、風間体制となって5シーズン目を迎えたクラブには、徐々に変化が生まれている。
 
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 2009年にGKの安藤駿介が昇格を果たして以降、アカデミーから直接トップへ昇格する選手は長らく現われなかった。川崎の育成におけるイメージが薄れたことは間違いない。単なる実力不足だけが昇格者を生み出せない理由ではないが、10代でプロの舞台に到達する選手を増やす土壌を作り、日本サッカーを底上げするという意味でも、長期にわたりトップ昇格者が現われないというのはネガティブな印象が残る。
 
 だが、そんな川崎にもある“変化”が生まれている。先日発表されたU-19日本代表のメンバーにも入った板倉滉と三好康児が昨季、先述した安藤以来6年ぶりにトップ昇格を果たした。
 
 1年目は互いに出場機会に恵まれなかったものの、今シーズン、板倉はルヴァンカップで公式戦デビューを飾ると、それに続けて天皇杯とリーグ戦にも出場。コンスタントにメンバー入りするまでに成長している。
 
 そして三好にいたっては、“川崎アカデミー史上最高傑作”の評判通り、今季は出場すればその才気が宿るボールタッチと左足のシュートセンスを随所で発揮し、ここまでリーグ戦13試合出場で3得点。トータルの数字では同世代の鳥栖・鎌田大地に劣るが、高卒2年目としては上々の出来と言える。そして偶然にも三好と板倉は1997年の早生まれであり、東京五輪を目指すチームにおける最年長世代。そういう意味でも期待感は大きい。
 
 そして現在、川崎U-18で10番を背負い主将を務める田中碧も来年度の昇格が内定している。実は今季も昇格予定の選手はいたのだが、彼らは大学進学を選び、それは叶わなかった。とはいえ、3年連続でそういった実力者を輩出しているのは下部組織が力をつけてきたことの証明でもある。さらに少し先の話をすると、現在2年生ながらU-18の副主将を任されている村田聖樹も昇格候補のひとり。開幕前には、田中とともにトップチームのキャンプに帯同した。
 
 変化が起きたのは2013年。現在もトップチームを率いる風間八宏監督の元でコーチを務めていた今野章が監督に就任してからだ。就任当初の時期を今野監督はこう振り返る。
「風間さんのサッカーを1年半くらい教わってから僕がユースに来たのですが、風間さんの言っているよう“止める、蹴る、外す”の部分は重要なので、それに近いというか、そこを教え込みながらアカデミーでもやっていこうとしました」
 
 トップチームと同じサッカーを下部組織でも体現し、そこで選手を育てることで、トップ昇格を果たした際にその水にすぐ慣れるようにする。そういう意図が強く、明確に打ち出されたのがこの年だった。もちろん、それまでもトップに準ずるサッカーをしようという意図はクラブにあった。「今野さんになる前からトップのサッカーを一貫してやろうという考えはあって、それは言われていました」とは三好の言葉だ。
 
「ただ、」一言置いて、彼はこう続けた。
「そういう中で今野さんのようにトップを教えていたコーチがユースやジュニアユースに降りてきたことで、トップのサッカーをやろうという考えが明確に現われたと思います」
 
 トップチームのサッカーを浸透させるうえで、トップでの指導経験を持つ人間が下部組織を率いるようになったのは大きかったはずだ。2012年にやはり風間監督のもとでトップチームのコーチを務めていた寺田周平が、その翌年から育成部に入り、2014年からU-15の監督を務めている。
 
 選手自身もその“人事”から変化は感じたようで、板倉は「元々つなぐ意識を持ってやっていましたけど、徹底されたのは高2ですね。風間さんが監督になって一緒にやってきた今野さんとか元プロの人が降りてきてから。ジュニアユース(の指導)も周平さんになりましたし。そこから、トップと同じようにやろうという意識はありました」と振り返る。
 
そうした意図を持った取り組みのなかで、まだ年月は浅いものの、単に昇格選手が生まれるばかりでなく、トップチームでの成績面や代表入りという部分で成果が出ているのは、育成がより良い方向に進んでいることの証左と言える。
 
 下から上まで“技術を重んじ、攻撃的であるフロンターレのサッカー”を体現し、強いクラブを作り上げる――。まずはトップチームの初戴冠を願うのが先だが、明確な育成の方向性を持って進むクラブの数年後、トップチームのメンバーに育成組織出身者が、何人も名前を連ねる時代がやってくるだろうか。現在で言えば柏レイソルが良き例になるが、そこに川崎も続きたいところである。
 
取材・文:竹中玲央奈(フリーライター)