10月1日のJ1リーグ第2ステージ・14節のアウェー甲府戦で、横浜は4-0の大勝を収めた。中銀スタでの勝利は、約3年半ぶり。13年3月のナビスコカップ(現ルヴァンカップ)予選グループで、2-0と勝利して以来、甲府のアウェー戦では3戦して2分1敗と勝ち切れずにいる。
 
 今季の前回対戦では、2-2のドロー決着。決して相性が良いとは言えないスタジアムでの“再戦”に不安がよぎる。頼みの中村俊輔も膝を痛めて離脱中という事態に、ひとりの男が奮起した。
 
 2-2の引き分けに終わった試合でも1ゴールを記録している齋藤学が、躍動した。背番号11は2得点・2アシストと全得点に絡むハイパフォーマンスを披露し、4-0の完勝劇の立役者となった。
 
 非凡な決定力を見せつけたのはもちろん、注目したいのが“2アシスト”だ。とりわけチーム3点目となる前田直輝に出したスルーパスは圧巻だった。右サイドからカットインし、エリア内に侵入した前田がオフサイドにならない絶妙なタイミングでパス。DFの間をすり抜けたボールは、前田の足にピタリと届いた。
 
 ドリブル突破が最大の武器であるのは間違いない。今季は特に切れ味が鋭く、ほとんどの相手を手玉に取っていると言っても過言ではない。
 
 しかし、甲府戦の活躍ぶりを見ても、齋藤がドリブルだけの選手でないのは一目瞭然。“パサー”としての能力もすこぶる高い。もっとも、出し手としての見せ場はそこまで多くはないものの、もしかしたら、「あるひとつの理由」がきっかけとなり、齋藤のポテンシャルが最大限に引き出されたのかもしれない。
 
 俊輔の不在。
 
 そう考えるのには、以前、サッカーダイジェスト誌でのインタビューで次のように語っていたからだ。
 
「去年は少し下がり目にポジションを取って、つなぎの部分だったり、点を取るまでの過程を意識してプレーしたんです。特に前半戦は、怪我で不在だった俊さんの役割をする選手がいなくて、自分にもなかなかパスがこなかったから、それなら僕がやろう、と」
 
“俊さんの役割”とは、組み立てからラストパスのことを指すのだろう(さすがにFKは含まれていないだろうが)。さらに、同じ記事でこうも語っている。
 
「今季は、自分がF・マリノスを背負うんだという気持ちがすごく高まっています。責任感……うん、責任感かな」
 
 代えの利かない大黒柱がいないピッチの上で、誰がチームを牽引するのか。自分しかいない。齋藤がそう考えてもまったく不思議ではないし、自ら仕掛けるだけでなく、チームメイトを生かそうとするプレーも強く意識したのではないだろうか。
 
 そのスタンスが、まるで俊輔のようなスルーパスを出させたように思う。
 
 ドリブルとパス。あるいは仕掛けと組み立て。「両方できるのはプラス」と本人は語り、そして確実にプレーの幅は広がっている。
 
 2アシストのもうひとつは、富樫敬真が決めたチーム4点目だ。富樫は「神がかっていた」という齋藤の“お膳立て”を振り返る。
 
「得点シーンは、キーボー(喜田拓也)がヘディングを上手く撥ね返してくれて、学さんが前を向いていた。その時に大きな声で『ダイレ(クト)!』と呼んだら、完璧なボールを出してくれた」
 
 センターライン付近から喜田がヘッドで左前方に送る。走り出していた齋藤は、ワンバウンドして、ツーバンドした瞬間に左足を丁寧に当てて、きれいな弧を描く優しいパスを富樫に供給した。
 
 甲府戦終了からほどなくして、日本協会はロシア・ワールドカップ・アジア最終予選の10月シリーズに挑むメンバーから、宇佐美貴史、武藤嘉紀の両選手の負傷離脱と、齋藤の追加招集を発表した。
 
 欧州組が重用される傾向にあるハリルジャパンにおいて、国内随一のドリブルを武器とし、かつての「日本の10番」のように組み立て、即決定機となるパスも出せるアタッカーが、今度は日本を勝利に導いてほしい。
 
文:広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)