バルセロナの新たな時代が、右サイドから始まろうとしている。
 
 セルジ・ロベルト。
 
 ミッドフィルダーでもサイドバックでもない。時には偽9番、あるいはウイングも。CBとGK以外ならどこでも機能する希有な存在だ。
 
 リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールのMSNをはじめビッグネームが居並ぶ豪華なチームの中では地味だが、今シーズンのバルサでは屈指の高い評価を受けている。
 
「バルサとスペイン代表の右サイドバックは10年安泰」
 
 そんな声も聞こえてくる。
 
 バルサだけではなく、スペイン代表においてもここにきて、ファンフラン(A・マドリー)、ダニエル・カルバハル(R・マドリー)、セサル・アスピリクエタ(チェルシー)、マリオ・ガスパール(ビジャレル)、エクトル・ベジェリン(アーセナル)らが並ぶ、「激戦区」右サイドバックの序列を一気に塗り替えたのだ。
 
 9月28日のチャンピオンズ・リーグ2節、ボルシアMG戦では、11.90kmを走りぬくチーム一の運動量を見せた。いつものことだ。ここまでのCLにおいてセルジは、バルサ随一の走行距離を記録している。
 
 元々のポジションはインテリオール(インサイドハーフ)とピボーテ(アンカー)。バルセロナBでプレーしていた頃は、運動量のある英国的なボックス・トゥ・ボックス型のミッドフィルダーだった。
 
 バルサBにはセルジよりボール扱いに長けた選手がたくさんいた。しかし、彼は誰よりも走り、誰よりもがむしゃらに相手にぶつかっていった。
 
 悪く言えば、バルサらしさはない。テクニカルな部分で言えば、カンテラの中では凡庸な部類に属していた。しかしそれが逆に、別の良さを引き出した。
 
 昨夏の時点でクラブ首脳陣は、2016年1月に他クラブへ移籍させることを決めていたという。インテリオールにはアンドレス・イニエスタとイバン・ラキティッチ、ピボーテにはセルヒオ・ブスケッツが君臨するバルサの中盤には、“空き”がなかったからだ。
 
 しかし、ルイス・エンリケ監督はセルジのポテンシャルを信じて、あらゆるポジションで起用した。そして、いつしか右サイドバックに定着する。
 
 当然ながら、典型的なサイドバックではない。ボールの持ち方もサイドバックというよりは、インテリオールのそれだ。ドリブルで縦へ抜けるスキルは高くはない。しかし、ボールを受ける能力は絶品だ。前方のスペースに入っていくタイミングが絶妙で、右サイドのセルジを使った崩しは、今シーズンのバルサが多用するパターンのひとつになっている。
 2000年後半に始まるバルサの黄金期は、カルレス・プジョール、シャビ、イニエスタ、メッシ、ブスケッツ、ジェラール・ピケなど、カンテラ出身の才能が次々と現れてはトップチームに定着し、キャリアのピークを共有できたからこそ生まれた。そこに、ペップ・グアルディオラという稀代の名将がやって来る幸運に恵まれた。
 
 しかし、忘れてはならないのが、ダニ・アウベスの存在だ。右サイドを疾走するブラジル人は、前方のメッシを輝かせていた。攻撃時にはサイドバックというよりウイング並みの高いポジションを取り、相手の最終ラインを開かせ、メッシのスペースを作った。後方から駆け上がる躍動感は、黄金期のバルサにおいて欠かせないピースだったのだ。
 
 セルジはそんな「ダニ・アウベスの時代」を、Bチームとトップチームのベンチを往復しながら眺めた。数年後、自らがその右サイドを駆けることになるなど、その頃は想像もできなかっただろう。
 
 2016-2017シーズン、右のタッチライン際にはセルジの姿がある。ダニがユベントスに去り、セルジがその後釜に居座ったのだ。右サイドから、また何かが始まる予感がする。
 
 ボルシアMG戦の勝利の後、セルジは勝利を祝うメッセージをSNSにあげた。世界からの数多くのコメントの中に、トリノからのメッセージがあった。ダニ・アウベスからのものだった。
 
 カンプ・ノウの右サイドを託した後輩の活躍を一番喜んでいるのは、このブラジル人かもしれない。
 
文:豊福晋
 
【著者プロフィール】
1979年、福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、フリーで取材・執筆活動を開始。イタリア、スコットランドと拠点を移し、09年夏からはスペインのバルセロナに在住。リーガ・エスパニョーラを中心に、4か国語を操る語学力を活かして欧州フットボールシーンを幅広く、ディープに掘り下げている。独自の視点から紡ぐ、軽妙でいて深みのある筆致に定評がある。