10月2日のサッスオーロ戦(セリエA7節)を4-3という乱打戦の末にモノにしたミラン。この試合でロッソネーロのいわば救世主となったのが、MFの逸材マヌエル・ロカテッリだった。
 
 1-3の状況だった59分に主将リッカルド・モントリーボに代わってピッチに送り出されると、正確なパス出しで攻撃の起点になっただけでなく、激しい守備で中盤を引き締める。さらに73分には、効き足ではない左足で豪快なミドルシュートで叩き込む。逆転勝利に繋がる貴重な同点ゴールだった。
 
 イタリア代表にはU-15代表から名を連ね、現在のU-19代表ではキャプテンも務めるこの大器は、1998年1月8日生まれの現在18歳。育成の名門アタランタの下部組織で育ち、2009年に11歳でミランのアカデミーに引き抜かれた。早くから天才少年として注目を集めた同世代のハキム・マストゥール(現在はミランからズウォーレにレンタル中)とともに各カテゴリーを足早で駆け上がり、トップチームの練習にも参加するようになっていった。
 
 そして、プリマベーラ(U-19)で薫陶を受けたフィリッポ・インザーギがトップチームを指揮していた2015年3月16日のフィオレンティーナでは、17歳になったばかりながらセリエAで初のベンチ入り。その2週間後には、同じく将来を嘱望されるGKジャンルイジ・ドンナルンマ、FWパトリック・クトローネとともに、15年7月1日から18年6月30日までのプロ契約を締結した。
 
 続く2015−2016シーズンは、シニシャ・ミハイロビッチ監督の下で頻繁にトップチームに招集され、プリマベーラで指導を受けたクリスティアン・ブロッキが暫定監督に就いていた16年4月21日のカルピ戦では、途中出場でついにセリエAデビュー。最終節のローマ戦では先発フル出場を果たした。
 
 迎えた今シーズンはプリマベーラを卒業して完全にトップチームの一員となり、4節からセリエAゴールを決めた先のサッスオーロ戦まで、4試合連続で途中出場を果たしている。
 
 元々は技術力の高さや長短のパスでゲームを作るセンス、そして正確なFKから「ロッソネーロのシャビ」、「新たなアンドレア・ピルロ」などと呼ばれてきたが、186cm・75kgというMFとしては十分に大柄な体格、守備でもハードワークを厭わないそのプレースタイルは、本人が憧れるシャビ・アロンソを想起させる。
 
 新監督のヴィンチェンツォ・モンテッラは、この攻守のバランス感覚を高く評価。後半途中にスソやエムバイ・ニアング、ソサなどを下げてロカテッリをアンカーに入れ、中盤のバランスを取る采配をしばしば見せる。
 
 ここまでの出場時間は合計108分。ポジションこそ違うが、わずか18分(途中出場2試合)の本田圭佑よりも、チーム内序列はすでに上だ。
 チームを救う一撃を決めたサッスオーロ戦後、本人はTVインタビューで涙を流しながらこう語った。
 
「今日のゴールは、ずっと自分を信じてくれた両親、兄、妹に捧げたい。ゴールの後は信じられなくて、駆け出して歓声を聞いて初めて現実だと気が付いた。僕たちは素晴らしい追い上げを見せた。でも、もっともっと改善できる。モントリーボは偉大な選手さ。今日は(ヨーロッパ・カップ戦行きを争う)直接のライバルからの勝利に浸りたい」
 
 モンテッラ監督も賛辞を惜しまない
 
「ロカテッリにはお祝いの言葉を送りたい。とてもバランス感覚に優れたミッドフィルダーだ。ミランというクラブには尋常ではないプレッシャーが圧し掛かる。その中で18歳がプレーし、美しいゴールまで決めることは簡単じゃない。ドンナルンマと同じように、プレッシャーと上手く付き合う道徳的な能力があるみたいだね」
 
 モンテッラ監督が例に挙げたドンナルンマで思い出されるのは、昨シーズンの電撃的な「守護神交代劇」だ。ちょうど1年前の昨年10月、元スペイン代表でR・マドリー時代にはデシマ(CL10回目の優勝)にも貢献したディエゴ・ロペスが、怪我や不振により調子を落とす。すると当時のミハイロビッチ監督は、まだ16歳だったドンナルンマを大抜擢。そのまま正GKに定着させた。
 
 調子を落とした実績十分のベテランが、勢いに乗る若き新星にポジションを奪われたこのD・ロペス&ドンナルンマのケースは、現在のモントリーボ&ロカテッリに状況が似ている。
 
 開幕からアンカーを担うモントリーボは、サッスオーロ戦でロカテッリとの交代時にファンから大きなブーイングを浴びた通り、ここまでは及第点を下回る出来に終始している。経験や実績で大きく見劣りするロカテッリだが、モンテッラ監督がミハイロビッチ元監督と同じように思い切った大きな決断を下しても決して不思議はないだろう。
 
 ミランではここ数年、マルコ・フォッサーティ(現ヴェローナ)やアレクサンダー・メルケル(現ボーフム)、ブライアン・クリスタンテ(現パレルモ)など同じく将来を嘱望された下部組織出身のMFが、結局はトップチームに定着できぬまま他クラブに去るケースが少なくない。
 
 トップチームで長く主力に活躍した下部組織出身のMFとなると、なんと1990年代のデメトリオ・アルベルティ―ニまで遡るのだ。
 
 ロカテッリはその悪しき流れに歯止めをかけ、ロッソネーロの中盤に君臨できるのか。大きな注目に値する。
 
文:白鳥大知(サッカーダイジェストWEB)