どう考えても現実味に乏しい。今回がダメでも終わりじゃない、来年のU-20ワールドカップまでにまたアピールすればいい──。中村駿太は、腹をくくっていた。
 
 9月28日、日本サッカー協会は2週間後に迫ったU-19アジア選手権に臨む、U-19日本代表メンバー23名を発表した。1997年1月1日以降に生まれた選手が選考対象で、今春にプロの門を叩いた逸材たちを中心に、強化を進めてきたチームだ。その大会登録メンバーに、1999年5月10日生まれの高校2年生が抜擢招集された。しかも激戦区であるFWの4枠に、見事滑り込んだ。中村は「リストに自分の名前が載っていて、正直びっくりしました」と話す。
 
 柏レイソルU-18でエースを張っているとはいえ、選出は望み薄だった。これまで何度か招集され、大きなグループの一員だったのは間違いないが、試合出場は今年5月の韓国遠征時と、8月のSBSカップ時の合計2回のみ。9月上旬のフランス・UAE遠征は落選し、最終選考のうえで最重要だった9月下旬のミニ合宿は、招集されたもののチーム事情で辞退していた。可能性が消えたと、本人は覚悟していたはずだ。
 
 しかし、チームを率いる内山篤監督の考えは違った。そのミニ合宿の直前、クラブが中村の招集辞退をJFAに伝えた翌日のことだ。指揮官は中村のコンディションをチェックすべく、プレミアリーグEASTの試合会場に姿を現わしたという。中村はベンチ外だったため顔を合わすことさえ叶わなかったが、その時点で、内山監督の答は出ていたのかもしれない。
 
 驚きのメンバー発表を受けて、中村はすぐさまピンと来た。以前、内山監督に言われたことがある。「とにかく試合に出ろ」、と。実際に指揮官は選考基準のひとつに「実戦感覚」を挙げていた。
 
 2トップを採用しているU-19日本代表において、そのファーストチョイスは小川航基(ジュビロ磐田)と岸本武流(セレッソ大阪)のコンビだろう。どちらもプロ1年目。FWというポジション柄、すぐさまレギュラーの座を掴むのはどうして難しい。夏を過ぎ、J3を戦うU-23チームで定位置を掴んだ岸本とは対照的に、小川は出場機会にまるで恵まれず、ルヴァンカップで2試合のアピールチャンスを得たのみだ。
 
 はたして90分間を戦い切れるか。内山監督が危惧するのはまさにそこで、今回選出したバックアッパーのふたりが常時フル出場している高校生なのは偶然ではないだろう。岩崎悠人(京都橘/3年)はプリンスリーグ関西で、中村はプレミアリーグEASTで得点感覚を研ぎ澄ませている。
 
 U-19日本代表での自身の立ち位置を、170?の点取り屋はどう捉えているのか。
 
「年上の経験豊富な選手ばかりで、本当に僕が一番下手なんですけど、体力的なところやコンディションを評価してもらえたのかもしれません。フォワードの4番手というより、僕は23人のなかで一番最後くらいですよ。やっぱり、ずっと一緒にやってきたチームプレーというのがあると思うんです。そのチームのスピードにまずは慣れなければ、なにも始まらない。逆にそこさえ馴染めれば、ある程度自分の良さは出せるんじゃないかなと。少しずつフィットしていいプレーをして、チャンスの回数を増やしていきたいです。焦ってもしょうがないので」
 
 小学4年生から柏ひと筋のストライカーだ。
 
 2011年の全日本少年サッカー大会で得点王に輝き、柏U-12を優勝に導いた。そのゴール数が凄まじい。23点を叩き出し、31年ぶりに最多得点記録を更新したのだ。
 
 当時からトレードマークなのがボウズ頭。とくにこだわっているわけではなく、「父親と同じにしようと思っただけなんです」と振り返る。かなりぽっちゃりした少年で、周りの大人が「ロナウドみたいだな」と発したのをきっかけに、元ブラジル代表のレジェンドの存在を意識するようになったという。
 
「(ロナウドは)フォワードとしての究極の理想です。突進するようなドリブルからのゴールもそうですが、あれだけの華やかなキャリアを積めたら最高だなって思いますから。でも実際のプレーの参考にしているのは、僕と体格やプレースタイルが似ている(セルヒオ)アグエロと(カルロス)テベス。すごく研究してますし、好きですね。例えば僕自身が普段はしないようなプレーをアグエロがしたら、こんなこともできるんだ、なんとか真似できないかなって思いますし。ストライカーだから点を取るのが第一だけど、アシストの質もすごく高い。あんなふうにつねにゴールに絡めたら、ディフェンダーにとっては本当に厄介だと思うんです。現実的なお手本ですね」
 
 こちらが「アグエロっぽいね」と言う前に、その名前が出てきた。左右両足から放つショットはパワフルの一語に尽き、クロスを点で合わせる技術に長け、ボレーのミートが実に巧い。重心の低いドリブルで確実に局面を前へと進め、チームの攻撃をぐいぐいと牽引する。柏U-18では4-1-4-1システムの頂点に立ち、基準点として振る舞いつつ、サイドに流れてのチャンスメイクもお手の物。ラインブレイクの駆け引きに秀で、どんなフォーメーションでも、誰が相棒でも、持ち味を存分に発揮できる。そのあたりも、アルゼンチンが生んだ稀代のストライカーに通じる特性だ。
 
 そしてその誠実な性格と貪欲なまでの探求心が、進化を促進させている。
 
「今年はU-17、U-18、U-19と3つの代表チームに呼んでもらって、本当に素晴らしい経験をさせてもらってます。韓国、ロシア、チェコと海外遠征に参加して、どれも自分を見つめ直すいい機会になっている。忙しい、疲れたなんて言ったらバチが当たりますよ。SBSカップでは岩崎くんと2トップを組みました。本当にすごいスピードで、あんなダイナミックな動きは僕にはないところ。自分の強みをどうすれば出せるか、その使いどころをよく分かっている。流石ですよ。人間的なところを含めて、受けた影響や刺激は大きいです」
 
 今回の23名で、最年少の99年組は中村とGKの若原智哉(京都サンガU-18)のふたりだけだ。いわゆる飛び級招集で、両選手とも来春の立ち上げが濃厚な新生U-18日本代表の主要メンバーである。つまり中村は、2年後にもう一度「アジア予選」を戦い、その翌年の「ワールドカップ」出場を目指す世代なのだ。「2回出れるチャンスがあるなんて恵まれてますよね。でもいまは、このチームで最大限になにができるかだけを考えて取り組みたいし、どんなことでもやりたい」と、バーレーン決戦に意識を集中している。
 
 とはいえ、いずれU-18、U-19日本代表でともに戦うだろう下の世代のことは気にかけているようだ。先日、U-16日本代表がワールドカップ行きの切符をもぎ取ったU-16アジア選手権も、全試合観たという。
 
「3月のサニックス杯で(U-17日本代表として)一緒にやったタケフサ(久保建英)とか平川(怜)が出ていたし、やっぱり気になりますよね。グループリーグはすげぇなぁ、強えなぁと思って観てましたけど、決勝トーナメントに入って相手の質がガラッと変わった。彼ら(日本)ほどの力があってもアジアで勝つのは簡単じゃないんだなって、改めて感じました」
 
 同じFWとして、ふたつ年下の久保のことはどう見ているのだろうか。
 
「タケフサはあれだけ注目されてても、ちゃんと結果を出してますよね。年齢とか学年に関係なく、普通にプレーしている。負けたくないって気持ちは、多少はありますけど、むしろ尊敬してますし、盗めるところは盗んでいきたいですね」
 
 バーレーンでの過酷な連戦に想いを馳せる一方で、気がかりなのが柏U-18の現状だ。
 
 スーパーサブだった昨季とは異なり、今季は開幕直後から前線のエースとしてチームを引っ張ってきた。当初はゴールを順調に重ねてチームも上位をキープしていたが、後期のスタートとともにディフェンスに綻びが生じ、攻守のバランスを崩してしまう。ここ6試合が1勝1分け4敗。土曜日のプレミアリーグEAST(第15節)も大宮アルディージャユースを相手に一時は0-4までリードを広げられ、終盤になんとか2点を返すのが精いっぱいだった。中村はそのうちの1点を決めたが、エースとして忸怩たる想いがあるようだ。
 
「自分が点を取らないとチームは勝てない。代表に呼んでもらっているわけで、その自覚と責任を持って違いを出していかなきゃダメですね。今年は開幕から試合に出続けて、90分間を走り切る体力とか、駆け引きし続けるメンタルのところとか、いろいろ考えながらプレーしてきました。体力や瞬発力も必要になってくるんですけど、そこで負けないぞ、強くなるぞと言い聞かせてやっている。自分の成長を感じられる部分があるし、身体の動きとか感覚的にも悪くはないんですけど、結果的にチームを勝利に導けていないわけですから、やはり不甲斐ない。代表で得た経験や刺激をチームにしっかり還元していきたいです。でなきゃ、行っている意味がないですから」
 
 ジュニア時代に全国制覇を成し遂げ、年代別の日本代表にはつねに名を連ね、17歳にして海外遠征や国際トーナメントの経験も十二分にある。筋金入りのエリートと言っていいだろう。だがこの本格派ストライカーの実像は、いたって素朴だ。なんとも陽気で人懐っこく、謙虚なスタンスを崩さない勉強家だ。そして和製アグエロは、ずっと先を見据えている。
 
「まだなにも始まってないんです。A代表に選ばれるまでは」
 
 来るバーレーンのビッグステージ。U-19日本代表の攻撃に閉塞感が生まれたなら、メンタルタフネスが自慢の中村駿太にお呼びがかかるだろう。はたしてそこからどんなサクセスストーリーが描かれるのか。自分がそこにいる意味を突き詰めて考え、全身全霊のプレーを保証する柏の至宝は、救世主となりうるのか。
 
 なにかどでかいことをやってのけそうな、そんな気がしている。
 
取材・文:川原 崇(高校サッカーダイジェスト)
 
【U-19アジア選手権】10月13日から30日までバーレーンで開催される19歳以下の国際大会。アジアの16チームが4グループに分かれ、各上位2チームが準々決勝へ。それを勝ち抜いた準決勝進出4チームが、来夏に韓国で開催されるU-20ワールドカップへの出場権を得る。日本のグループリーグの対戦相手はカタール、イエメン、イラン。韓国がベスト4に進出した場合は、残る1枠を懸け、準々決勝敗退の4チームによる5位決定トーナメントが実施される。