何かが変わると思われる時には、それが本当に現実になるのかを時間をかけて見守らなくてはいけない。
 
 しかしどうやら先週の練習中、何かが変わり始めたのは確かなようだ。監督のヴィンチェンツォ・モンテッラはいつもに比べて明らかに長い時間、本田圭佑をレギュラー組でプレーさせていた。
 
 しかし、ご存知の通りサッスオーロ戦(10月2日のセリエA7節)で本田はまたも出番なし。7試合で5度目の「90分間ベンチ」だから、はっきり言ってもはやニュースにもならない。
 
 とはいえ、「溺れる者は藁をも掴む」という格言の通り、ほんの小さな出来事にでも希望を見出し、モチベーションを保ち続けなければ、光は絶対にやってこない。
 
 ミラネッロ(ミランの練習場)では週の中ほどでのトレーニングで、本田とルイス・アドリアーノがレギュラー組のビブスをつけてプレーしている姿が度々目撃された。モンテッラの頭の中で、何かが変わりつつある証拠だろう。
 
 たしかに、開幕から両ウイングのレギュラーを担ってきたエムバイ・ニアングとスソには、明らかに疲れが見え始めている。持ち前の俊敏なプレーを見せる頻度が2人とも減ってきたのは、そのためだ。
 
 そして、今回のサッスオーロ戦ではまず、ルイス・アドリアーノに左ウイングで出番が回ってきた。しかし低調な出来に終始し、ハーフタイムにニアングと代えられてしまった。
 
 ちなみに、そのニアングはスタメン落ちに発奮したのか、ドリブルでPKを奪取するなど、4-3の乱打戦を制すうえで決定的な存在となった。
 
 だからもしこの次、モンテッラがサイドアタッカーを変えるとしたら、チャンスは本田に巡ってくるだろう。それがいつになるかは分からないが、とにかく風向きが多少変わってきたのは確かだ。サッスオーロ戦の前日会見でもモンテッラは、こうコメントしていた。
 
「本田はスソとポジションを争っているが、これまで私はスソを使っている。しかし、本田が左サイドにうまくマッチすれば、新たな可能性が増える。今はそれを試しているところだ」
 
 この発言は本田によって、良いニュースにも悪いニュースにもなりうる。ポジティブな点は、モンテッラが本田にプレーするスペースを与えようとしているということ。ネガティブな部分は、そのためには逆サイドでのプレーも受け入れなければいけないということだ。
 
「今のところスソは右ウイングの事実上アンタッチャブルな存在」だと、モンテッラははっきりと認めている。だから、もし試合に出たいならば、本田は左ウイングへのコンバートを視野に入れなければいけない。
 
 しかし、彼のようにテクニックはあるがスピードに欠けるレフティーにとっては、カットインすればゴール方向に左足が向いてプレーしやすい右サイドのほうが適しているのは明らか。とにかく今は、事の成り行きを見守るとしよう。
 サッスオーロ戦後は代表ウィークのためセリエAも一時中断となり、ミランの各国代表選手たちも世界中に散らばっていった。
 
 本田もヴァイッド・ハリルホジッチ監督に日本代表に招集され、帰国の途に着いたが、イタリア人の多くがこれには首を捻った。我々はこう思ったのだ。
 
「ミランでは7試合で18分間しかプレーしていない選手を、日本代表はなぜ招集するのだ?」
 
 正直に言って、私は日本代表の事情に明るくない。だから推測でしか言えないが、本田は日本代表の中で実績も実力も抜きん出たシンボルであり、代役不在の存在なのだろう。
 
 しかも、例え試合に出ていなくとも、しっかり練習を積むプロ意識の高い選手であり、試合勘はともかくフィジカル的な問題はないはずだ。だからミランでベンチを温めていても、日本代表に招集されたのだと思う。
 
 しかし、もしこれが日本以外の国だったら、例えばイタリアだったら、そうはいかないだろう。例えアッズーリの主力でも、クラブで本田と同じくらいしかプレーしていなければ、90%の確率で招集されることはない。その国のベストの選手が呼ばれる代表チームとは、本来そうあるべきだろう。
 
 もちろんこれは、チームの戦力に大きく左右される。選手層が薄い、つまり主力と控え組の実力差が大きければ、クラブでプレーしていなくても代表に招集されるというケースはありえる。
 
 さらに例外もある。まずはそのポジションでプレーする選手が足りない場合、もしくはチームに情熱を与えられるような選手が、招集されることはある。
 
 今回のイタリア代表で言えば、マッテオ・ダルミアンがそれに該当する。EURO2016でもレギュラーを務めるなど、ここ2年ほどアッズーリの主力を担ってきたこのDFは、今シーズンのマンチェスター・ユナイテッドで控えに甘んじ、ここまでの公式出場はわずか90分間(1試合)に留まっている。
 ジャンピエロ・ヴェントゥーラ監督は、ダルミアンをさすがに9月は呼ばなかったが、6日にスペイン代表、9日にマケドニア代表と対戦するこの10月は招集に踏み切った。
 
 しかしこれは、本田と同僚の左WBルカ・アントネッリ、さらにCBダニエレ・ルガーニ(ユベントス)が故障離脱中のため、守備的ポジションならどこでもこなすダルミアンに声が掛かったという事情がある。いわば例外中の例外だ。アッズーリでは基本的に、クラブで継続的に使われている選手が招集される。
 
 本田に話を戻すと、日本代表のハリルホジッチ監督がミランで試合に出ていない彼を招集するのも、まったく理解ができないわけではない。
 
 たしかに本田は、入団4年目にしてミランで一番の苦境に陥っている。前述した通り、開幕から1か月以上が経過した現時点で、プレータイムはわずか18分間だ。
 
 しかし、まだ本気で心配する段階にはきていない。本田は相変わらず真剣に練習に励んでいるので、フィジカルコンディションは悪くないし、シーズンが始まってからまだ1か月ちょっと“しか”経っていない。
 
 今はもちろん100%こそ無理だが、70%のパフォーマンスが期待できる。これまでもそうであったように。「70%の本田なら、100%の他の選手より上」とハリルホジッチ監督はそう考えているからこそ、今回も招集したのではないだろうか。
 
 問題はこの状況がずっと続いた場合だ。このままミランでプレーしない日々が続けば、将来的には日本代表でのパフォーマンスにも大きな影響が出てくるだろう。
 
文:マルコ・パソット(ガゼッタ・デッロ・スポルト紙)
翻訳:利根川晶子
 
【著者プロフィール】
Marco PASOTTO(マルコ・パソット)/1972年2月20日、トリノ生まれ。95年から『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙で執筆活動を始める。2002年から8年間ウディネーゼを追い、10年より番記者としてミランに密着。ミランとともにある人生を送っている。