9月下旬――。悪天候が続いていた。通常の生活にも被害が及ぶニュースも見られるなか、屋外スポーツ引いてはサッカーの世界でもその影響が大きいことは明らかで、ピッチに立つ選手たちにとっては、普段と同様の戦い方ができなくなる。決して好ましい状況ではないが、その中でどういったプレーを選択してチームを勝利に導くかを考えるには、良い機会にもなり得る。特に、育成年代では――。
 
 9月22日の昼は、それまでの1週間を振り返っても、とりわけ強い雨風に苛まれていた。15歳以下のリーグ戦である関東ユース(U-15)サッカーリーグで首位を走る横浜F・マリノスジュニアユースと三菱養和SCの一戦は、予定通りの11時キックオフ。
 
 開始直後、雨は止んでいたが、その後天候は荒れに荒れ、ピッチは水溜り状態に。「サッカーにならないね」と三菱養和の関係者は冗談交じりに語っていたが、そんな天候下での試合を横浜FMが2-1で制した。
 
 この試合で際立ったのが、横浜FMの選手たちの対応力。2得点を挙げた中村斗星は最前線でボールを収める際に意図的にボールを浮かし、走らないピッチを回避。「水で止まってしまうので、浮かしてゴール前までボールを持っていこうかなと。それで、ゴールまで(下に)止まれば点が取れる、何かが起こる可能性も高まる」とその意図を話した。
 
 押し込まれた前半を受けて攻守に修正をかけた後半について、DFの和田昂士は「前半は押し込まれる時間帯が多かったので、(後半は)相手陣地に蹴った後のラインアップというか、(前との)距離を縮めるのを速くしようと思っていました。そしたら、後半は相手陣地でうまくプレーができた」と勝利の要因を語る。
 
 天候状況を考えれば、それぞれの対応は不思議ではないだろう。むしろ理にかなったものだ。ただ、このプレーの裏には監督の直接的な指示はなく、選手たち個人が考えた結果に生み出されたことに、少々驚いた。
 
「自分で考え続けてやりなさい、と言っています」とはチームを率いる坪倉進弥監督の言葉だ。こういうと“放任”にも聞こえるが、もちろんチームとして戦術的、技術的に要求される部分もある。だが、チームの中で強く求められているのが、この「考える」という行為であり、選手たちも成長と手応えを感じているところでもある。
「グラウンド状況とか相手の特徴とかを早い段階で理解して、相手にあったプレーができていると思います。ただ、試合が終わった後は脱力感というか、疲れが今までとくらべて精神的にも来るような感じですね」とは和田の言葉。彼が先に話した後半への修正はハーフタイムで話し合って生まれたものだが、これはコーチ陣から“強いられた”ものではなく、自分たちで話し合った答えだと言う。ハーフタイムは基本的に選手内で意見を交換し合い、最後に監督がそれをまとめて締めるという形をとっているのだ。
 
「“教えてください、僕をうまくして下さい”という発想はだめ。コーチの言うことはもしかしたら、ちょっとずれているところがあるかもしれないし、もしかしたら『ああ、そうだな』とすんなり受け入れられる時もあるかもしれないと。いろいろな試合の経験やいろいろなアドバイスを含めた結果、自分がどうするか。単純に、マリノスにいるからといって自然にうまくなるとは限らない。そこは勘違いしないように、と言っています」(坪倉監督)
 
 指導に頼らせず、自発的に考える習慣を付けることで選手としての価値を高める。
 
「神奈川とか東京近辺でも、将来性を含めてすごく魅力的な選手が毎年20名ずつくらい入ってくる」(坪倉監督)なかで、技術のみに頼らずそういう意図を持ってアプローチするこのチームからは、新たなスターが生まれてくるのではないかと強く感じさせられた。
 
 実際に、先に出た中村はバルセロナキャンプの最優秀選手に選ばれ、久保建英が渡西した翌年にバルセロナの地へ渡った選手であり、和田昂士はこの8月にブラジルへ遠征に行ったJリーグ選抜にも選出されている。名前で察することができる通り、今年トップ昇格を果たした和田昌士の弟だ。
 
 技術のみではなく、思考力、考察力を高め、それをピッチで体現する。彼らがさらに進化を重ねた時の姿が、楽しみである。
 
取材・文:竹中玲央奈(フリーライター)