天国と地獄――。
 
 先ごろ開催されたU-16アジア選手権で、まさにこの2つを味わったのが、守備の要となったセンターバック(CB)の瀬古歩夢だ。チーム立ち上げ時からディフェンスリーダーとして君臨し、森山佳郎監督が全幅の信頼を置いてきた選手である。
 
 今大会では、大会直前に関川郁万、大会中に小林友希と、ふたりのCBが次々と負傷離脱。そんな緊急事態にあっても、瀬古はグループリーグから守備陣の屋台骨として安定したプレーを見せ続けた。準々決勝のUAE戦では値千金の決勝弾を叩き込み、守備でも相手の攻撃をシャットアウト。1-0の勝利、そして2大会ぶりのU-17ワールドカップ出場権獲得に大きく貢献したのだった。
 
 しかし、チーム唯一のグループリーグ初戦から5試合連続スタメン出場を果たした準決勝のイラク戦で、落とし穴が待っていた。
 
 これまでの相手とは明らかに異質な鋭いカウンターに手を焼くと、2−1のリードで迎えた67分にセットプレーの流れから、同点弾を浴びてしまう。そして80分には、警戒していたイラクFWのダムードに対し、悔やんでも悔やみきれないプレーを犯してしまった。
 
 ダムードに対して送られたロングボールに対し、瀬古はしっかりとコース取りを予測し、素早い帰陣で先回り出来ていた。しかし、自分の間合いになったはずなのに、相手に簡単にトラップを許し、縦に持ち出されてしまう。結果、スライディングタックルがアフター気味に入り、完全に抜け出したダムードを倒す形となってPKを献上。この試合、すでに1枚のイエローカードをもらっていた瀬古は、このプレーで2枚目のイエローカードを提示され、退場処分となった。PKはダムードがきっちりと決め、これが決勝点となった。
 
 あのロングボールにフイは突かれず、タムードの動きも視野に入れながら、冷静にターンダッシュして、対応できていたはずだった。しかし、なぜ結果として交わされてしまったのか。瀬古はあのシーンをこう回顧した。
 
「出足は僕の方が速くて、まずコースに入ってしまえば止めることが出来ました。ただ、あそこで変に『行けるかな』と思ってしまって、ちょっと相手の出方を待ってしまったんです。そうしたら7番はスピードがあるので、前に出られてしまったんです」
 
 出足で上回った瞬間、瀬古は完全にコースに回り込む前に『取れる』と変に確信してしまった。だが、その確信が一瞬の隙をつくり、さらにダムードのボールコントロールのうまさとスピードは、瀬古の想定を上回った。結果として、瞬く間に形勢を逆転されてしまったのだ。
 
「そこから足を出そうか、ステイして対応しようか迷った結果、あそこでスライディングを選んでしまって、PKになってしまいました…。そこの判断の甘さを物凄く感じましたし、あの状況で頭のいい選手であれば、コロッと滑らないで普通に対応すると思う」
 幾重もの判断ミスが連鎖した痛恨のプレー。彼はこの瞬間、CBというポジションの奥深さと怖さを、身をもって知ることが出来た。
 
「あそこが自分のまだまだな所だと思いました。判断を間違えて、ひとつのミスが命取りになることを痛感しました」
 
 ほろ苦い経験だが、間違いなく瀬古にとっては成長につながる大きな財産になった。一発勝負のなかで、CBの一瞬の迷いがどういう事態を招くか。それはいくら練習を積んでも、あるいは指導者が指摘しても、身をもって体験しなければ、理解し得ないものだ。それを日本の代表としてU-16アジア選手権準決勝というシビアな舞台で経験することが出来た。これは間違いなく彼にとって大きなプラスとなる。
 
「半身の姿勢での対応もそうですし、一つひとつのポジショニングが良ければ対応出来る部分が多々あった。ポジショニングの重要性をこの大会で改めて感じたので、ポジショニング、予測を上げていきたい」
 
 あの失点が未来の日本代表にも期待されるCBを、さらなる成長へと導く起爆剤となったのは間違いない。瀬古は将来の夢に向かってその歩を進めるべく、また一段ギアを上げた。
 
取材・文:安藤隆人(サッカージャーナリスト)