「セビージャでプレーする喜びをもう一度かみしめたい」
 
 現在、7節を終えた時点でリーガ・エスパニョーラの3位につけている好調セビージャの中心にいるのが、移籍市場最終日にチームにやって来たサミア・ナスリだ。
 
 例年と同じく、チームには今夏も多くの選手がやってきたが、そのなかでもナスリは際立った活躍を見せている。
 
 テクニックは、今もトップクラス。最後にチームに合流したにもかかわらず、すでに一番ボールが集まるのは彼だ。
 
 ポジションはあってないようなもの、いわばフリーマンである。前線で自在に動き、パスで味方を操る。
 
 かつてのように、ドリブルで相手を何人も抜いていくというプレーはもはや見られないが、独特の間合いは相変わらずで、ボールの置き所も絶妙。単調な攻撃が多いセビージャのなかで、うまくタメを作っている。
 
 チャンピオンズ・リーグのリヨン戦(1-0で勝利)では、攻撃だけでなく自陣に戻って守備に奔走するなど、随所で貢献を見せて、ファンの心を掴んだ。
 
「セビージャでのシーズンに賭けている」と語るように、モチベーションはこれまでのマンチェスター・シティでの数年間よりも、明らかに高い。
 
 昨シーズン、ナスリは負傷もあって約半年間、ピッチに立つことができなかった。このこともあり、彼を、ピークを過ぎた選手、と見る向きも少なくなかった。
 
 ナスリのセビージャ移籍に関しては、「ハードワークをしないため、ジョゼップ・グアルディオラの構想に入らなかった」と考えている者が多い。
 
 しかし実際のところは、ナスリ自身が「レンタル移籍を決める最後の瞬間まで、監督は僕の残留を望んでくれた」と明かしているように、シティの新指揮官はナスリを選手として評価していた。
 
 とはいえ、当然ながら、グアルディオラの下で絶対的な中心選手になれるという確証はない。常に先発として試合に出ることはできない……その点をナスリ自身は考慮して、レンタルを決断したのだろう。半年間ピッチから遠ざかっていただけに、今シーズンこそは常に主役としてプレーしたかったのだ。
 セビージャに到着したばかりの頃は、明らかに体重もオーバー気味だったが、約1か月で見事に引き締めた。
 
 ホルヘ・サンパオリ監督自身が獲得を強く望んだこともあり、先発起用が続き、ナスリが加入する前までは攻撃の中心としてプレーしていたフランコ・バスケスやパブロ・サラビア、清武弘嗣を上回る活躍を見せている。
 
 今シーズンのセビージャの2列目にはガンソも加入しており、スペイン代表のビトーロを含め、層は厚い。そのなかでもナスリは、一歩抜けた感がある。
 
 代表ウィークの時間を重視するサンパオリ監督にとって嬉しいのは、ナスリがフランス代表に合流しないという点だろう。
 
 年齢的にも実力的にも十分、代表でも活躍する可能性はあるものの、2014年夏に宣言した代表引退を撤回するつもりは毛頭ない。ナスリ自身が9月に『beIN Sports』のインタビューで、「フランス代表には行きたくない。もう十分苦しんだ」と話している。
 
 この期間にリーグ戦での疲労を休め、習得に時間のかかるサンパオリの独特のサッカーを吸収することができる。
 
 現在、首位のアトレティコ・マドリーと2位のレアルマドリーには勝点差1、そしてバルセロナ(4位)よりも上の順位に立つセビージャだが、そのサッカーの内容は決して褒められたものではなく、ファンですら、なぜこの位置にいるのかと首をかしげるほどである。
 
 そんなセビージャが今後、この位置をキープし続けるには、新加入ナスリのさらなる活躍が必須だ。
 
文:豊福 晋
 
【著者プロフィール】
とよふく・しん/1979年、福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、フリーで取材・執筆活動を開始。イタリア、スコットランドと拠点を移し、09年夏からはスペインのバルセロナに在住。リーガ・エスパニョーラを中心に、4か国語を操る語学力を活かして欧州フットボールシーンを幅広く、ディープに掘り下げている。独自の視点から紡ぐ、軽妙でいて深みのある筆致に定評がある。