ブンデスリーガ第6節、大迫勇也が所属するケルンがバイエルンに敵地で引き分けたことは、少なからずドイツ中に驚きを提供した。
 
 絶対だと思われていた王者の足踏みは、ライバルクラブのドルトムントにとって、首位との差を詰める絶好のチャンスのはずだった。
 
 今シーズンのブンデスリーガは、昨シーズン以上にスリリングになるかも、とファンも期待したことだろう。だが……。
 
 結果は、レバークーゼンの激しい抵抗を受けたドルトムントは、最後までゴールを割ることができずに0-2で敗れてしまった。
 
 スタートダッシュに失敗したレバークーゼンにとって、ホームで強豪相手に貴重な勝点3を奪い取ったことは大きく、ファンも選手もスタッフも大喜び。スタジアム中に、歓声が響き渡った。
 
 そんななか、テレビのインタビューを受けていたドルトムントのトーマス・トゥヘル監督が、レバークーゼンのプレースタイルに噛みついた。
 
「数字がはっきりと物語っている。今日の試合で両チームのファウル数は21:7。すでに一線を超えているじゃないか。レバークーゼンはファウルが多過ぎる。メモを取っておいたんだ。我々の被ファウル数は、マインツ戦で20回、フライブルク戦で27回、そして今日は21回だ!」
 
 この発言は、ドイツ中を巻き込んでの論争に発展した。
 
 確かに数字を見ると、ドルトムントが多くのファウルを受けたのは間違いない。技術とスピードレベルの高い選手を揃える彼らに対して、対戦チームが「相手が走り出す前に潰してしまおう」という手立てを講じるのもよくある話である。
 
 ただし、これは駆け引きの範疇とも言える。だから、レバークーゼンのロジャー・シュミット監督が「フェアなゲームだったよ。ひどいファウルはひとつもなかった」と語ったのも、それに対してトゥヘルがイライラしたのも、理解はできる。
 
 もちろん、度を越したファウルは絶対に許容されるべきではない。今シーズンも、危険なプレーで、軽くはない怪我を負う選手が出ている。
 
「悪気はない。ボールに行こうとしたんだ」と選手は語る。それは、そうなのだろう。しかし、いや、だからこそ、大事なのは危険になり得る状況を判断する力だ。
 
 ひとつの大怪我が、選手生命を脅かす。「悪気がない」と言いながらも、激し過ぎるプレーを選択するということは、回り回って自分もそうしたファウルを受ける危険に晒されているという事実とその重みを、選手は自認しなければならないだろう。
 
 それを前提とした上で、このテーマについて考えてみる。
 まず、ファウルの数だけで比較していては、この議論は成り立たないだろう。
 
 定められた規約の下、これに逸脱した行為がファウルと判定され、相手ボールから試合が再開される。そして、やり過ぎと判断されたファウルにはイエローカードやレッドカードが提示され、それに伴う罰則が科せられることで、バランスが取られているわけだ。
 
 かつて、レバークーゼンで監督を務めたクラウス・アウゲンターラーは、こう指摘する。
 
「どんなチームでも、ファウルのやり過ぎでカードをもらわないよう、気を付けているはずだ。自分たちから数的不利にはなりたくないからね。だから、激しいなかにもフェアプレーを保とうと心掛ける」
 
 激しく行きながらも、それで自分たちが不利にならないようにギリギリのラインを守らなければならない。激しく行きさえすれば全てがうまくいく、という保証はない。プレスは勢い良く行けば行くほど、そこで取り切れなかった時のダメージが大きい。
 
 あるポイントに人と労力を割くということは、ピッチ内の別の場所に自分たちがケアし切れない状況が生まれてしまうことと表裏一体である。そして、この動きが徒労に終わってしまえば、精神的にも響いてくる。対戦相手は、彼らなりのリスクを背負いながら戦っているのだ。
 
 ドルトムントがファウル数に苦しめられたという事実は、相手にギリギリのラインを守らせることを許してしまったということではないだろうか。そして、そのことをトゥヘル自身も認識しているからこそ、つい我慢できずに口にしてしまったのかもしれない。
 
 一方、元ドイツ代表で、現役時代は世界最強のストッパーと呼ばれていたユルゲン・コーラーは、別の見解を示している。
 
「試合を見ていたが、そんなに激しいとは思わなかった。トゥヘルは敢えて、問題提起したんじゃないか。まだ若く、ガツガツした競り合いに慣れていない選手を多く抱えているだけにね。審判にも、それとなくアピールしようとしたんだろう。昔のバイエルンがそうだった」
 
 いずれにしても、どんなに優れたドリブラーでも、ドリブルをするだけでは相手の守備の餌食になる。だから、どこでどのようにスイッチを入れるかがカギになるし、相手のファウルを予見したボールの持ち方や離し方を身に付けることが重要だ。
 
 バイエルンのアリエン・ロッベンはすでに32歳となり、怪我がちではあるが、試合に出ると必ず決定的な仕事をしてみせるのは、こうした武器の使い分けが非常に巧みだからだろう。
 
 ドルトムントの若き才能たちは、激しい競り合いを受け入れながらも、自分の長所をどのように発揮すれば有用なのかというテーマに、彼らなりの答えを見つけなければならないのだ。
 
文:中野 吉之伴
 
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/ドイツ・フライブルク在住の指導者。2009年にドイツ・サッカー連盟公認のA級コーチングライセンス(UEFAのAレベルに相当)を取得。SCフライブルクでの研修を経て、フライブルガーFCでU-16やU-18の監督、FCアウゲンのU-19でヘッドコーチなどを歴任。2016-17シーズンからFCアウゲンのU-15で指揮を執る。1977年7月27日生まれ、秋田県出身。