イラク戦は「劇的な勝利」だったが内容に乏しく、次につながるかと言えば、そうとは言い切れない。
 
 日本代表に威圧感というか迫力がないし、若いイラク代表に見下されている感すら受けた。実際、イラクはビビらず果敢に攻めてきた。戦前は必死に守るスタイルという話だったが、ピッチに立って「やれる」と感じたから前に出てきたのだろう。
 
 そういう時こそコテンパンにやっつけ、「日本強し」の印象を植え付けるべきだったが、まさかの苦戦。これでは今後はもちろん、世界との戦いになった時、不安で仕方がない。
 
 こういう試合では光明を見つけるのが難しいが、ひとつ見えてきたものがあった。
 
 世代交代の風が吹いたのだ。
 
 イラク戦、ベンチには香川真司、長友佑都が座っていた。岡崎慎司は75分に浅野拓磨と交代し、さらに本田圭佑も81分、小林悠と交代した。本田は「監督の指示が前の3人は疲れた選手から代える」と交代について語っていたが、主力4選手がピッチにいない光景は、ここ数年見られなかった今を象徴するシーンだった。
 
「ビッグ4」と言われる本田、長友、岡崎、香川は北京五輪組で4年前ブラジ・ワールドカップ最終予選の時は主力中の主力だった。とりわけ本田は絶対的なエースとして君臨し、ほとんど途中交代することなどなかった。
 
 実際、当時の本田はオーラもプレーも別格だった。26歳と若く、CSKAモスクワで主役を張り、代表でも不可欠な存在だった。長友もインテルに入団して高みを目指し、岡崎はシュトゥットガルトで結果を出し始めた。香川はドルトムントからマンチェスター・ユナイテッドに移籍した頃でキャリアのピークにいた。みな若く、野心に溢れ、試合に出て結果を残し、成長していた。彼らのエネルギーが日本代表を強くし、より高みを目指す集団にしていったのだ。
 
 だが、4年後の今、本田はミラン、岡崎はレスター、長友はインテル、香川はドルトムントと所属クラブは有名だが、出場機会はメッキリと減った。そのせいかプレーの迫力、ピッチでの存在感を失いつつある。
 一方、イラク戦でスタメン出場を果たしたロンドン五輪世代の清武弘嗣、酒井高徳、酒井宏樹、原口元気、さらに決勝ゴールを決めた山口蛍、最近キレキレのプレーをみせる斎藤学らはちょうど4年前、本田たちが中心になっていた年齢(25、26歳)になった。

 彼らはプレーにキレがあり、体力も充実、追い込まれた中で結果を出した。かつて本田たちがそうして中村俊輔ら先輩たちを越えていったように、彼らもその道を歩み始めたのだ。
 
 清武たちの世代は、若いながらいろんな経験をしてきている。例えば清武は、ロンドン五輪で世界と戦い、4位になった。その2年後のブラジル・ワールドカップでは試合に出られず、悔しい思いをした。原口に至っては両大会とも落選している。
 
 あれから清武はレベルの高いスペインのセビージャで開幕スタメンに名を連ね、原口はヘルタ・ベルリンで、酒井高はハンブルガーで、酒井宏はマルセイユでレギュラーとしてプレーしている。
 
 その自信が代表でのプレーにも反映されていた。イラク戦で先制点を決めたのは原口だったし、アシストしたのは清武だ。そして後半、アディショナルタイムで決勝ゴールを決めたのは山口である。試合を決めたピッチの中にロンドン五輪世代が5名いた。これは偶然ではなく、力があるからに他ならない。
 
 本田や岡崎は終わりだ、もう起用するなと言っているわけではない。代表は力がある選手にプレーする権利が与えられる場だ。だが、現状の彼らはクラブで試合に出場できておらず、コンディションも良いようには見えない。イラク戦を見ても本田は走れていないし、プレーも好調時には程遠い。そういう状況なら役割も変わってくるということだ。
 
 2年後のワールドカップを考えるなら、ベンチでドシッと構えて精神的な支柱になり、若手のプレーに目を光らすお目付け役的な存在になってくれた方がいい。彼らがベンチにいることで若い選手にはプレッシャーになるだろうが、その厳しさが選手を育て、代表の力になる。
 だが、今後も試合出場に恵まれない「ビッグ4」をチームの軸に置けば、そこに正当な競争原理が生まれず、士気も落ちる。そういう組織に伸びシロはないし、それではとうてい世界とは戦えない。むしろ一度、下野させたほうが、彼らがもう一段成長するチャンスになるし、そうなればチーム全体の力がアップする。それをハリルホジッチ監督が決断できるかどうかはわからないが……。
 
 イラク戦でロンドン五輪世代がプレーで示したように今後も監督が彼らを信頼し、責任を持たせれば彼らの意識はより高くなり、プレーの質も上がっていく。新しい活力に沸くチームには勢いが出てくる。
 
 また、ロシアワールドカップの時、彼らは27〜28歳という選手として一番脂の乗った時を迎える。これから2年間、伸びシロもまだある。彼らが活躍すれば年齢の近いリオ五輪世代の刺激にもなるだろう。
 
 結果を出し、可能性を示したロンドン五輪世代に、もうチームを任せてもいいのではないか。イラク戦での原口や清武、山口らの活躍は、少なくともそう思わせてくれるだけの説得力があった。

文:佐藤 俊(フリーライター)