試合前日の監督会見が行なわれたドックランド・スタジアムでのことだ。顔見知りで、オーストラリア代表のテレビ中継のほぼ全試合を担当する著名なコメンテーターのサイモン・ヒルと言葉を交わした。
 
「今回は、大変な試合になる。おそらくは、最近の日豪戦のどれとも違うような試合になる」
 
 テレビ中継で聞きなれた声が、そう感慨深げに語るのを感慨深げに聞いた。確かに、あの2006年の“カイザースラウテルンの惨劇”以降の日豪戦で、ここまで日本の立場が低く扱われるようなことはあっただろうか。
 
 今までのオーストラリアには“アジアの先達”に対してのいろいろな形でのリスペクトがあるのを感じとっていたものだが、今回はそれを感じない。サイモンは、日本人の筆者に憚りはっきり言わなかったのだろうが、「いつも、タフな試合が日豪戦なのに……」というような思いが、行間に込められたように感じた。
 
 アジア・サッカー通で知られるスポーツライターのポール・ウィリアムズは、「アジア諸国にとって、日本はもはや倒すことのできる相手になった」と表現した。元々、オーストラリアにとっての日本は実力的に「対等な相手」であったが、それが、ここ最近の日本の停滞で、ひとつステージが下がり「互角以上にやれる相手」という見方に成り下がってしまったのか。ここ数日のメディアの論調で、自国を語る時に「アジア王者」であることの言及が頻繁になされるのも、彼らの優越感の表われと感じるのは少し邪推が過ぎるだろうか。
 
 サッカーは、このメルボルンでは、どうしてもオージー・フットボール(AFL)というオーストラリア固有の球技の後塵を拝する存在から抜けられない。この天王山となる大一番でも、会場のドックランド・スタジアムは満員にならない見込みだ。そんな関心の度合いに比例してか、メルボルンの地元大衆紙『ヘラルド・サン』も、試合前日の段階でサッカーの大一番を伝える記事の総ボリュームは見開き2ページ程度。
 
 これでも、通常から比べると破格の扱いなのだが、それでも、オフ真っ只中のAFL関連の記事よりも少ない。前々日の段階では、裏表紙に写真無しのベタ記事しか載らず、日本から来た旧知の記者が「サッカーの記事が全然無いんだけど、どういうこと?」と納得いかずにメッセージを送ってくる始末だった。
 そんな状況もネットの世界では若干様相が異なる。同じ『ヘラルド・サン』紙でも、ウェブ版になるとサッカーに関する記事のボリュームが、配信記事も含めて、かなり増える。その中で目を引いたのは10日朝にアップされた「日本にケーヒル警報発令」と題した記事だ。
 
 冒頭「日本はケイヒルを恐れている。そして、ケイヒル本人もそれをよく分かっている」で始まる記事は、「アジアの強豪同士の大一番で、メンバーシートにケイヒルの名前が載るだけで、はるばる遠征してきたサムライ・ブルーの背筋をゾッとさせる」と日本の“ケイヒル恐怖症”を揶揄するような論調だ。
 
 どうしても、日本が気になるケイヒルの動向。監督会見でもアンジ・ポスタコグルー監督は「(ケイヒルは)先発したいかって聞けば、喜んで手を上げる」というように、ケイヒルは先発でも暴れる。
 
 しかし、同監督は、その発言の直前で「先発をさせるのであれば、今日の(練習での)様子を見て決める。(中略)もし、彼が先発しなくても、試合の重要な局面でプレーするのは確実。試合の後半、たとえば30分とかプレーするだけでも相手にダメージを与えられる」と、かなり具体的にケイヒルの起用法に触れた。この一連のコメントから、筆者は「ケイヒルはベンチスタート」だろうと得心した。
 
 そんな解釈は、現地メディアとも共有できたようだ。会見後、間もなく上がった『ヘラルド・サン』紙のウェブ記事は、「アンジ(・ポスタコグルー監督)、ケイヒル起用法を明かす」と題し、監督の会見での発言を詳報。その論調も、筆者の解釈同様に「ケイヒル先発回避濃厚」を明言しないまでも、強く示唆する内容だった。
 
 日本の“天敵”ケイヒルはスーパーサブが濃厚、試合はオーストラリア優勢――。
 
 これが現地メディアの見立てと書いて語弊はないだろう。最後にひとつ、メディアではないが、かなりシビアな分析に基づいてオッズを立てるスポーツ・ベッティング大手のUbet社の現在のオッズが、日本の「2.90倍」に対して、オーストラリア「2.45倍」と、オーストラリア優勢となっていることも併せてお伝えしておく。
 
取材・文:植松久隆(フリーライター)