ロシア・ワールドカップのアジア最終予選、イラク戦で負けたら、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督のクビは飛んでいただろう。
 
 後半アディショナルタイム、山口蛍の決勝点は値千金だった。どうにか、戦いを次に繋げられたからだ。
 
 しかし、試合内容はお粗末で、評価できるポイントは少なかった。
 
「このチームの強みは、多くの選手が点を取っていること」
 
 そう語るハリルホジッチは、山口が得点を決めたことに胸を張ったが、「得点率をもっと高めたい。なぜなら、いつもいつも10回も決定機を作れないからね」というコメントの方が本音だろう。
 
 イラク戦でも、幾度もあった好機をなかなか決めきれなかった。右サイドの本田圭佑は抜け目なくシュートポジションに入ったが、ゴールネットを揺らせていない。ここ数試合のデジャブーを見せられるような展開だった。
 
「審判が日本を助けた」とイラクの監督は不満を示したが、確かに先制点は本田のパスがオフサイドだった疑いがあるし、2点目の場面でも、イラクは怪我人を戻す許可が与えられず、アディショナルタイムも6分と長かった。
 
 ハリルホジッチはUAE戦で、ジャッジによって負けた、と何度も繰り返していたが、このイラク戦ではジャッジで勝ったに等しい。つまり、ジャッジも含めての勝敗と言えるのだ。
 
 そんなことよりも、ディテールを掘り下げることの方が重要である。
 
 例えば、セットプレーからの失点が続くディフェンスの問題は、まったく改善されていない。
 
「セットプレーで失点の気配が漂っている。ディフェンスに大きな問題を抱えているのは間違いない」
 
 そう解説したのは、『「戦術」への挑戦状 フットボールなで斬り論』(東邦出版)の共著者で、ワールドサッカーダイジェストの連載を長年にわたって続けているヘスス・スアレス氏だ。
 
「セットプレーでの、てこ入れが必要だろう。イラク戦では、失点の時だけでなく、相手の21番(サード・アブドゥルアミール)に競り負け、ポストにヘディングシュートを当てられていた。日本には高さが足りない」
 
「両ゴールポストにディフェンダーを入れ、GKが積極的に空中戦に対応し、ひとりがそこをカバーするのは、ひとつの手かもしれない。あるいは、マンツーマンでは手が足りないのでゾーンにするとか」
 
「良いボールが入ると、苦しい場所が出てくる。今のままでは、失点を繰り返すだけだろう」
 スアレス氏が指摘するように、ハリルホジッチは弱点になっている「高さ解決」にすら、手を打てていない……。
 
 そもそも、自分たちがボールを握る、という面をより向上させるべきだろう。イラク戦では、パスのタイミングが合わず、いたずらにボールを失い、不用意な逆襲を受けていた。そのため、無理に止めざるを得ず、セットプレーを与えてしまった。
 
 セットプレーでの被失点の可能性を少なくするため、ハリルホジッチは「高い位置でボールを奪い返せ」と山口を投入したが、どこかピントがずれている――結果的に決勝点を蹴り込んだのが山口だったとしても、だ――。
 
「オーストラリアは、イラクよりもパワーに優れている。空中戦のデュエル(1対1)に勝つ習慣を身につけなければならない」
 
 イラク戦後、ハリルホジッチは「デュエル」という言葉を万能の呪文のように繰り返したが、一朝一夕に空中戦に勝てるものではない。体格差というのは、いかんともしがたい。だからこそ、相手の良さを封じる「戦術」があるのだ。
 
 デュエルが弱い。勇敢さ、体格、身体能力が劣る――そんな分析なら、素人でもできる。
 
 正念場のオーストラリア戦。ハリルホジッチがどんな修正を施してくるのか、注目である。
 
文:小宮 良之
 
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『おれは最後に笑う』(東邦出版)など多数の書籍を出版しており、2016年2月にはヘスス・スアレス氏との共著『「戦術」への挑戦状 フットボールなで斬り論』(東邦出版)を上梓した。