日本と豪州、新旧のアジアカップ王者が雌雄を決した日豪戦から一夜が明けた。豪州メディアが11日の夜に行なわれた試合をどのように伝えるかを見る一番の指標は、開催地メルボルンのローカル新聞がどのように取り上げるかを確認するのが一番だろうと、まずは、宿舎近くの新聞店に走った。
 
 手に取ったのはメルボルンのローカル2紙。まずは、大衆紙「ヘラルド・サン」。裏一面の上半部にかなり大きく、惜しいヘディングを外して大仰な仕草で悔しがるマシュー・スピラノビッチの写真と共に「なんて無駄だ!」の大見出し。その下には「ポステコグルー監督、なんとかドローで凌いだサッカルーズに喝」という見出しが続く。
 
 中面では、大きく見開きで試合を詳報。大きな写真で扱われたのは、得点直後の歓喜の原口元気、PKを冷静に沈めたキャプテンのミレ・ジェディナクの日豪それぞれの得点シーンと、あわやのホームでの敗戦からチームを救った守護神マット・ライアンのファインセーブの写真が、ほぼ同じ大きさで並んだ。
 
 もう一紙は、一般紙「ザ・エイジ」。こちらもタブロイド判の中面で、PKを決めチームメートに祝福されるジェディナクの写真を大きくフィーチャー。そこには「サッカルーズ、一安心」となんとかPKで同点に追いつき、負けずに済んだ自国の代表チームを少し揶揄するような意図の見出しが躍る。
 
 同じエイジ紙のウェブ版には「日豪、勝点をシェア」とのマイケル・リンチ記者の記事。そこには、「日本のハリルホジッチ監督は、選手の怪我もあり辛勝したイラク戦から4人の選手を替えてきた。イラク戦で出番のなかった香川真司の起用は、日本代表が最終予選での戦いを立て直すために選ばれた人選において最も特筆すべきもの。ハリルホジッチの決断は実を結んだように見える」との興味深い記述があった。
 
 文脈上、4人のイラク戦からの変更起用された選手すべてを指すとも、香川個人を指すともとれる微妙な一文だが、いずれにしても、イラク戦からの選手起用の変更をポジティブに捉えている点で興味深い。
 
 豪州最大のフットボールサイトで準国営放送SBS運営の「the World Game」には、多くの日豪戦関連記事が挙げられているが、日本メインで書かれたものは現時点では見当たらない。試合直後に上がったサム・キャロル記者の速報記事では、「日本のMF原口元気が、開始早々の5分で先制。本田圭佑の素晴らしいタイミングで出されたパスを受け、ペナルティボックスのほんの少し前で、飛び出てきたGKマット・ライアンの横を抜く美しいゴールを決めて見せた」との描写で日本の得点経過を解説している。
 
 その他に固有名詞が上がったのは、豪州のPKを伝える場面での西川周作と「浅野拓磨が、原口のクロスにはわずかに及ばなかったことで、ライアンがなんとか試合をドローで終えることができた」との記述だけで、その他の選手への言及は無かった。
 
 そのSBSのチーフ・フットボール・ライターであるフィリップ・マカリフのレビュー記事では、「日本は、早い時間帯での得点の後に引いて守り、サッカルーズにより多くのポゼッションを取らせるようにプレーした」との記述が見られる。
 
 また、彼の書いたFWトミ・ユリッチ(ルツェルン)のコメント記事にも「日本は、最近の試合で良い結果が出ていないこともあって、早い先取点の後ですぐに引いて守ってきた」とのユリッチのコメントが引用されており、ベテラン記者の目には、日本が守りに入ったとの印象が強く残ったようだ。 
 
 一方、国内外の多くのサッカー中継を行なうFOX SPORTSのウェブ版では、日本をほぼ単独で取り上げた記事を見つけることができた。「豪州に衝撃を与えた日本の戦術」と見出しが打たれた記事では、06年ドイツ・ワールドカップの“カイザースラウテルンの惨劇”で3点目のダメ押し点を決めた伝説の名手で、現在はAリーグのブリスベン・ロアの監督を務めるジョン・アロイージが試合の印象を語った。
 
「日本があんなに引いて守って相手にポゼッションを与えるのを見たことがない。ショックだった。日本の選手が望んだことなのかは分からないが、そのスタイルをうまくやったうえで、ちょっとしたカウンターアタックも繰り出してきた。今までの日本はポゼッションでゲームを支配するスタイルだったが、それでも我々は互角以上にやってきた。その頃の我々のスタイルはロングボールを多用して、ゴールに迫るものだったが、豪州のサッカーも進化して、今回はこちらのポゼッションが上回った」と、個々のスタイルの変化を自らの経験も交え、その驚きを感慨深げに語っていた。
 
「引いて相手にポゼッションさせる」日本の戦いぶりが、豪州メディアに「今までの日本とは違う」という印象を強く残したことが、これらの記事などからも容易に感じ取れる。今回の日本の戦いぶりは、豪州メディアの日本のイメージを大きく変えてしまうものだったかもしれない。
 
取材・文:植松久隆(フリーライター)