イタリアでは本田圭佑の名前が、ここにきて再び人々の話題に上るようになっている。しかし悲しいかな、それはピッチでの活躍が理由ではない。今シーズンが始まって以来ずっと、ほとんどベンチを温め続けているのだから(7節を終えたセリエAで先発はゼロ、出場時間は計18分間)、当然だろう。
 
 今の本田は魔法使いが現われて、魔法の杖で全てを変えてくれるのを待つばかりだろう。そうでもないかぎり、この窮状からは抜け出せそうにない。
 
 本田がイタリア人の注目を集めたのは、また“爆弾発言”をしたからだ。
 
 振り返ればちょうど1年前にも、同じようなことがあった。昨年の10月4日、ホームでナポリに敗れた直後という最悪のタイミングで、本田は経営陣、監督、そしてメディアやサポーターに苦言を呈した。
 
「パリSGやマンチェスター・Cのようにチームに大きな投資しなければ、ミランはいつまでも再出発できない。ミハイロビッチ(当時の指揮官)は問題が選手の精神的アプローチにあるって言っている? わからないね。なぜ選手のせいにする? このチームを変えるには、経営陣も監督もサポーターもメディアも全て評価基準を変える必要がある」
 
 イタリアでは、「人前で喋るのが苦手で、大人しい」と思われていた本田の突然の手厳しいコメントに、ミランとその関係者たちは一様に驚いたものだった。
 
 しかし、360度を敵に回したこの本田の発言は、多くのサポーターから支持されたこともまた確かだった。発言の内容には共感できる部分があったうえ、なによりもチームから外される危険を顧みず、率直な思いを声に出した勇気を、ミラニスタたちは評価したのだ。
 
 一方、ミランのナンバー2であるアドリアーノ・ガッリアーニ副会長は、大いに困惑した。チーム方針に物申すことは、ミランでは絶対に御法度だ。ミックスゾーンで日本メディア向けに発せられた本田の発言をもう一度、一語一句まで正確に翻訳しなおさせ検証。ただ、スキャンダルを嫌うクラブは、対外的には“お咎めなし”という結論に落ち着かせた。ガッリアーニはこう取り繕っていたものだ。
 
「本田が日本人記者にコメントすると、彼が実際に何を言ったのか、なかなか正確に知ることができない。困ったものだ」
 あれからちょうど1年――。10月2日のサッスオーロ戦後のミックスゾーンで、再び日本人記者の前で思い切った発言に出た。どうやら10月の爆弾発言は、本田にとっての恒例行事になりつつあるようだ。
 
 今回の標的はサポーター。「ブーイングが多すぎる」、「チームや選手への愛がない」と本田は彼らを非難し、最後にはイタリアのサッカー文化にまで言及したのだ。
 
 前回とは異なり、ミランはこの発言に対するコメントを控えている。理由は2つある。1つ目は、中国資本へのクラブ株式譲渡の最終段階という非常にデリケートな時期だから。できるだけ波風は立てたくないのだ。
 
 2つ目は、本田の契約が来年6月で満了を迎え、しかも契約延長する可能性が極小だから。すでに退団が確定的な控え選手の苦言など、さほど重要ではないというわけだ。
 
 代表戦のために戻った日本で、「結果が全てだし、俺へのブーイングは分かる。試合が終わって負けていれば、ブーイングは当然。ただ、試合中は(選手を)委縮させないでほしい。ミラニスタに対しては感謝しているし、愛すべき存在。そこは誤解してほしくない」と発言の真意を説明し直したことも、クラブ首脳陣の気持ちを和らげることに役立ったかもしれない。
 
 しかし、後からどんなにフォローしても、やはりこうした発言は最初に発した内容のインパクトが強い。今回はサポーターが唯一の標的だっただけに、ミラニスタの心象は最悪だ。
 
 ただそれでも、過激な発言のわりには、その反響はそれほど大きくはなかった。本田に対する抗議デモが起こったわけでもない。発言は不快ではあるが、正直に言って多くのミラニスタは「どうでもいい」と思っている。すでに本田には無感心なのだ。もしかしたらこれは、激怒されるよりも、嘆くべきことかもしれない…。
 
 もちろんだからといって、まるでスルーされたわけではない。ネット上における彼を非難する声はかなり無慈悲だ。そのいくつかの例を挙げてみよう。
 
「こいつはイタリア人には何にも喋らないくせに、日本人の前だと急に大口を叩くようになるのか? 一体いつになったらミランから出ていってくれるんだ!」
 
「試合に出てないくせに!」
 
「家に帰れ!」
 
「そんなに日本がいいなら、日本にいればいいじゃないか」
 
「サポーターに拍手を強要するのは、下手くそな選手の証拠」
 
「ミランの選手は拍手したくなるようなプレーをしないじゃねえか!」
 
 一部では発言に共感するコメントも見られるが、それも昨年に比べるとごくごく少数だ。
 ミラニスタは、チャンピオンズ・リーグ優勝7回を誇る名門らしからぬ酷い試合を見ることにも、強化部門が有効な補強をしないことにも、ヨーロッパ・カップ戦出場を逃して続けている(すでに3年連続で遠ざかる)ことにも、本当にウンザリしている。サン・シーロにブーイングがこだますのは、何よりもそれゆえだ。
 
 そんな中で一介の控え選手から“ブーイングに対するブーイング”を受けたのだ。サポーターにとっては腹立たしい限りだろう。
 
 デジタル時代が加速する現代では、どこかでもらした言葉が一瞬のうちに世界中に広まってしまう。
 
 だからサッスオーロ戦後の本田の発言も、日本メディアの前で語ったにもかかわらず、すぐに『RAI』(イタリア国営放送)のニュースサイトで取り上げられ、その後は新聞やミラン系サイトがそれをシェアし、そこから『ツイッター』や『フェイスブック』などのSNSを通じてさらに拡散された。
 
 インターネットなど見ないという数少ない人々にも、翌日には新聞や口コミを通して知れ渡った。
 
 イタリアのサポーターは自分たちの振る舞いを非難されるのを激しく嫌うし、かなり執念深い。そのことをたぶん、本田は分かっていない。次にサン・シーロに足を踏み入れる時、彼は初めてそれを実感するはずだ。
 
 8節のキエーボ戦(10月16日)はアウェーだが、9節のユベントス戦(10月23日)はホーム。その時のミラニスタの反応に注目しよう。
 
文:マルコ・パソット(ガゼッタ・デッロ・スポルト紙)
翻訳:利根川晶子
 
【著者プロフィール】
Marco PASOTTO(マルコ・パソット)/1972年2月20日、トリノ生まれ。95年から『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙で執筆活動を始める。2002年から8年間ウディネーゼを追い、10年より番記者としてミランに密着。ミランとともにある人生を送っている。