結果はまずまず、内容はダメダメ――。
 
 ジャンピエロ・ヴェントゥーラ新監督の下、ロシア・ワールドカップに向けて新たなスタートを切ったイタリア代表の戦いぶりを端的に表現するとこうなる。
 
 今回の国際Aマッチウィークに行われたワールドカップ欧州予選でイタリアは、10月6日にスペインからホームで1-1の引き分けをもぎ取り、続く9日のアウェーのマケドニア戦ではロスタイムの決勝弾で3-2の勝利を収めて、2試合合計で勝点4を確保した。予選3試合を終えて勝点7を稼ぎ、スペインと並んでグループGの首位に立っている。
 
 こう書くと、ヴェントゥーラ新体制の船出はまずまず悪くないようにも見える。しかし、この2試合でアッズーリが見せた戦いぶりは問題だらけ。つい3か月前のEURO2016でアントニオ・コンテ(現チェルシー監督)が率いたチームとメンバーがほぼ同じであるにもかかわらず、様々な戦術的な問題が山積しているのだ。
 
 スペイン戦は、イタリアにとって「絶対に負けられない」どころか「勝つべき」試合だった。ワールドカップ欧州予選は、本大会に直接進めるのが各グループ1位のみで、2位はプレーオフに回るという厳しいレギュレーション。プレーオフ行きのリスクを避けて1位抜けを目指すには、直接のライバルであるスペインにホームで勝っておく必要があった。
 
 しかし、ヴェントゥーラ監督が採った戦術は、EUROでコンテがスペインに2-0で完勝した時のそれとはコンセプトがまったく異なる、極めて消極的なものだった。前線からのハイプレスを放棄してスペインにボールを持たせ、完全に自陣に引きこもったのだ。
 
 その結果、前半のボール支配率はなんと27%。たしかに、厚い守備ブロックで中央を固めて自陣2ライン(DFとMF)間にスペースを与えず、相手をサイドに追い込んでボールを後ろに戻す以外の選択肢を奪うというロープレスの組織的連携は、完璧に近かった。終始押し込まれながら前半に許したシュートはわずか2本。危険な場面はゼロだった。
 
 しかし、完全に自陣深くに押し込まれているため、ボールを奪ってもすぐにスペインのハイプレスに晒されて、やみくもにロングボールを蹴るか、パスが3本と繋がらずに終わるかのどちらか。イタリアが自陣からボールを持ち出して敵陣に攻め込んだ回数は、前半の45分間でたったの3回、シュートはゼロだった。
 ヴェントゥーラ監督もさすがにこれではまずいと考えたのか、後半に入るとチームの重心をやや上げて攻撃的に振る舞うよう修正を施した。
 
 しかし、最終ラインを押し上げた途端にチームは攻守のバランスを崩し、55分にはDF陣の連係ミスからビトーロに裏を取られて、GKジャンルイジ・ブッフォンと1対1の状況を作り出されてしまう。そこにタイミング良く飛び出したブッフォンが、クリアを空振りするという「10年に一度」のミスを犯して、先制ゴールを許す結果となった。
 
 さらにその10分後にもまったく同じ形からビトーロが裏に抜け出したが、これはシュートが枠を外れて命拾い。もしこれが決まっていれば、万事休すだったことは間違いない。
 
 0-1となった後は、スペインがやや重心を下げて試合をコントロールしにきたこともあり、イタリアが攻勢に出る場面も散見された。
 
 しかし、プレッシャーの少ない自陣でボールを回す3バック+アンカーの「後ろ4人」とそれ以外の「前6人」が分断されて間延びした陣形になっているため(イタリアのシステムは3-5-2)、中盤を省略して前線に不正確なロングボールを送り込む以外の攻め手がない。さらに、その縦パスが収まる頻度も、セカンドボールを拾って二次攻撃に転じる頻度も低く、危険な場面はほとんど作れないままだった。
 
 残り10分を切ったところで、たまたま拾ったセカンドボールからの展開でセルヒオ・ラモスのファウルを誘ってPKを獲得し、これをダニエレ・デ・ロッシが決めたため、1-1の引き分けという最低ラインの結果を確保したものの、内容的には1-1よりは2-0のほうがずっと相応しい試合だった。
 
 内容はともかくスペインにホームで敗れるという最悪の結果だけは回避したことで、とりあえず一息を付いたのも束の間、3日後に敵地で開催されたマケドニア戦は、スペイン戦でも見えていたチームの戦術的な問題点があからさまに露呈する試合となった。
 マケドニアはFIFAランキング146位(香港やベトナムより低い)の弱小国。かつて「ジョゼ・モウリーニョのインテル」で三冠達成に貢献したベテランのゴラン・パンデフ(ジェノア)、パレルモのCFイリヤ・ネストロフスキを前線に擁するものの、その他は中堅・弱小国のリーグでプレーする無名選手ばかりのチームである。
 
 しかし、このマケドニアを相手にボールを支配して主導権を握って試合を優位に進める立場に立ったイタリアは、攻撃の局面において、スペイン戦で見られたのとまったく同じ問題を抱えることになった。
 
「後ろ4人」が自陣の中途半端な高さでボールを回した後、前線(2トップあるいはサイドの高い位置に進出したWB)にパスを送り込もうとするばかりで、中盤を経由した組み立てがまったく存在しないのだ。
 
 攻撃時の陣形は3-1-4-2。中盤の3人は、アンカーのマルコ・ヴェッラッティが最終ライン近くまで下がって自陣でのパス回しに加わる一方、インサイドハーフのフェデリコ・ベルナルデスキ、ジャコモ・ボナヴェントゥーラは敵中盤ラインの背後までポジションを上げる。
 
 そのため、後ろ4人が構成する「3-1」と前6人の「4-2」にブロックが分断されて、その間を結ぶためには難易度の高いミドル、ロングの縦パスを高い精度で送り込む以外に選択肢がない状態に陥ってしまう場面が、繰り返されることになった。
 
 これでは、ショートパスによるリズムのいい組み立てを得意とするヴェッラッティの特長を生かせないばかりか、縦パスが通らずボールを奪われた時には、陣形が間延びしているため中盤のフィルターがまったく効かず、一気に最終ラインが相手のカウンターアタックに晒されることになる。
 
 実際にマケドニアは、中盤でのボール奪取からのカウンターで繰り返してイタリア・ゴールを脅かすことになった。ボール支配率は34%に留まったものの、90分を通してイタリアのペナルティーエリアに13回も侵入、シュート14本のうち7本を枠内に収めたのだ。
 
 試合は、24分にCKからアンドレア・ベロッティが決めたイタリアがリードして前半を折り返したものの、後半に入って57分、59分にマケドニアがカウンターから立て続けに2ゴールを挙げて逆転。イタリアは75分にアントニオ・カンドレーバのクロスをチーロ・インモービレが決めて同点に追いついた後、ロスタイムにやはりカンドレーバのアシストでインモービレが決勝ゴールを奪い、何とか勝点3を持ち帰った。
 
 マケドニアの2得点はいずれも、イタリア中盤のパスミスをかっさらうカウンターから決まったもの。ヴェントゥーラ監督は「ありえないミスからの失点」と、責任を選手に押し付ける形で切って捨てた。
 
 しかし、どちらのパスミスも、2つのブロックが分断されて間延びした陣形の中で出しどころがない状態に追い込まれて犯したもので、純粋な技術的ミスというよりも戦術的欠陥が必然的に生んだミスという側面が強い。自陣でのボールロストが10回に上ったこと、失点した2回を除いてもさらに11回もペナルティーエリアへの侵入を許していることからも、それは明らかだ。
 主将のブッフォンはこのマケドニア戦後、「この2試合で手に入れた勝点4のすべてに見合っただけの戦いができたわけではない」と率直に語った。
 
 実際、スペイン戦で見せたハイプレスとポゼッションの放棄、マケドニア戦も含めた2試合で露呈した攻撃の戦術的問題(陣形の分断と間延び、中盤の不在、ボールロスト時のフィルター欠如)など、ヴェントゥーラ体制下のアッズーリは、コンパクトかつアグレッシブなモダンフットボールを見せていたコンテ時代と比べると、明らかに試合内容が“退化”していると言わざるを得ない。
 
 この戦いぶりに対しては、目先の結果に論調が左右される傾向が強いスポーツ紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』ですら、「サッカーに明確なコンセプトが見えない。敵ゴールから遠いところでボールを回しているだけで、攻撃のアイディアがはっきりしない」、「4試合で7失点は多すぎる。マケドニア戦の失点もミスというより最終ラインがプロテクトされていないから生まれたもの」、「ヴェッラッティを活かす中盤の構成を考えるべき」と、手厳しい論調だ。
 
 結果以上に内容を重視する批評性の高いメディアでは早くも、ヴェントゥーラ監督の手腕やイタリア代表指揮官としての適性を問う議論すらも出始めている。
 
 次の試合は11月12日のリヒテンシュタイン戦(アウェー)。実力差を考えれば戦う前から勝点3が決まっているような試合だが、最終的に得失点差で1位抜けを争う可能性が高いスペインがすでに8-0で勝利しているため、イタリアもできる限り多くのゴールを挙げたい状況だ。
 
 ヴェントゥーラ監督がその手腕をシビアに問われる機会となるのはむしろ、その3日後に組まれているドイツとの親善試合だろう。ここで不甲斐ない戦いしか見せられず一方的な敗北を喫することにでもなれば、「指揮官には予選と本大会を戦い抜くに相応しい力量と適性があるのか」という議論になることは避けられない。
 
 はたしてヴェントゥーラ監督は、1か月後の代表招集に向けてどんな解決策を練っているのだろうか。
 
文:片野道郎
 
【著者プロフィール】
1962年生まれ、宮城県仙台市出身。1995年からイタリア北部のアレッサンドリアに在住し、翻訳家兼ジャーナリストとして精力的に活動中だ。カルチョを文化として捉え、その営みを巡ってのフィールドワークを継続発展させている。『ワールドサッカーダイジェスト』誌では現役監督とのコラボレーションによる戦術解説や選手分析が好評を博す。
 
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