世界のあちこちを旅していると、サッカーの試合に関係なく「アウェーを感じる」バロメータが働く。私の場合、(1)公用語が英語、(2)サッカーがナンバーワンスポーツでない、(3)異文化や外国人に対して不寛容、というのがアウェーを感じる3大要素だ。
 
 逆に治安が多少悪くて、どれほど辺鄙な国であっても、私の拙い英語が通用して、それなりにサッカーの話ができて、極東の島国から来た人間を受け入れてくれるのであれば、私は一定以上の安心感を覚えることができる。
 
 昨年のアジアカップ以来、1年半ぶりに訪れたオーストラリアは、(1)と(2)については残念ながらアウェー要素をたっぷり含んでいる。オーストラリアで話されるイングリッシュは、スピーディーな上にアクセントが独特でどうにも聞き取れない。加えてかの国では、ラグビーやクリケット、そしてオージーフットボールが人気スポーツ。サッカーについては、10年前に比べれば注目されるようになったものの、まだまだ「ナンバーワン」とは言い難い。
 
 それでも、オーストラリアという国に過剰なアウェー感を覚えないのは、(3)に関して常にオープンマインドであるからだ。もともとは大英帝国の流刑地であったが、第二次世界大戦の前後からギリシャや旧ユーゴスラビアといった東欧からの移民が増え、その後は東南アジアや中国や中東からの移民・難民を受け入れて今に至っている。
 
 今回、日豪戦が行なわれたメルボルンでも、サウスメルボルンFC(ギリシャ系)やメルボルン・ナイツFC(クロアチア系)といった移民系の名門クラブがあり、地域性を重視するAリーグには所属していないが、今も根強い人気を誇っている。
 
 さて、オーストラリア代表のアンジェ・ポステコグルー監督(この人はギリシャ系)は、日本サッカーをリスペクトする理由としてJリーグの存在を挙げている。いわく「Jリーグはアジアで一番のリーグだ。世代別代表で日本と互角に戦えるのはA代表だけだが、AリーグがJリーグと競えるレベルまで成長できたらこの状況も変わってくると思う」。
 
 確かに、2年前のACLではウェスタン・シドニー・ワンダラーズが優勝しているが、Aリーグがアジアでトップレベルのリーグであるとポステコグルーは考えていない。それは今回のメンバーで、国内組がティム・ケイヒルひとりであったことからも明らかだ。
 
 とはいえ現地で取材をしていると、「これは敵わないなあ」と痛感することもしばしばであった。日豪戦の会場となったドックランズスタジアムは、シティ(中心街)のサザンクロス駅から歩いて5分の好立地(東京駅のすぐ近くにスタジアムがあるようなものだ)。メルボルンには、これとは別にアジアカップの会場となったレクタンギュラー・スタジアムもある。実のところ施設面では、Jリーグはかなり差を付けられていると感じた。
 
 また、日豪戦の3日前に行なわれたAリーグのシドニー・ダービー(ウェスタン・シドニー・ワンダラーズ対シドニーFC)では、リーグ最多となる6万1880人の集客を記録。国内サッカーの人気も、間違いなく浸透しつつある。
 
 昨年のアジアカップで、アジア各国にルーツを持つ人々が「祖国」の代表チームに声援を送る姿に接した時、改めて「オーストラリアって、実はアジアなんだな」との認識を新たにした。持ち前の多様性に加え、スポーツを楽しむ伝統と環境は、かの国のサッカーの大きなアドバンテージとなり得るだろう。日豪戦は1-1のドローに終わったが、日本は決してうかうかしていられない。そんな密やかな危機感を覚えた、今回のメルボルン取材であった。
 
宇都宮徹壱/うつのみや・てついち 1966年、東京都生まれ。97年より国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。近著に『フットボール百景』(東邦出版)。自称、マスコット評論家。公式ウェブマガジン『宇都宮徹壱ウェブマガジン』。http://www.targma.jp/tetsumaga/