帝京が好調だ。
 
 10月15日、高校選手権・東京都予選Bブロックの準々決勝が行なわれ、帝京は今夏のインターハイに出場した強豪、東海大高輪台と対戦。後半6分にFW中瀬大夢(3年)が挙げた虎の子の1点を守り切り、ベスト4に駒を進めた。7年ぶりの悲願達成──選手権出場──まで、あと2勝だ。
 
「もう毎試合が決勝戦のようです。今日は内容がまるで良くなくて、負けてもおかしくなかった。でも次まで3週間(準決勝は11月6日)。もう一回やり直せるのはありがたいです。命拾いしました」
 
 そう謙虚に語るのは、就任3年目の日比威監督だ。
 
 個人的には久方ぶりの再会だった。以前は有名なマネジメント会社に勤務し、名波浩氏や三浦俊也氏など現役選手やサッカー解説者をサポートする立場。当然、サッカーメディアとの親交が深かった。業界で辣腕を発揮していた日比氏が一念発起したのが4年前。OBである帝京高校サッカー部が存亡の窮地に立たされていると聞き、奮い立ったのだ。荒谷守監督(現アドバイザー)の下でコーチを務め、2014年にはその座を引き継ぐ。名門復活への土壌を着々と積み上げてきた。
 
 就任1年目の選手権予選は初戦敗退の憂き目に遭い、昨年度は東京Bで決勝に進出するもPK戦で涙を呑んだ。過去3度制覇のインターハイは6年連続で出場を逃がし、同じく6度の優勝を誇る選手権は2009年度以降、本大会にエントリーしていない。惜しいところまで行くが、なかなか全国の扉をこじ開けられないでいるのだ。日比監督は「よく言われるのは、3年出れなければ初出場と同じ。いまの帝京はチャレンジャーでもない、普通のチームなんです」と語る。たしかに、伝統のカナリア軍団を“古豪”と見る向きも少なくない。
 
 地道な反攻作戦がはじまった。指揮官が就任直後から積極的に取り組んできたのが、中学年代のスカウティングだ。スタッフが様々な場所に散らばり、辛抱強く好タレントの勧誘を続けた。かつて後光がさしていたそのブランド力は頼りにできない。ジュニアユース年代の指導者にビジョンを丁寧に説明し、頭を下げ、これはと思った選手の元には幾度となく足を運んだ。弛まぬ努力が結実したのが、今年の春だ。FC東京U−15の2チーム(深川とむさし)から合わせて6名が入部し、地球の裏側からブラジル人の韋駄天FWサントス・オリベイラ・ランドリックを連れてくるなど、他校が羨むような逸材たちを迎え入れたのである。
 
 春先は、ボールスキルに長けた新入生たちを中心に分厚いポゼッションを展開し、アクションスタイルを貫いた。インターハイ予選は決勝トーナメントを前に早期敗退を余儀なくされ、いまひとつ結果が伴わないなか、下級生の突き上げに触発され、尻上がりに調子を上げたのが3年生たちだ。夏以降は彼らを軸にインテンシティーの高いサッカーも追求。その攻守両面のエネルギッシュなスタイルが、一発勝負の選手権予選で効果を発揮する。

 2次トーナメント1回戦で昨年度の選手権本大会準優勝校、國學院久我山を1−0で下すと、2回戦は修徳を相手に4−1の快勝。そして土曜日、東海大高輪台との準々決勝は中盤での激しい潰し合いでつねに優位性を保ち、勝ちに徹したサッカーで強豪を封じ込めた。GK和田侑大(2年)、CB菅原光義(2年)、ボランチの五十嵐陸(3年)、トップ下の遠藤巧(3年)、そしてCF中瀬らで構成するセンターラインは、強固そのものだ。
 
 
 日比監督は「まだまだ話にならないレベル」としつつも、今後に明るい展望を描いている。
 
「ここに来て1年生と3年生がかなり伸びてるんです。夏が終わったあとから相当な走り込みをしてきた。彼らがかつて経験したことがないほど、過酷なものだったはずです。しかもただ走って追い込むだけじゃなくて、ボールを使いながら、つねに考えさせながら。そこに食らいついてきた選手だけがいま、残ってるんです」
 
 東海大高輪台戦で決勝点を挙げた中瀬は、胸に輝く9つの星を見つめながらこう話す。
 
「全国に出れてないから大きなことは言えないですけど、僕らの世代であっても帝京は帝京で、黄色いユニホームを着てプレーしたいって想いは強いんです。この星を付けてプレーしたいから入部した。東京予選は本当に強豪ばかりで接戦続きですけど、ひとつずつ勝ちを掴んでいける強さが今年のチームにはあると思うんです。かならず選手権に出ますよ」
 
 では、これからの帝京サッカーの中軸を担う期待の1年生MF、三浦颯太はどんなビジョンを抱いているのか。FC東京U−15むさし時代はU−16日本代表の平川怜(FC東京U−18)とともに中盤でプレーした、生粋の技巧派だ。
 
「もちろん監督をはじめ、熱心に誘ってもらったのは嬉しかった。でも入学を決めたのはそれだけじゃなく、帝京で全国に出たい、僕たちの代で帝京を強くしたいって気持ちがあったからです。たくさん試合をさせてもらっているし、学ぶことがすごく多い。ここに来てまだ半年ですけど、自分でも実感できるくらいフィジカルが強くなりました」
 
 インテンシティーと細やかなパスワークが高次元で融合するスタイルは完成を見るのか。そして、伝統のカナリアは7年越しの悲願を成就させ、選手権の檜舞台でさえずりを聞かせてくれるのか。興味が尽きない、じつに今後が楽しみなチームだ。
 
 最後に、1991年度大会の選手権優勝メンバーにして元主将の日比監督に訊いた。はたして、帝京魂とはいかなるものなのか。
 
「一人のひとりの責任感。これに尽きるんじゃないですかね。昔はみんな持ってた。黄色いユニホームを着たいがために頑張る。最後まで戦う。そうやって一人ひとりがプレーするからこそ、周りや観る人たちに伝わって、『残り1分で負けてても追いつくんじゃないか、帝京がひっくり返すんじゃないか』って雰囲気になる。だから帝京魂というのは中にいる僕たちが意識して持つものではなく、周りが感じ取るものだと思うんです。いまのチームはまだそこまで行ってませんが、少しずつでも近づけたいですね。本当に死に物狂い。毎日命をかけて取り組んでます」
 
取材・文:川原崇(高校サッカーダイジェスト)