[ルヴァン杯決勝] G大阪1(4PK5)1 浦和/10月15日/埼玉スタジアム2002


 元日の味の素スタジアム、またもG大阪に敗れた天皇杯の決勝戦のあと、沈みかえる浦和のロッカールームで、ペトロヴィッチ監督が声を詰まらせて選手たちに言った。
 
「すまない。私のせいだ」
 
 指揮官は選手たちに謝罪した。
 
「私の力不足であり、やはり持っていないようだ……」
 
 もしかすると、本当はミシャ(ペトロヴィッチ監督の愛称)らしくユーモラスに、笑いを交えて伝えようとしたのかもしれない。しかし指揮官は明らかに憔悴し、その言葉どおり、ただ自分を責めているとしかいえなかった。
 
 選手たちはそんな打ちひしがれるミシャの言葉にふと耳を疑り、同時に逆に守らなければいけない師にこんな悔しい想いをさせてしまっていることに、とにかく申し訳なく思った。
 
〈ミシャ、そんなことあるもんか〉
 
 誰もがそう思ったものの、声には出せなかった。タイトルを獲ることでしか、この無念は晴らせない――。

 答えはそのひとつしかなかった。
 
 2016年は、そんな屈辱的な敗戦からの出発となった。全員攻撃と全員守備をモットーに3-4-2-1の基本布陣と独自の戦術で戦うミシャスタイルの真価を示すには、誰の目にも分かる結果=タイトルを獲得するしかないと誓い合った。
 
 12年に浦和の監督就任したミシャ体制下で、これまでタイトルの懸かった試合を落としたのは、三度あった。さらに、昨季はチャンピオンシップ準決勝でも敗れていた。
 
 13年のナビスコカップ(現ルヴァンカップ)決勝・柏戦では、主将のボランチ大谷秀和が出場停止になるなど「圧倒的優位」と言われながらカウンターに沈み、0-1で敗れた。しかもこの一敗でダメージを受けたチームは、その後、上位につけていたリーグ戦でも一度も勝てず優勝を逃した。
 
 14年はあと1勝でリーグ優勝が決まるという超満員の埼玉スタジアムで、G大阪に敗れた。その後のリーグ2試合も落としてしまい、目の前にあった自力で掴めるはずだったタイトルがすり抜けていった。
 
 そして昨季は無敗でファーストステージを制しながら、シーズン終盤にまたも失速……。チャンピオンシップ準決勝で、再びG大阪に敗れた。
 
 さらに……。
 さらに――新年を迎えると同時に浦和の夜明けが訪れるはずだった。ところが、元日の天皇杯決勝でも、上記のとおりVTRを見るかのように、G大阪に1-2で負けた。
 
「監督としてカップ戦の決勝、リーグ優勝の懸かった試合で、それを成し遂げられなかった過去があるのは事実です。タイトルが獲れないのは、私自身に何か足りない部分があるからだ」
 
 ペトロヴィッチ監督はそのように現実を受け止め、自分自身のチーム作りや采配についても省みた。
 
「だから、その足りない部分を私も学ばなければいけなかった。監督の仕事は、常に学びながら成長していく仕事だと思っている。その仕事をするなかで、次こそは、という思いで、毎日戦ってきました」
 
 悔しさを糧に、58歳にして、向上心や探求心は溢れていると言う。そして最終的には、ただ選手たちを信じ続けた。
 
 今季は攻撃的なスタンスを貫きつつ、 プレッシングや相手チームに対する最低限の守備対策などを取り入れていった。さらに湘南から加入した遠藤航がリベロを主戦場に守備面で抜群の存在感を発揮。加入2年目の高木俊幸、3年目の青木拓矢らがミシャスタイルに、日ごとにフィットしていった。

 いまなお熾烈なレギュラー争いが繰り返され、シーズン終盤に向けてチーム力は高まっている。そういったポジティブなチーム状態のなかで掴み取った、今回のルヴァンカップだった。
 
 主要タイトルは2007年のアジア・チャンピオンズリーグ以来、10シーズンぶりとなる。国内タイトルは06年のJ1リーグ制覇以来、11年ぶり。リーグカップ優勝は、03年以来2度目だ。

 宿敵と言っていいG大阪をPK戦の末に倒して、久々にチームとしても頂点に立ったことにより、ようやくペトロヴィッチ監督も「シルバーコレクター」の名を返上し、歴代優勝監督に名を連ねることになった。ゼロと「1冠」とでは、その差は間違いなく大きい。
 
 ルヴァンカップの準決勝・FC東京戦ではキャプテンマークをつけた宇賀神友弥は、こんなことを語っていた。
 
「監督には悔しい想いばかりをさせてきて、申し訳ないし、本当に悔しかった。『浦和レッズにいるのは、こんなに素晴らしい監督なんだぞ』と見せつけるためにも、あとミシャに足りないのはタイトルだけだった」
 
 宇賀神は展望する。
 
「きっとレッズはひとつタイトルを獲ることで、ひとつ上の高みにいけるチームだと思う。だからまずひとつ獲って、黄金時代を作りたい」
 
 最悪の元日を経て、浦和は2冠、3冠をも狙えるという希望に満ちたシーズン終盤に突入しようとしている。
 
 指揮官にとっては、来日11年目にして獲得した初の主要タイトルである。ただペトロヴィッチ監督は、「長い間、このタイトルを待ちわびていたサポーターの皆さんが、このタイトルを喜んでくれている。なにより、そのことが私にとって一番の喜びです」と語った。
 
 優勝が決定したあと、ペトロヴィッチ監督は選手一人ひとりと抱擁を交わして祝福し合った。選手たちに促されて、祝勝セレモニーでは中央に立って優勝カップも掲げた。
 
 細い目が、さらに細くなる。笑顔が弾けた。
 
 基本的には、人を楽しませることが、大好きな指揮官だ。
 
取材・文:塚越 始(サッカーダイジェスト編集部)