2016年夏のカルチョメルカート(移籍市場)をめぐるエピソードで、ある意味でもっとも興味深かったのは、エディンソン・カバーニのナポリ復帰騒動かもしれない。2010〜13年に公式戦通算で104ゴールを挙げた「エル・マタドール」が、ナポリに帰って来るという噂が流れ、大きな騒動になったのだ。
 
 セリエA2節のナポリ対ミラン戦を前にした8月26日の金曜日だった。『ツイッター』や『フェイスブック』を通じて、「カバーニが今日ナポリに来ているらしい」という情報が流れ、それが物凄い勢いで拡散された。
 
 ツイッターでは「#hovistocavani(私はカバーニを見た)」というハッシュタグが付き、「空港でプライベートジェットから降りてくるのを見た」、「中心街でタクシーに乗っているところを見た」、そして「『ホテル・ヴェスビオ』(ミランが翌日の試合に備えて宿泊していた高級ホテル)で見かけた」というツイートまでが飛び交う騒ぎになった。
 
 ついには翌日、「ナポリのアウレリオ・デ・ラウレンティス会長がサプライズでカバーニの復帰を発表する予定になっている」という噂が飛び出し、朝の4時だというのに200〜300人のファンがホテル・ヴェスビオの前に集まるという騒動に。集まった彼らは、朝になってミランの選手やジャーナリストなど関係者が出てきて、「ここにはカバーニはいない」と言ってもまだ信用しなかった。もちろん、カバーニがナポリにいたというのはまったくのデマだった。
 
 私は代理人とカバーニ本人にSMSで連絡を取り、彼はその夜パリにいて、翌日は試合のためチームと一緒にモナコに移動した事実を確認している。実際、カバーニは8月28日のモナコ戦に出場し、ゴールを決めたのは周知のとおりだ。
 
 たったひとつの“デマツイート”からこれだけ大きな騒ぎとなったのは、現代社会におけるSNSの拡散力の強さとそれがもたらす脅威を象徴する出来事だと言える。
 もっとも、もし本当にその可能性があったとすれば、「カバーニは喜んでナポリに復帰しただろう」というのも、もう一面の真実だ。
 
 今夏に絶対的エースだったズラタン・イブラヒモビッチがマンチェスター・Uに去ってもなお、カバーニはパリSGでの現状に満足していない。クラブからも新監督のウナイ・エメリからも100%の信頼がないと感じているのだ。
 
 とはいえパリSGは今夏、ナポリのデ・ラウレンティス会長から実際にカバーニ移籍の可能性を打診されても、即座に「ノー」の返事を返している。
 
 それにしても、デ・ラウレンティス会長である。今夏はゴンサロ・イグアインをユベントスに引き抜かれて以降、その後釜を確保するためにあらゆるところに電話をかけまくった。
 
 カバーニのほかにも、例えばインテルのマウロ・イカルディ、ミランのカルロス・バッカ、さらにトッテナムのハリー・ケインのように可能性がまったくないと言い切れる名前にまでアプローチをかけている。
 
 デ・ラウレンティス会長はまるで、『フットボールマネージャー』(サッカークラブ運営シミュレーションゲーム)でもプレイしているかのような振る舞いだった。メガクラブと比べると、ナポリはそういう部分がまだまだ素人じみている。
 
文:ジャンルカ・ディ・マルツィオ
翻訳:片野道郎
 
※『ワールドサッカーダイジェスト』2016.10.20号より加筆・修正。
 
【著者プロフィール】
Gianluca DI MARZIO(ジャンルカ・ディ・マルツィオ)/1974年3月28日、ナポリ近郊の町に生まれる。パドバ大学在学中の94年に地元のTV局でキャリアをスタートし、2004年から『スカイ・イタリア』に所属する。元プロ監督で現コメンテーターの父ジャンニを通して得た人脈を活かして幅広いネットワークを築き、「移籍マーケットの専門記者」という独自のフィールドを開拓。この分野ではイタリアの第一人者で、2013年1月にグアルディオラのバイエルン入りをスクープしてからは、他の欧州諸国でも注目を集めている。