これまで、このコラムでも何度か紹介してきたが、富山で生活するうちに行きつけの店が何軒かできた。僕のような単身生活にとっては大事な店だ。
 
 その中で、営業時間が“夜のみ”という蕎麦屋さんがある。繁華街に面している通りにあって、「帰り際の締め」を求めて立ち寄るお客さんを狙いとしている。夜の8時にオープンして深夜4時までが営業時間の店だ。
 
 富山で51歳を迎えた僕は最近、健康を以前より意識するようになった。理由は若いと思っていても現実51歳(笑)。やっぱり食事や運動の量はもちろん、質も現役とは違うからだ。だから、夕食のタイミングが20時を過ぎた時はなるべくうどんか蕎麦にして胃の消化を良い状態にする事を意識付けている。そんな時にこの蕎麦屋さんが重宝するのだ。
 
 もちろんストレスの溜まりやすい仕事なのだから、それが我慢になる必要もない。それによって不健康になるのであれば意識する意味がない。したがって、例外も定めている(笑)。それは会食や招待されるパーティーなど(パーティーは余りないが…)では気にする必要はない、というもの。
 
 自分が決めている食事の制限は解除すればよい。周りに氣を使わせないように、例外は例外。気楽に進めた健康法だ。
 
 健康法の内容は良いとして、その行きつけの蕎麦屋の大将がこんな質問をしてきた。
「Jリーグ選手の引退後のキャリアで、どれくらいの人がサッカーの仕事に携われているのですか?」
 
 サッカーという括りであれば、小さな町のスクールコーチも入れてどの程度の人がいるのであろう? 逆に普通の企業に再就職した人の方がサッカーに携わることが多いのであろうか?
 
 正直、答えに困ってしまった。プロとは言ってもJ3までプロクラブが56チーム。そしてプロ野球と比べても一瞬にして入る契約の金額は大きく違う。サッカー界の現役時代での保証もまだまだ確立されてはいないのが実情であろう。
 
 Jリーグ発足当時の10クラブから46クラブも増えた一方で、サッカー界の収益が5倍に増えたとは思えない……。
 
 そうでありながら平均引退年齢は数年前に26歳と聞いた。26歳と言えば僕がプロになったJリーグ元年の年だ。僕がプロとしてスタートを切った年齢が今の引退平均年齢なのだ。そんな若く人生がこれからである、青年がセカンドキャリアをどう歩んでいくのであろうか?
 
 蕎麦屋の大将の素朴な疑問だったのだろう。
 今から14年前の2002年に、選手のセカンドキャリアのためのキャリアサポートセンターという組織が出来た。文字通り、選手のセカンドキャリアをサポートするための組織だ。
 
 僕らがプロになり立ての時代には、他人が自分のセカンドキャリアを気にしてくれることなどなかった。現役に別れを告げる日が来る不安を心の奥底にしまい(隠し)、セカンドキャリアを意識する日まで必死にサッカーに打ち込む。そしてセカンドキャリアを意識しなければならない日が来ることを何日忘れられるか? そんな時代であったような気がする。
 
 今ではJリーグの新人研修にセカンドキャリアの講義があると聞いた。内容はセカンドキャリアをしっかり考えろ! 選手はそんなに長くやれないんだ……だろう、きっと?
 
 入った日に辞める日の事を考えろか……。
 
 まるで、生まれたばかりの赤ちゃんに死ぬ日のことを考えて生きろと言っているような気がする(たとえは大袈裟かもしれないが……)。
 
 ただプロになって満足している選手がいたとしたら、プロとして衣食住に対して簡単に考えている選手がいたとしたら、サッカーが上手ければそれで良いと考えている選手がいたとしたら、あるいは人生を舐めていたとしたら、話は違う。
 
 すでにセカンドキャリアを考えるべきだ。いや、プロ選手を諦めるべきだと思う。目の前の甘い汁、誘惑、自分自身が世間に流されてしまう弱い気持ち。プロは周りとも自分自身とも闘っていかなくてはならない。
 
 それが分からない(それを知らない)選手をプロにしてはいけない。人の人生がかかっている。
 
 だからセカンドキャリアを支える、キャリアサポートセンターの存在とは、プロキャリアのスタートに顔を出すのではなく、やり切った選手の前に現われるのが、理想なのではないか。
 
 そして選手としてのキャリアをスタートさせるにあたって必要なのは、そういったプロフェッショナルとなるにふさわしい人間形成をしてプロ組織に送り出す育成制度と指導者なのだ。
 
 そしてもうひとつ、プロの世界でも成長し続けるための環境を作るクラブの体制とスタッフが必要になる。
 
 毎日、毎日をプロ選手として生きて行く覚悟を、トレーニングや生活から意識し、時間をサッカーのために費やす。プロとしてサッカー(プレー)が出来なくなる日は辛い。だからこそ一日たりとも無駄な日を過ごしてはいけないのだ。
 
 友人であるメンタルトレーナーがこんな話を僕にしてくれた。大事なことは自分の力が100パーセントだとしたら毎日、101パーセント出そうとすることだ。
 
 120パーセントでなくても良い。1パーセントでも力以上のモノを出そうとすれば、それは必ず将来の成長に繋がると。
 
 全力で取り組むことができる人間は、何をやっても必要な存在になれるはずだ。プロとしてプレーできなくなっても、また何かのプロとして未来は見えてくる。そして監督業という仕事も同じだ。
 
 1分、1秒を大切にして、毎日のトレーニングから選手のモチベーションをキープさせる。それもすべての選手をだ(出場する選手だけではない)。
 
 行きつけになった小さな蕎麦屋の大将との5分程度の会話から、そんなことを考えさせられた……。
 
2016年10月17日
三浦泰年