【福田正博 フォーメーション進化論】

 今シーズンから名古屋グランパスを率いていた小倉隆史監督が、8月に事実上の解任となった。今季のJ1リーグにおいて3番目(開幕時点)に若い43歳と、フレッシュな登用に期待を寄せていただけに、プロの世界は結果がすべてとはいえ残念なことだった。

 Jリーグや日本代表で監督をするには、S級ライセンスが必要になる。これはJ1でも、J2でも、J3でも同じだ。プロ野球のように誰でもなれるわけではなく、日本サッカー協会の講習を受けて、資格を取得した者だけができる。ただし、これはあくまで監督としてのキャリアを踏み出すための第一歩でしかない。

 監督の仕事というのは、スターティングメンバーを決め、試合中は3人の交代枠を使い、チームを勝利に導くことと思われている。もちろん、そうした側面もあるが、それはほんの一部分に過ぎない。監督の仕事の多くは、サポーターやメディアの目が届かない、試合以外のところに大半がある。

 そのひとつである「チームマネジメント」も言葉にするとひと言で済んでしまうが、実際にやるとなると、実に膨大な労力を要する。

 たとえば「選手のモチベーション管理」をとってみても、現場で実践するとなると多大な時間と労力を割かれる。チームには20人以上の選手がいるが、全員がフィジカルもメンタルも同レベルにあるわけではないからだ。

 チームの根幹を担う主力とレギュラーがいて、サブ組がいる。サブ組も、レギュラー争いに加われるレベルの選手もいれば、シーズンを通してあまり出場機会のない選手もいる。さらに、ベテランからプロになりたての若手まで年齢構成も多岐にわたる。そして、選手は経験や置かれた立場によって、それぞれ異なったモチベーションを持っている。

 レギュラーに抜擢された若手は放っておいてもモチベーションは高い一方で、去年までレギュラーで活躍したベテランが、新シーズンに控えに回されたらモチベーションを保てなくなることは想像に難くない。故障した選手が精神的に不安定になることもあるだろう。

 こうした選手ひとりひとりの立場や気持ちを察して、"チームの勝利"という目標に向かわせることは、たいへんな作業であり重要な仕事だ。これを疎かにしても、チームが好調なときは問題が隠れている。しかし、ひとたびチームの歯車が狂い出すと選手の不満が一気に噴出し、チームはバラバラになってしまう。

 この他に練習メニューの策定、全選手のコンディションの見極め、対戦チームの分析、戦術トレーニング、若手育成、コーチ・スタッフとのミーティングなどもあり、これらに加えて、ときにはクラブとの交渉も必要になる。監督の仕事がこれほど多岐にわたることは、選手でもほとんど知り得ないことだろう。

 私自身、選手時代や引退後メディアの仕事を始めたばかりの頃は、こうしたことは知る由もなかった。しかし、S級ライセンスを取得し、2008年から3シーズンにわたって、オジェック監督、フィンケ監督のもと、浦和でコーチを経験して初めて理解できたことでもある。

 プロサッカークラブの監督という仕事は、ライセンスを有しているだけでつとまるものではない。監督業としてのキャリアをユースや大学などの現場で重ね、ひとつひとつステップアップしていき、指導者としての実績を積んでいく。そうした道をたどった監督がJ1クラブを率いる可能性が開けていく。そのような指導者の育成システムが、今後のJリーグの、ひいては日本サッカー全体の課題だろう。

 Jリーグは今シーズン開幕時点で、J1・18チームの監督の平均年齢は50歳。J2でも22クラブで監督の平均年齢は49歳。30代の監督はいないものの、私と同世代の長谷川健太監督(ガンバ大阪/50歳)、石井正忠監督(鹿島/49歳)、井原正巳監督(福岡/49歳)、森保一監督(広島/48歳)より若い名波浩監督(磐田/43歳)らの世代が、J1で指揮を執るようになり、以前に比べて若返ってきている。しかし、世界に目を向けると監督平均年齢がJリーグよりさらに若いリーグもある。

 たとえば、ブンデス・リーガは監督の平均年齢が日本より低い。ドイツでは2000年代半ばからサッカー協会が若手指導者養成に力を入れるようになり、各クラブが下部組織で経験を積ませ、そこで実績を残した指導者が2部や3部リーグのクラブで監督に登用されているからだ。

 そうした中から、香川真司のいるドルトムントを指揮するトーマス・トゥヘルのように、43歳で十分な実績を持つ監督が生まれ、リーグで優勝争いを繰り広げ、チャンピオンズリーグでも戦っている。さらに、ドイツは昨季途中からホッフェンハイムの監督になったユリアン・ナーゲルスマン(28歳)のような20代の指導者も出現している。

 こうしたことは、Jリーグも見習うべき点だろう。ただ、言うは易しで、クラブにとって若い監督に指揮を委ねる決断は難しい。成績が悪くなって降格すると、収入面でも大きな打撃を受けるリスクがあるなかで、実績のない若い監督にチームを任せた結果、降格してしまっては元も子もないという考えも理解できる。

「J2やJ3で中位から下位にいるクラブで若手が監督をやればいい」という意見もあるかもしれないが、それも少し筋が違う話だろう。どのクラブも昇格を見据えてチームを強化しているのであって、監督を育てるためにクラブが存在しているわけではないからだ。

 それでも、日本人監督のレベルの向上は、日本サッカー全体のレベルアップに欠かせない要素であることは間違いない。そして、監督業がスペシャリストである以上、外国人監督を招聘するばかりではなく、日本人監督が育つ環境を日本サッカー界でどうつくるかを考えなければいけない。

 日本人監督がJ3、J2、J1で切磋琢磨し、結果を残してステップアップしたその先に「日本代表監督」になる、という構造になって初めて、日本人の特長を生かした"日本人らしいサッカー"が、どのレベル・どの年代であっても具現化できるようになると私は考えている。

 近年は、オランダやドイツなど海外で指導者のキャリアをスタートさせる日本人も出てきているが、そうした海外で経験を積むことも含め、日本サッカー全体で指導者育成にもさらに注力すべきだろう。日本サッカー協会やJリーグ、そして各クラブに、未来への投資としての指導者育成の意識を持ってもらうことを、今後も期待したい。