本当に"いい乗用車"のツボとはなんだろう。乗用車とはつまり「毎日使う生活に密着した道具としてのクルマ」のことだ。

 まあ、デザインや色、あるいはブランドが好みで、客観的な良否を超えて、長く愛着をたもつことができれば、そのクルマがその人にとってのいい乗用車だろう。

 ただ、ここでいう乗用車とは趣味の対象ではないので、まわりを蹴落とすほどの高性能や、毎日コキ使うのが気が引ける過剰な高級感、あるいはドギモをぬくブッ飛んだデザインは不要......というか、ある意味でジャマ。ただ、どんなときもストレスなく快適に走るには、なにはともあれ安全で、走りにもそれなりの余裕はほしい。そして、乗るたびにクルマの運転は楽しいと思えて、長く飽きない程度の味わいもほしい。さらに知人・友人から、ときおり「ステキなクルマですね」といわれるくらいだと、もっといい。

 ......と、まわりくどい前置きをしてしまったが、今回取り上げるボルボV40は、つまりはそういうクルマである。

 現在のV40は2012年に本国デビューしたモデルで、これまでの例でいえばモデルライフ後半にさしかかっている。細部をマイナーチェンジして先日発売されたこの最新型は、すでに最終仕上げに近い段階といっていい。

 V40はトヨタ・プリウスやフォルクスワーゲン・ゴルフと同等サイズ。だが、ボルボはトヨタやフォルクスワーゲンより少しだけ高級感を売りにするブランドで、今のボルボでもっとも小さくて安価なV40は、いわば"プチ高級乗用車"である。

 ボルボといえば、第48回でも取り上げたように"セミ自動運転"の先駆者でもある。全車速対応の車間距離維持クルーズコントロールや積極的に車線キープするステアリングアシストで、完全な手ばなし運転こそできないが、まるでクルマに意思があるかのように走る最新システムは、このV40にもつく。

 もっとも、同種技術はここ数年で普及しているので、今やめずらしいものではない。だが、さすがボルボには一日の長があって、設定速度の範囲の広さや前走車に追いついたときの追い越しの滑らかさ......など、リアルワールドでの使いやすさはピカイチ。クルマまかせでも周囲の交通の流れを乱しにくいので、同じセミ自動運転車でも、疲れにくさや快適さはやはりトップランナーというほかない。

 今回はもっとも手頃な1.5リッターターボだったが、6速オートマも含めて特別なハイテクでもない。

 しかし、そこそこ軽快でほどほどに静か。メチャ速くはないけど、どこでも余裕があって、オートマも制御もピタリとタイト。右足のわずかな操作にピタリと引っつくように加減速してくれるので、ブレーキを踏む頻度も少ないことに感心する。こういうところがルーズなクルマは微妙な減速でもいちいちブレーキを踏まなくてはならないので、長時間乗っていると疲れるものだ。その点、V40はとにかく疲れない。自動運転うんぬんは関係なく、V40は体幹からよくできた乗用車なのだ。

 こういう体幹の良さは、操縦性や乗り心地でも一貫している。操縦性がことさらシャープというわけではなく、とろけるほど快適な乗り心地でもないんだが、とにかく運転しやすい。ステアリングは正確だし、それでもわずかに曲がりが足りないな......と思ったら、微妙にアクセルから力をぬくだけでねらったところにいく。つまり、無意識のうちにねらった走行ラインをピタリとトレースできる。路面が悪いとそれなりに揺れるものの、その吸収力が絶妙なので、走行ラインはやっぱり安定していて、無駄な修正は不要だ。

 ここ数年、インテリアや家電界では"北欧デザイン"がウケているそうだが、スウェーデンのボルボもまさにそれ。今回のシートなどは、オシャレに無縁の私ですら「ステキやん」と思ってしまった(笑)。自動車シートで柄モノは非常にむずかしいのだが、チェック柄をこれほどセンス良く使いきったクルマは今までにないのではないか。こういうちょっとしたポイントも、毎日の道具には欠かせないツボである。

 細かいところまで完成の域に達したV40に、驚くような刺激はないが、それこそがこのクルマ最大のツボである。V40に身体がなじんでしまうと、ちょっとでもツボをはずしたクルマに乗ると、自然と違和感をいだいて、マズイと分かるようになる。つまり、知らず知らずのうちに、微妙な味のちがいの分かる上級クルマグルメになってしまうのである。

佐野弘宗●取材・文・写真  text&photo by Sano Hiromune