ペナントレースは終盤に入り、セ・パ両リーグの新人王レースも熾烈な戦いを繰り広げている。そのなかでも今季は野手の活躍が目立ち、セでは規定打席数に到達した阪神の高山俊が、得点圏打率でセ・リーグ2位の.382と、猛打賞13回(新人では球団史上最多)を記録。パでは、楽天の茂木栄五郎がケガで離脱した時期もあったが、復帰後はOPSで両リーグ新人選手中トップの.743を記録するなどして日本ハム3年目の高梨裕稔と新人王を争っている。

 そこで、野手出身の解説者で2009年首位打者の鉄平氏に、今シーズンの新人王争いについて語ってもらった。(※データは9月21日現在)

── 今季ここまで、セ・リーグの新人王争いをどのように観ていますか。

「普通に考えたら、高山選手なのかなと思います。規定打席に到達しているのは大きいですし、よく打っていますから球団の新人安打記録(坪井智哉が1998年に記録した135安打)も塗り替えそうですね。今永昇太選手(DeNA)はがんばっていますが、やや勝ち星が足りない(8勝8敗)印象があります。

 戸柱恭孝選手(DeNA)もキャッチャーでオールスターに出場するなど健闘していますが、やはり高山選手が筆頭でしょうね。新人王は明確な打率や勝ち数などの規定がありませんので、選出する側の心理を考えても規定打席クリアや新記録を狙える安打数など、ハクが付いている選手が選ばれやすいでしょう」

── パ・リーグについてはどうでしょうか。

「僕は茂木選手を推したいです。ただ、ライバルの高梨選手は10勝していますからね。10勝されたら、茂木選手は打率.280では足りないでしょう。.285から.290くらいは打たないと厳しいでしょうし、盗塁ももっと必要かなと。茂木選手はケガもありましたが、規定打席数には到達すると思いますよ。

 ただ、高梨選手は茂木選手にとっては高い壁になります。野手でいえば.290から3割、投手なら10勝がひとつの基準ラインになりますから、新人王争いしている選手のうち、ひとりが達成することは大きな評価となるでしょう。僕は楽天に所属している人間(楽天イーグルスベースボールスクールジュニアコーチ)なので、個人的には茂木選手にがんばってほしいです。ですが、成績を見ると高梨選手が一歩先を行っているように思えます」

── 鉄平さんの経験もふまえて、なぜ野手の新人王は生まれにくいのでしょうか。

「起用方法ですね。新人の野手は、守備固め、代走、もしくは代打で少しずつ出場するケースが多いですから。そうしているうちに、(数字を残せないまま)新人王資格を満たす試合数に到達してしまいます。また多少ブレイクしても、途中で息切れすることもあるので、野手は起用法も含めて難しさがありますね。もちろん、オコエ選手のように、高卒の選手は金属製バットから木製バットへ慣れないといけない壁もあります」

── となると、やはり投手が圧倒的に有利なのでしょうか。

「レベルの高いプロ野球界に入るわけですから、どの選手もアマチュア時代のようなプレーを見せることはほぼ無理です。でも、野手の場合はそれがより難しい。相手の投球も守備の質も上がりますから、ヒットになったと思う打球も捕られてアウトになってしまいます。

 これに対して投手の場合は、本当に力のある投手であれば、自身の投球がよければ結果が出ます。力さえあれば新人であれ、何年目であれ勝てるチャンスがある。そういった点で、新人らしいリスクを恐れないプレーぶりも含めて、ガンガン勝ち星を重ねて投手が新人王を勝ち取るケースが多いのだと思います」

── そのように野手に不利な状況のなかで、今季の新人王争いでは高山選手と茂木選手が台頭した理由を教えてください。

「今シーズン、高山選手と茂木選手が新人王を争うことができているのは、両チームの起用方法が大きいですね。そもそも起用されないと結果が残りませんので、そのときのチーム状態に左右されます。例えば、茂木選手の場合は楽天のショートが空いていたため、出場することができました。仮に、そのポジションに押しも押されもせぬレギュラーがいたら、茂木選手は出てこられなかったわけです。

 高山選手についても、もしタイガースの外野のポジションに、ガチッと固まった選手が3人いたらこれほどの活躍は難しかったでしょう。もともと力があったとしても、起用法ひとつで野手は出てこられません。この2人はチャンスがあったうえに、ポジションをつかみ取る力があったから新人王候補になっているわけです。ですから、チームのポジションに空きがあるとか、確固たるレギュラーが不在などの運の要素も大きいですね」

── 今シーズン開幕の時点で、鉄平さんの目から見て「この選手はいいな」という新人選手はいましたか。

「僕は野手なので、どうしても野手に目がいってしまいます。高山選手、茂木選手以外では、オリックスの吉田正尚選手がいいと思いました。彼ら3人にはプレーの強さがあり、なかなか練習では身につけることができない天性のものを感じます。一番重要なのは打撃ですね。バッティングがよくなければずっと使い続けてもらえません。その点、彼らは新人選手らしからぬ目を引くようなスイングの鋭さがありますね」

── 新人野手たちの守備面はどう評価していますか?

「特に茂木選手には大きな期待をしています。ショートは野手のなかでも特殊なポジションであり、誰にでもできるポジションではありません。ですから、新人の時からショートをずっとこなせる選手が出てきそうだということは、チームにとってかなりの好材料です。ショートが固まらないとチームは安定しないので、今から10年から15年は『楽天のショートは茂木選手』と言われるような、押しも押されもせぬ存在になってほしいですね」

 もし両リーグの新人王がどちらも野手になった場合は、1996年の仁志敏久(巨人)、金子誠(日本ハム・当時3年目)以来となる。また、両リーグとも新人(1年目)の野手が受賞したケースとしては、1981年の原辰徳(巨人)、石毛宏典(西武)以来、じつに35年ぶりとなる。一方で、日本ハムの高梨も激しい優勝争いのなか、負けられない登板が続く。新人王レースの結末は、はたしてどうなるだろうか。

高橋アオ●文 text by Takahashi Ao
photo by Kyodo News