「昨季の最後のあたりは、ほぼノーチャンスだった。『移籍するかな』と自分でも思っていたけど、監督が代わって状況が変わり、欧州リーグに出られるという状況にもなった。今は、移籍の話をしてもしょうがないんで。ここでやれるチャンスが目の前にあるし、実際にこうやって出番のチャンスをもらっているわけだから。そこで結果を出すしかないですね」

 9月15日に行なわれたヨーロッパリーグ(EL)のスパルタ・プラハ戦後、サウサンプトンの吉田麻也は現在の心境をこのように話した。

 3−0で快勝した一戦で、吉田は公式戦で4試合ぶりに先発。CBとして手堅い守備で相手の攻撃を封じ、クリーンシートの勝利に貢献した。とはいえ、チームが優先順位を上に置くプレミアリーグでは、ベンチを温める日々が続く。開幕戦のワトフォード戦では先発フル出場を果たしたが、欧州選手権への参加でチームへの合流が遅れたポルトガル代表CBのジョゼ・フォンテがフィットすると、吉田はベンチにまわった。プレミアリーグでは、第2節から出番がない。

 吉田の位置づけは、昨季同様にCBの3番手である。レギュラーCBを務めるのは、ユーロ優勝に大きく貢献したフォンテと、プレミアリーグ屈指のCBに成長したオランダ代表のフィルジル・ファン・ダイク。英国人識者の評価も高いレギュラー陣の壁は厚く、昨季はこのふたりの牙城を打ち崩せなかった。

 加えて、ロナルド・クーマン前監督による「吉田のSB起用」も、うまく機能しなかった。不慣れなポジションに吉田も苦しみ、マンチェスター・ユナイテッド戦(第6節)とマンチェスター・シティ戦(第14節)で失点につながるミスを犯してしまった。昨季終盤にはSB構想もなくなり、出場機会は極めて限定的になった。

 しかし、ピッチに立たないことには成長が見込めないことを、吉田本人も自覚している。プロである以上、出場機会を求めるのは当然のことで、28歳という年齢を考えても、ベンチを温め続ける時期でない。クーマン前監督がフォンテ&ファン・ダイクのふたりに絶対的な信頼を寄せていたことも、頭のなかに「移籍」の二文字がちらつく要因となった。

 だが、今オフに転機が訪れた。指揮官のクーマンが退団し、エバートンの監督に就任。昨季までニースで指揮を執ったフランス人のクロード・ピュエルが新監督としてやってきた。しかも、昨季を6位で終えたサウサンプトンは、EL出場権を獲得している。試合数の増加に伴い、吉田の出場チャンスも広がった。

 もっと言えば、主将のフォンテにマンチェスター・Uへの移籍のウワサが浮上していた。32歳のポルトガル代表DFが移籍すれば、吉田の序列も上がる。結局、フォンテは残留したが、今オフは転機になりうる要素が少なくなかったのだ。

 だからこそ残留を決めたと筆者は推測していたが、吉田によると、「決め手」になったのはクラブ側の意向だったという。吉田は語る。

「クラブが『出さない』と言ったのが決め手ですね。今、CBは実質的に3人しかいないから、しょうがないですね。復帰は近いですが、(CBの4番手)フローリン・ガルドシュもケガをしていますし」

 吉田とサウサンプトンの契約は残り2年。フォンテの去就が不確かな状況で、吉田を含めてプレーできる状態のCBが3人しかいない現状では、在籍5季目の日本代表DFは手放せなかった。オフの間にFWグラツィアーノ・ペッレ(山東魯能)やMFサイード・マネ(リバプール)、MFビクトル・ワニャマ(トッテナム・ホットスパー)といった主力選手がゴッソリ引き抜かれた一方で、補強が思うように進まなかったことも無関係ではなかったはずだ。

 ただ、クラブ側の意向があったにせよ、監督交代や試合数の増加などチーム内に変化があったことで、吉田も残留を前向きに受け止めている。もちろん、この転機をチャンスに変えたい。実際、欧州リーグのスパルタ・プラハ戦では出番を与えられ、ファン・ダイクとのCBコンビで無失点に抑えた。

「勝たなければいけなかった。無失点に抑えて、というのも大事でした。小さな結果を積み重ねて、信頼を勝ち得ていくしかないと思っている。いつも言っていることですが、ひとつひとつやっていくしかない。今日のように試合に出してもらって、試合のリズムをつかんでいければ。ここから試合も多くなるし、出場が続けばもっとパフォーマンスもよくなると思う。コンディションもすごくいいです」

 移籍というのは、本人の考えだけで決まるものではない。所属クラブの意向や移籍先の思惑、監督の構想プランなど、さまざまな要因が複雑に絡み合ってくる。吉田としても在籍期間の長いサウサンプトンへの愛着が深く、昨季には、「試合に出られたらすべてがうまくいく」とクラブ愛も語っていた。

 残留か、移籍か――。昨季終盤からオフにかけて本人は相当悩んだように思うが、気持ちが揺らいだ夏を経て、今季もふたたびサウサンプトンのユニホームに袖を通すことになった。

 追い風にしたいのは、ピュエル監督がCBに求める役割と、日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督が要求する動きが、「ちょっとだけ似ている」(吉田)こと。「サイドにけっこう釣り出されるし、CBの運動量はクーマン監督のときよりも増えている。それは代表でやっていることと近いものがあって、僕としてはやりやすいですね」という。

 与えられた出場チャンスで堅牢な守備を披露し、定位置獲りにアピールする。同時に、「ミスをなくせば、評価も上がってくると思う」と、自身の課題がどこにあるかも理解している。

 欧州サッカーを知る、数少ない日本人CBの吉田。プレミア屈指のCBコンビとして名高いフォンテとファン・ダイクと定位置を争う「CBの3番手」であるが、プレミアリーグを6位で終えたサウサンプトンの3番手でもある。監督交代を機にひとつひとつ経験を積み重ねて成長し、昨季は不動だったレギュラーCB陣を脅かす存在になりたい。

田嶋コウスケ●取材・文 text by Tajima Kosuke
photo by AFLO