■極私的! 月報・青学陸上部 第8回

 日本学生陸上競技対抗選手権大会。

 男子5000mにエントリーしている一色恭志(4年)、茂木亮太(4年)、田村和希(3年)が午後4時過ぎに熊谷スポーツ文化公園陸上競技場に到着した。

 この日の午前中、夏季選抜・御嶽合宿を打ち上げた選手たちが相模原キャンパスの練習場で3000mの学内TT(タイムトライアル)に挑んだ。2年の梶谷瑠哉(2年)がトップとなり、安藤悠哉(4年)、下田裕太(3年)とつづき、1年の鈴木塁人(たかと)も4位になるなど、原晋監督は期待する若手と主力が結果を出したことに対し、「疲れがピークの中、よく走れていた」と満足そうな表情を見せた。また、全日本インカレに出場の3人については「3人とも調子がいいし、いい勝負できるんじゃないかな」と、レースでの快走に加えて、上位独占も期待していた。

 原監督の言葉通り、3人は順調に夏季合宿を越えてきた。

 一色は来年所属予定のGMOアスリーツの北海道合宿に参加した。花田勝彦監督のもと、実業団の選手とかなりの距離を走るなど充実した合宿を過ごし、御嶽合宿には後半から参加した。レースでは関東インカレ2部5000m優勝、日本選手権5000mでは4位に入るなど、ずっと好調を維持。この日のレースを楽しみにしていた。

 茂木と田村和は8月の選抜メンバーによる御嶽合宿中、通常の練習量を落として、このインカレに合わせて調整してきた。

 茂木はこれまで3年間、夏前のケガのために夏季合宿にまともに参加したことがなかった。しかし、今年はケガもなく、フルに参加。レースでは5月世田谷記録会で自己ベスト更新、7月世田谷記録会でも13分53秒46を叩き出し、自己ベストを2度も更新して、全日本インカレへの道を開いた。

「ケガなく夏合宿に入れたのは4年で初めてですし、いい練習もできました。ここまですごく順調ですので、逆に危機感を持って、あまり調子に乗らないようにやっていかないといけない。油断すると僕はダメなんで。全日本インカレは田村が今、調子がよくて練習しなくても走れるし(笑)、本番に強いんですけど......」

「なんすか、練習しなくてもって(笑)」

 全日本インカレに向けて一緒に練習していた田村和が笑顔で突っ込んだ。

 茂木は笑って続ける。

「でも、自分は練習ができていないと本番では走れないんです。そういう意味では自分なりに納得いく練習ができたと思いますし、高いレベルで走る機会が今までなかったので(インカレが)すごく楽しみです。大事なのは記録よりも結果ですね。先頭にどこまでついていけるか。当日、よほどの暑さがない限りは勝負できると思います」

 茂木は、自信に満ちた表情でそう言った。田村和も「いい感じです」と自信を深めていた。

「(全日本インカレに)出るからには勝負に徹してタイムより成績重視です。御嶽合宿は倒れることもなくやれたので、全日本インカレが最初のピークぐらいの勢いでやりたいですし、そこで走れれば自信になります」

 レースへの意気込みを語る表情は、もう準備万端という感じだった。

 午後2時40分にリオ五輪男子400mリレーで銀メダルを獲得した桐生祥秀(東洋大)が出場した男子100m決勝が終わり、午後6時過ぎには競技場のメインスタンドは空席が目立ってきた。猛暑で有名な熊谷だが、日が暮れると日中の暑さもなくなり、思ったよりも涼しい風が吹いている。茂木も田村和も"熊谷の暑さ"を気にしていたが、このコンディションなら勝負できるだろう。

 午後6時55分、スタートラインに選手が並んだ。当初は37名のエントリーだったが関東2部インカレ10000mで優勝した中谷圭佑(駒沢大)ら10名が欠場。最終的に27名の出場になった。

 スタート直後から大きな固まりになってトラックを駆ける。一色は2、3番手につき、茂木と田村和は14、15番手の中間グループの中に入って様子をうかがう。

 大きな集団はなかなかバラけないが、残り2000mになると長い一列に変化してきた。あと4周、茂木が少し遅れ出し、長い一列の最後尾に落ちた。逆に田村和は9番手に順位を上げていった。

 田村和には余力があったという。

「暑くなく涼しかったので、まだまだいけると思っていましたし、普通は遅れ出すとズルズルいくパターンだったんですけど、相手の内側についていくことができていました」

 残り3周だ。先頭のパトリック・マゼンゲワンブイ(日大)がギアを上げ、スピードを速める。一色は4位のまま。田村和が加速して5位に浮上、一色の後に必死に喰らいついていく。

 ラスト1周の鐘が鳴った。

 残り2周の半ばからスパートを仕掛けたパトリックが2位の新迫志希(早大)ら後続との距離を一気に広げる。その後を驚異的なスピードで石川颯真(日大)が追い上げてきた。一気に2位に上がり、トップを追う。一度は4位に落ちた一色はラストのスピードが今ひとつ伸びない。だが、ホームストレートで新迫をかわして3位(13分54秒60)でフィニッシュ。逆に田村和はホームストレートで平和馬(早大)に抜かれて6位(13分58秒16)に終わった。

「悔しいですね。後半、合宿の疲れで体が重かったので、普通ならもっと伸びたと思うんですが......」

 田村和は汗で濡れた表情でそう言った。

 悔しさを見せつつも田村和にとっては、よくここまで戻ってこられたという感じだろう。春の世田谷記録会5000mで13分50秒43を出し、自己ベストを更新。5月の関東インカレ2部5000mでは4位に入り、自分の走りに手応えを感じた。その1週間後、世田谷記録会5000mでは日本選手権の標準記録突破を狙った。ところが好調の田村和に水を差すような"事件"が起きた。

「関東インカレが終わってから、おたふく風邪にかかったんです。もう体中が痛くて、何も食べられなくて寮で隔離されました(苦笑)。それで10日間ぐらい休んで、かなりコンディション的に落ちてしまって......。そこからまた上げていったんですけど、7月の世田谷(記録会)はコンディション的に春のタイムを出すのは難しい。それでも13分台を出せればと思っていたら、ギリギリ出せてよかったんですが、最初の夏季合宿で今度は暑さにやられました。毎年、山あり谷ありです」

 今季に限らず、暑さは田村和にとって鬼門である。2年の時は、ちょっと蒸し暑いなと思うだけでナーバスになり、気持ち的に落ち込んでいた。また毎年、夏季合宿では暑さで倒れていた。それではいい走りができないし、チームに迷惑をかけてしまう......田村和は暑さの克服方法を考えた。

「今年は気持ちの部分、メンタルから暑さを克服していこうと思ったんです。暑くて汗が出ても『もっとやれるよ』と思って、気持ちを強くもって走るようにしています。でも、最初の夏合宿で"距離"は走れたんですが、暑さにやられて遅れてしまって......。お盆休みの時に実家(山口)に帰って37℃の暑さの中、1時間ぐらい走っていました。御嶽合宿は全日本インカレを目指して、ピークにもっていかないといけないので倒れるわけにはいかないですし、実家で暑さに慣れておけば、御嶽は高地で涼しいので全部の練習をこなせるかなって思ったんです」

 御嶽合宿では練習をほぼ順調にこなし、全日本インカレでは6位ながら、まずまずのレースができた。原監督も「6位はまぁまぁじゃないかな。疲れとる中で、これだけ走れれば秋はもっと走れるようになる」と、手応えを感じているようだった。

 田村和も「やれる」感覚をつかんでいた。

「おたふく風邪で倒れてうまくいかない時もありましたけど、夏の1次合宿、御嶽合宿と走り込み中心の練習でしっかりと走れている感があって、そこは自信になっています。妙高での3次合宿ではスピードを上げる練習が入ってくるので、そこでしっかりと練習をやって10km未満のスピードを意識していけば、全体のバランスが整っていい状態で出雲にいけると思います」

 視線はすでに出雲駅伝(10月10日)に向いている。昨年は夏季合宿で倒れてしまい、出雲駅伝は出走できなかった。それだけに今年に賭ける思いは強い。

「出雲に出て、チームに貢献したいですね。個人的には昨年、久保田(和真・現九電工)さんが走った3区(8.5km)を狙っています。そこをしっかり走って久保田さん以上の記録を残したいですね。

 全日本大学駅伝は2区(13.2km)か4区(14km)を走りたいと思っています。この2つの駅伝でいい結果を出して、箱根にうまくつないでいきたいです。

 チームの雰囲気はすごくいいですね。昨年は合宿で練習が終わるとネガティブな言葉が出ていたんですけど、今年はポジティブな言葉が出ているし、昨年以上にいい練習ができています。昨年よりもイケると感じていますし、強かった先輩たちを超えられるようにしたいです」

 その自信は夏にしっかりと練習と積めたことで膨らんだ。原監督も「一色、田村、下田は強いよ」と全幅の信頼を置く。

「レースでは最後、勝負に絡めないところが課題ですけど、今は夏を越えて過去3年間の中で最高にいい状態です。3年になってからまた成長できたかなと思います(笑)」

 田村は、そう言って笑った。

 真夏の8月を越え、全日本インカレでまずまずの走りを見せることができた。暑さとの戦いはこれからも続くが、気持ちでそれを克服することができれば、これから実りの季節を迎えることができるはずだ。

佐藤 俊●文 text by Sato Shun
photo by AFLO