パ・リーグは3連覇を狙う福岡ソフトバンクホークスと、4年ぶりの優勝を目指す北海道日本ハムファイターズが熾烈な首位争いを繰り広げている。ただ、シーズン序盤のソフトバンクの独走ぶりを考えると、この展開は予想しえなかったと言っていいだろう。独走から一転、2強のマッチレースになった要因は、ソフトバンクの失速もさることながら、それ以上に日本ハムの大躍進が挙げられる。

 6月24日の時点で最大11.5ゲーム差をつけられていた日本ハムだが、6月19日から7月11日まで15連勝など快進撃を続け、あれよあれよという間にゲーム差を縮めていった。

 この日本ハムの快進撃を支えた立役者のひとりが、3年目右腕の高梨裕稔(たかなし・ひろとし)だ。9月18日のロッテ戦で6回を1失点と好投し、今季10勝目を挙げた高梨は、防御率も2.44をマークするなど、今や日本ハム先発陣にとって欠かせない存在になっている。3年目とはいえ新人王の資格を有し、楽天のルーキー・茂木栄五郎とタイトルを争っている。

 開幕一軍入りを果たした今季、高梨はストレートの球威を評価されて6月初旬まで中継ぎとして23試合に登板し、防御率1.82と安定した成績を残していたが、交流戦中に頭数不足により先発に転向した。

 6月8日の広島戦で先発として初勝利を挙げると、8月13日の楽天戦では初完封勝利。先発転向後も着実に結果を残してきた。

 そんな高梨も、昨年まで一軍での登板はわずか2試合だけ。山梨学院大時代から素質を高く評価されていたが、全国的に無名だった投手がここまで活躍できた要因はどこにあるのだろうか。高梨は言う。

「今年はすごく自信を持って投げられているというのはありますね。不安なく投げられています。1年目は二軍で投げるのも嫌になった時期があったんです。打たれすぎて......」

 たしかに、高梨の1年目の成績を見てみると、二軍で1勝8敗、防御率4.90と厳しい数字が並ぶ。責任の問われにくい新人といえども、大量失点と白星のつかない登板を重ねるのは、いつ心が折れても不思議ではない。

 転機は1年目のオフにあったという。打たれて失点しても前向きなチームメイトに感化されて、何事もポジティブにとらえるようになったという。

「打たれたとしても『自分はダメだ』と思うのではなく、『新しい課題が見つかった。成長できるチャンス』という感じですね。野球って、本当にメンタルのスポーツだと思います。マウンドで『打たれるんじゃないか』とか、『このボールは通用しないのでは......』といったマイナスのことを考えると、本当にその通りになる。だから、自分に暗示をかけるというか、ピンチになると『絶対に大丈夫』『今のボールなら打たれない』と声に出して言い聞かせるようにしています。結構、ブツブツ言っていますよ」

 そうして臨んだ2年目は、ファームで1年を通してローテーションを守り、11勝6敗、防御率3.38と飛躍を予感させる成績を残した。

 黒木知宏投手コーチは、昨年秋のキャンプの時点で今季のローテーション入りを確信したという。

「もともと投げるボールは素晴らしかったですし、二軍から順調に成長しているという報告を受けていました。それを確かめられたのが、昨年の秋のキャンプでした。僕たちコーチもブルペンで投手の球を受けることがあるのですが、『これは来年やってもらわないと困る』というボールを投げていた。高梨のボールは、本当に打ちづらいと思います。ただ捕るだけでも差し込まれる感じがしますから」

 黒木コーチによれば、高梨のストレートは「ふたつの意味で打ちづらさがある」という。

「まず、投球フォーム。ゆったりとした足の上げ方は、打者にとって『速い真っすぐは来ない』と錯覚させてしまいます。そして腕の振りです。高梨は真っすぐも変化球もまったく一緒。しかもトップの位置から振り下ろすまで、腕が体に隠れている。打者にしてみれば、見えないところから突然ボールが来る感覚になります。これらの特長は、もともと彼が持っていたもの。二軍ではその特長を消さないように、体を鍛えつつ経験を積んでもらいました」

 ファームで挫折を味わい、メンタルと体を鍛えて臨んだ3年目のシーズンで急成長を遂げた高梨は言う。

「前半戦でリリーフを経験させてもらったことが大きかった。接戦の勝負どころで相手の中軸を抑えるためにマウンドに行って、流れをチームに引き寄せるという仕事はリリーフでないと感じられません。これは先発として、試合の流れをコントロールする上でとても大事なことでした」

 さらに黒木コーチが言う。

「能力もそうですが、春のキャンプやオープン戦で与えられたチャンスを逃さなかった運の強さ。我々が彼に期待したくなるのは、そういう面もあるんですよ」

 ここまで先発として13試合に登板して、早い回でKOされたこともゼロではない。それでも先発として投げた試合では一度も黒星はない。高い能力と強運を持つ叩き上げ右腕が、優勝の行方を左右するのかもしれない。

高松正人●文 text by Takamatsu Masato
photo by Kyodo News