日本人初のプロ選手である松下浩二氏は、リオ五輪を「日本卓球界にとって最高の大会」と評した。ただ同時に、「だからこそ今、足もとを見つめ直さなければいけない」と不安ものぞかせる。4年後に開催される東京五輪、そして将来の日本卓球界のために何をすればいいのか、松下氏に話を聞いた。

■日本人初のプロ選手・松下浩二が「卓球ニッポンの未来」を語る@後編

―― リオ五輪の好成績を受け、東京五輪でのさらなる活躍が期待されています。

松下浩二(以下、松下):たしかに世間では、『4年後は金メダル!』という雰囲気がありますね。男子は今大会で団体銀メダルを獲得し、強豪・中国の背中に手をかけたことを考えれば、この4年間の使い方次第では可能性もあると思います。

 しかし、多くの競技で衰退の原因を探れば、好成績を残した時点から実は失速が始まっていたように、今こそ足もとを見つめ直さなければ、4年後の東京五輪ではリオの成績を下回る可能性もありますし、今後何年経ってもリオの成績を上回れない可能性すら高いと思います。『好成績を収めたのに、何かを変える必要があるのか?』と思う人も多いでしょうが、注目を集める今だからこそ、変化のときだと私は考えます。

―― 現状を変えなければ、中国を追い抜くことは難しいでしょうか?

松下:中国はこの50年間、世界のトップに君臨し続け、その間に五輪や世界選手権などの国際大会で約130人もの世界チャンピオンが輩出しています。これはもはや、競技人口の多さだけでは説明がつきません。つまり、素材としてベストではない選手でも、チャンピオンに育成するシステムが確立されているということです。

 卓球の新しい技術、新しい用具、新しいスタイルは、そのほとんどが中国発祥です。中国はチャンピオンを出し続けるために、そういった研究を怠らず、他国より一歩先んじています。他の国がマネて追いついてきたときには、また一歩、先の何かを見つけている。

 そんな国を相手に、「中国に勝てたらいいな」レベルの決意では、絶対に追い抜くことはできません。「世界一を獲る!」という断固たる決意があってこそ、初めて打倒・中国のためのさまざまな発想が出てくると思います。中国の上を行くには、最低でも中国と同じ目標、考え方、決意を持たなければ難しいでしょう。

―― 中国はチャンピオンを作るための方法論が確立されている、ということですね。

松下:実際、ジュニア時代に水谷隼選手や丹羽孝希選手が勝っていた選手が世界チャンピオンになっているわけです。最初から敵わなかったのではなく、日本人選手は追い越されている。水谷選手が中国の育成システムで育っていたら、間違いなく五輪か世界選手権で世界チャンピオンになっていると思います。

 ただ今後、水谷選手が世界チャンピオンになる可能性も十分にあります。リオ五輪で水谷選手は、シングルスの準決勝で馬龍(マ・リュウ/中国)に敗れました。これは、中国人選手との対戦経験が少ないため、馬龍の打球に慣れるまでにかなりの時間を要したことが敗因のひとつです。

 中国人選手は日々、レベルの高い選手にもまれて切磋琢磨しています。日本人選手もレベルアップするためには、そういった厳しい状況に身を置く必要があり、自国にレベルの高いプロリーグがないのであれば、中国ナショナルクラスの選手がプレーする中国超級リーグに参戦する必要などがあると思います。

―― 育成という面では、有望な若手の多い日本もかなり成功しているように思えるのですが?

松下:伊藤美誠選手は関西卓球アカデミー所属の選手で、平野美宇選手、浜本由惟選手などはJOCエリートアカデミーの選手です。女子選手の育成は、成功していると思います。ただ、才能がある選手を少数精鋭で鍛えるだけでは、将来的に限界があります。ずば抜けて能力の高い選手がいる時代は好成績が残せるものの、その選手が引退したら低迷してしまう。

 それこそ、リオ五輪での日本男子の好成績は、水谷選手に頼った部分が大きい。その水谷選手も、東京五輪では30歳を超えます。我々は、「水谷後の日本卓球」も考えなくてはいけません。そのためには中国のように、選手の才能だけに頼るのではなく、選手にとってよりよい環境を整備するべきだと思います。

―― 選手にとってよりよい環境を作るための具体的な案とは?

松下:今こそ、「プロリーグの発足が必要」だと、私は思います。自国にプロリーグがないのは、世界の強国では日本だけです。今は実業団チームで形成される日本リーグが存在しますが、リオ五輪に出場した選手は誰も所属していません。そのため、国内トップ選手のプレーを観戦できる機会も、ごくわずかしかないのが現状です。

 また、「プロリーグの設立」は選手環境の向上だけにとどまらず、コーチや指導者として、選手が引退した後のセカンドキャリアの受け皿にもなります。1983年以降、世界選手権に出場した経験を持つ男子選手のなかで、引退した3分の1の選手は現在、卓球と関係ない仕事をしています。これは、日本卓球界にとって大きな損失です。

 また引退後、企業に社員として残って働く元選手も多いのですが、卓球に専念していた時間があるだけに、同期の社員とは差がついていることも多く、その能力を存分に発揮できているとは言い難いと思います。さらに、実業団リーグは景気の波に大きく左右され、最盛期に58チームあった実業団チームも、今は28チームに減っています。引退後の生活を含め、選手が卓球に専念できる環境を作るためにも、プロリーグの発足が必要だと思えてなりません。

 もちろん、卓球協会も今までただ手をこまねいただけではなく、2012年にはプロリーグ設立検討委員会が設置されました。昨年からは「プロリーグ検討準備室」という名称になり、私が室長を務めています。それでも、なかなか事態が好転しないのが現状です。

 たとえプロリーグができたからといって、私自身が儲かるわけではありませんし、現在もプロ化のために東奔西走する日々に報酬があるわけでもありません。今は社長業(卓球用品総合メーカー『ヤマト』代表取締役社長)が順調なので、私もできるならゴルフ三昧の日々を過ごしたい(笑)。ただ、「私にできること、私にしかできないことは何か?」と考えた場合、やはりプロリーグの設立に貢献することなのではないかと思います。

 ですから、あきらめることなく、長いスパンで考えながら、現役選手、引退した選手、さらには卓球ファン......卓球に関わる誰もがいきいきと上を向いて生活できる環境を築くためにも、今後もプロリーグ設立のために尽力したいと思っています。

【profile】
松下浩二(まつした・こうじ)
1967年8月28日生まれ、愛知県出身。1993年、日本人初のプロ卓球選手となり、全日本選手権シングルス4度優勝。スウェーデン、ドイツ、フランスの欧州3大リーグでプレーし、2009年に現役を引退。オリンピック4度出場(1992年〜2004年)。シェークハンドのカット主戦型。現在は卓球用品総合メーカー「ヤマト」の代表取締役社長を務めるかたわら、卓球の発展のためにさまざまな活動をしている。

水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
photo by JMPA