「WOW(ワァオ)!」

 アリーナが興奮と感動のるつぼと化した。ついにバスケットボール男子の新しいプロリーグ『Bリーグ』が幕を開けた。9月22日午後6時50分。大河正明チェアマンがコート上で声を張り上げた。

「バスケットボールで日本を元気にしたい。その思いを胸に大きな夢と高い志を持って、Bリーグは未来に挑戦していきます。ブレイク・ザ・ボーダー(境界を壊せ)。2016年9月22日、Bリーグの開会を宣言します」

 東京・国立代々木競技場には「9132人」の観客が押し掛けた。他競技と比べると、女性、若者が目立つ。豪華なオープニングセレモニーに酔いしれ、おそらく新たなリーグの船出に気持ちを高ぶらせただろう。

 記念すべき開幕カードは、昨季のNBLレギュラーシーズンの勝率1位だったアルバルク東京(A東京)と、昨季のbjリーグで最多4度目の優勝を果たした琉球ゴールデンキングス。メディアは「エリート軍団×雑草軍団」とはやしたてた。

 まばゆいばかりの光と、耳の奥に響く音が試合をショーアップする。床に敷かれた大きなLEDビジョンの上に映し出されたコートが晴れの舞台となった。何もかもが革新的。琉球の岸本隆一主将はこう、漏らした。

「何か、バスケットの別次元のステージに上がった感覚を、試合を通して感じていました。今までにない緊張感というか......。下手なプレーはできないって。僕はネガティブに考えないタイプですけど、今日は見られるという不安を特別に感じました」

 いわば新時代の担い手となる使命感である。その緊張ゆえか、両チームとも立ち上がり、シュートミス、パスミスが相次いだ。特に琉球。裏を返せば、A東京のディフェンスがよかったからだが、A東京が元NBAのギャレットやギレンウォーターのシュートなどでリードを広げていった

 世界で初めてのLEDビジョンが試合を盛り上げる。いいプレーの直後には、コートに「EXCELLENT(素晴らしい)」「GOOD DEFENSE(いい守り)」などの大きな文字が浮かび上がる。ゲームの流れに沿って、CGと音が効果的な演出をしているのだった。

 A東京有利の下馬評を裏切り、試合はもつれた。これぞ雑草魂か。琉球は第2クオーターに一時、逆転。第4クオーターの序盤には15点差をつけられたが、怒とうの反撃で、終盤3点差まで詰め寄った。

 琉球ファンの声援、指笛が選手の背を押した。この試合、両チーム最多の16点を挙げた30歳の喜多川修平はこう、言った。

「点差が離されそうなところをしっかり我慢して、相手に食らいついていった。雑草魂じゃないですけれど、踏まれても立ち上がるところを見せることはできたと思います」

 それでも、A東京にはエリート軍団のプライドと勝負強さがあった。第4クオーターの終盤、エースの田中大貴が左の外角から3点シュートを決めた。田中は涼しい顔で「オープンになって、シュートを打つチャンスがあったので思い切り打ちました」と述懐した。

「いいところで一本決まってよかった。あれで落ち着いた。やはり、これだけ注目されて、本当にビッグゲームで責任のある試合だと思って試合に臨みました。まっ、勝てて終われたのはうれしいですけど、それほど大騒ぎするほどのことじゃないでしょ」

 A東京の開幕戦のテーマは『WOW!』だった。周りを感動させろ、ワァオと言わせろということか。結局、80−75。歴史に残る一戦を制したA東京の伊藤拓摩ヘッドコーチは言葉に実感を込めた。

「勝ち負け以上の意味を持つ試合でした。もちろん勝ちたいですけど、見ている人たちをワクワクさせるような、私たちの表現でいうと、"ワァオ"と感動させようとチームで話していました。両チームとも、どんどん強くなって、もっともっと高い質のバスケットで盛り上げていきたい」

 どうしたってスポーツ史に残る一日となるだろう。歴史を振り返れば、バスケットボール男子は、一部のチームがナショナル・バスケットボール・リーグ(NBL)の前身の日本リーグ機構を作って独立。2005年にプロのbjリーグが発足し、分裂状態が続いた。が、14年、国際連盟から対立を問題視され、日本協会が無期限の資格停止処分を受けたことを契機とし、統合が進められた。その推進役となった川淵三郎・日本バスケットボール協会前会長は「開幕戦としては大成功だったと思う」と安堵の表情を浮かべた。

 この日のチケットは完売。メディアは約200人が押し掛け、NHK−BS、フジテレビ(平均視聴率は期待外れの5.3%=関東地区)などがゴールデンタイムに生中継した。

「無事に済んで、なんか力が抜けた感じです。白熱した試合になって、トリッキーなプレーも、華麗なプレーもありました。今日の試合を見て、バスケットボールを面白いと思ってくれたと思います」

 川淵さんはご存知、1993年のサッカーJリーグ開幕時の初代チェアマンである。屋外のJリーグと、屋内のBリーグを比較するのはナンセンスだけれど、Jリーグ成功のノウハウはBリーグにも落とし込んでいくことになるだろう。

 プロ野球、サッカーJリーグに次ぐ、球技では3番目のプロリーグ誕生となる。Bリーグ成功のポイントは、「人気・普及」「強化」「資金」か。Jリーグのようになるためには、興業として、まずは観客がアリーナに入るかどうかである。特に女性、若者をどう取り込んでいくのか。当然、テレビの視聴率、メディアの露出も無関係ではあるまい。

 そのためには、「商品」であるBリーグの試合の質を上げることが重要となる。日本代表の強さも大きいだろう。つまり、人気と強化は一体である。

 Jリーグみたいになるためには、と聞かれ、川淵さんはこう話した。

「選手自身が、世界レベルのバスケットボールに追いつくんだと思って、技術レベルを上げていかないといけない。これだけの多くのファンに詰めかけていただいた。この興奮と感動をどう持ち続けてもらうか。現状の力では2020年東京オリンピックの出場は危ない。どういう風に急角度でレベルアップできるか。2020年にはベスト8を狙える実力をつけていきたいと思います」

 すったもんだしたあげく、やっとでリーグがひとつになった。これがスタートである。プロ選手の価値のバロメーターといえる報酬は、プロ野球、Jリーグに比べると、まだまだ低い。トップ選手になれば、まずは「1億円選手」となりたいところだろう。

 そういった選手の待遇改善が、普及にもつながっていく。この日、リバウンドで活躍した31歳のA東京の竹内譲次はミックスゾーンでいいことを言った。

「プロ野球、Jリーグに、追いつけ、追い越せの気持ちでがんばりたい。バスケットボール選手になるんだという子どもたちが増えていくよう、いいプレーを見せて、環境を整えていけるようにしていきたい。まだ認知度は低いと思うので、リーグやクラブだけに任せるのではなく、個人的にもいろんな活動をしたりして、選手の価値、バスケットの価値をもっと上げていきたいなと思います」

 何より、Bリーグ開幕で選手の意識が変わった。これが大きい。リーグは1、2部各18チーム。シーズンは60試合を戦う。まだスター選手は少ないけれど、使命感を抱いた選手たちの戦いが続く。

「WOW!」。壮大なるバスケットボール界の挑戦が始まった。

松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu
中村博之/PICSPORT●写真 photo by Nakamura Hiroyuki/PICSPORT