すでに折り返し地点を過ぎた今シーズンの欧州サッカー界は、恒例の冬の移籍マーケット期間に突入している。

 シーズン開幕前に開かれる夏の移籍マーケットとは対照的に、近年の冬の移籍マーケットは大金が飛び交うケースが減少。低迷するチームが不振から抜け出すための即戦力を補強したり、長期離脱となった主力の穴を埋めるための戦力を獲得したりするという、本来の目的に回帰する傾向にある。

 現在までに、パリ・サンジェルマンがヴォルフスブルクからドイツ代表MFユリアン・ドラクスラーを推定3400万ポンド(約49億円)で獲得した以外は、大物代表クラスの移籍は皆無。メディア上ではビッグネームの移籍に関する憶測報道が飛び交うものの、おそらく1月末から2月頭にかけての移籍期限までに大物選手の動きはないと思われる。

 その一方で、昨シーズンの冬の移籍マーケットに続き、今回も話題を独占しているのが、「中国マーケット」の存在だ。

 その先陣を切ったのは、チェルシーから中国スーパーリーグの上海上港へ移籍したブラジル代表MFオスカル(25歳)だった。驚くべきは、上海上港がチェルシーに支払った5100万ポンド(約73億円)とも6000万ポンド(約86億円)とも言われる移籍金で、これはブラジル代表FWフッキ(30歳)が昨夏にロシアのFCゼニトから上海上港に移籍した際に支払われた4700万ポンド(約67億5000万円)を上回る「アジアサッカー史上最高記録」となる金額だ。

 しかも、英国公共放送『BBC』の報道によれば、オスカルは週給40万ポンド(約5900万円)、つまり年俸にして約30億円を手にするというのだから、25歳の現役バリバリのブラジル代表がサッカーレベルでプレミアリーグより数段落ちる中国スーパーリーグを新天地に選ぶのもうなずける。

 さらに巨額の年俸という点でそのオスカルを上回ったのが、ボカ・ジュニアーズから上海申花に移籍したアルゼンチン代表FWカルロス・テベス(32歳)である。

 32歳のテベスが手にする予定の週給は、なんと推定61万5000ポンド(約8900万円)、年俸にして約46億円。2016年のバロンドール(ヨーロッパ最優秀選手賞)を受賞したFWクリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリード)の年俸が週給換算で約5400万円とされていることを考えると、この金額がいかにケタ外れなものかがわかる。

 ちなみに、現在のサッカー選手の年俸世界ランキングでいうと、1位がテベス(約46億円)、2位は昨年2月にパリ・サンジェルマンから中国の河北華夏に移籍したアルゼンチン代表FWエセキエル・ラベッシ(31歳)で推定年俸約36億5000万円、そして3位が前述のオスカル(約30億円)となり、トップ3を中国スーパーリーグの助っ人外国人選手が独占することになった。近年のサッカー界の頂点に君臨する2大スター、FWクリスティアーノ・ロナウドとFWリオネル・メッシ(バルセロナ)はそれぞれ4位・5位にランキングされているというのが現状なのだ。

 振り返れば、昨シーズンの冬の移籍マーケットでも中国のクラブが話題を独占した。ブラジル代表MFラミレス(チェルシー→江蘇蘇寧/移籍金約36億4000万円/29歳)、コートジボワール代表FWジェルビーニョ(ローマ→河北華夏/移籍金約23億3300万円/29歳)、コロンビア代表MFフレディ・グアリン(インテル→上海申花/移籍金約16億8500万円/30歳)、コロンビア代表FWジャクソン・マルティネス(アトレティコ・マドリード→広州恒大/移籍金約55億円/30歳)......。こういった面々が1年前の冬の移籍期間に中国へ旅立ったことは記憶に新しい。

 彼らがいずれも高額な年俸に惹かれて中国のクラブを選択したことは周知の事実。ただ、それ以上にサッカー界を驚かせたのは、中国スーパーリーグ全体で200億円以上ものマネーが冬の移籍マーケットで投資され、それまで常に選手獲得のための投資額でトップに立っていたプレミアリーグを大きく上回ったという事実だった。

 この中国の「爆買い」傾向については、チェルシーのアントニオ・コンテ監督が「中国マーケットは危険だ。それはチェルシーだけではなく、世界のすべてのチームに対してだ」と警鐘を鳴らすほど、今やヨーロッパのビッグクラブの脅威となっている。

 実際、この冬もオスカルとテベスに続き、ユベントスへの移籍が濃厚と見られていたベルギー代表MFアクセル・ヴィツェル(27歳)がFCゼニトから天津権健へ推定年俸約22億円で、そしてチェルシーのナイジェリア代表MFミケル・ジョン・オビ(29歳)も推定年俸約10億円で天津泰達へ移籍する道を選んでいる。

 また、実現はしなかったものの、FWクリスティアーノ・ロナウドやFWロベルト・レヴァンドフスキ(バイエルン・ミュンヘン)にも法外なオファーがあったことをそれぞれの代理人が明かすなど、まだまだビッグネームの中国流出は続きそうな気配にある。

 この中国の脅威について的確な分析をしているのが、元バルセロナのMFシャビである。

 自身のキャリア晩年となった2015年夏、カタールのアル・サッドに移籍した元スペイン代表のシャビは、英紙『ザ・サン』の取材に対して、「メジャーリーグサッカー(アメリカ)に大物たちが移籍しているが、それは通常、その選手のキャリアの終わりを意味するものだった。しかし中国のケースは、まったくそれとは違う。彼らは、キャリアのピークにあるトッププレーヤーたちを惹きつけている」とコメントした。

 要するに現在の中国マネーは、かつてヨーロッパのサッカーシーンを席巻した中東マネー、あるいは近年のアメリカによる投資マネーとは一線を画しているというのだ。

「中国経済のバブルは弾けた」と日本でも報じられてはいるものの、サッカー界におけるバブル傾向はまだまだ始まったばかり。中国国内では外国人枠縮小の動きや、中国人民元の国外流出に警鐘を鳴らす声も挙がってはいるが、サッカーをこよなく愛する習近平国家主席による後押しという要素も考慮すれば、この傾向がすぐに変化する可能性は低いと見ていいだろう。

 残り約2週間半となった冬の移籍マーケットの主役は、どうやら今年も中国リーグとなりそうだ。

中山淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi