■熊谷紗希インタビュー「なでしこ編」

 熊谷紗希が、リヨンという世界屈指のクラブチームで挑戦を続ける原動力のひとつに"なでしこジャパン"の存在がある。憧れの存在から、手の届く目標へと変わり、今は"戻る場所"になった。

 彼女がなでしこジャパンを語るとき、「なでしこに戻ったとき――」というフレーズを時折使う。熊谷にとって、なでしこジャパンは自分の成長を確認する場所であり、新たな課題が沸き出す場所でもある。

「毎日は必死になっているから成長とかはわからないけど、なでしこジャパンに戻ると自分のプレーに余裕が持てるようになっていたりして、成長を実感できる。なでしこは、自分がやってきたことを還元したい場所なんです。そこで結果を出したり、そこで代表として戦うために今毎日生きているから。もちろんそれだけじゃないですけどね(笑)」

 その想いがあるからこそ、なでしこジャパンで戦ったあとには、彼女はいくつもの課題を抱えることになる。共通するのは"チームのために何をすべきか"だ。

「ポジションとしての役割がある中で、勝つためには、自分がもっとどんなことをしていかなきゃいけないのか、チームの中でやれることをもっと増やさないといけないとか、なでしこに戻る度に課題は増えていくんですよ、毎回。自分にこういうことができたら、チームが勝てるようになるかもしれないって欲が出てくるんです」

 そのなでしこジャパンも今、大きく生まれ変わろうとしている。リオデジャネイロオリンピックの出場権を逃したショックが癒えないままに、新生・高倉麻子ジャパンは6月にアメリカ遠征に臨んだ。2020年の東京オリンピックを見据え、若手も多く招集されたことで、熊谷も中堅選手へと押し上げられ、自然に何かと求められる立場になった。

「全員がフランクに話せるほうがいい。若手に意見を言っていいよって言ったって、簡単に言えるものでもない。でも高倉監督は私たちに対してフラットでいてくれるから、私たちもフラットでいたい。そういったことで生まれてくることってたくさんあると思います。サッカーの面ではもう本当にプレーで示すだけ。あとはいろんな人と話すこと。わざわざ聞きに行くことはないけど、遠征ではいろんな人と話すような部屋割りになるから、そこは自然に」

 けれど、若手からは積極的にどんどん聞きに来てほしいというのが本音だ。

「それでも結構話しましたよ、アメリカでもスウェーデンでも。高木(ひかり)とか、(千葉)園子とか。みんな真面目で(笑)。人見知りとかはあるかもしれないけど、あまり喋らない人を作りたくないんです。同じ世代だけで固まっちゃったりとかも......そんなことはさせませんけど(笑)」

 プレー面でもこれまでとは異なり、センターバック(CB)としても統率する役割を担った。限られたわずかな期間ではあったが、熊谷は希望を抱いていた。それは高倉監督が目指すものが"攻撃につなげる守備"であり、熊谷が取り組んできた"奪う守備"と共通していたことも大きい。7月に行なわれたスウェーデン遠征では、ついに熊谷に中盤のポジションが与えられた。手をつけたばかりの4-1-4-1システムでのアンカー、4-4-2のボランチと、時間を追ってその役割は変わったが、本人には少なからず手応えがあった。

「スウェーデンでの取り組みはすごくうれしかった。(阪口)みずほちゃんとボランチをやってみて、個人的にはこれからの伸びしろを感じることができました。もちろんまだまだですけど、まったく可能性がないとは思わなかった。高倉監督は、こうしろああしろという縛りがなくて、一緒にカラーを作っていく感じ。だから今は何でもできるとも言える。チャンスがあればボランチとしてのチャレンジもアピールもしていきたいと思ってます」

 チームでも目指しているように、強みはあればあるほどいい。熊谷のその姿勢はなでしこジャパンに戻っても変わることはない。と同時に今は結果を出すことで、チャレンジするメンタルを保持しなければいけない難しい時期でもある。

「リオを逃したことで本当に何もなくなった。完全にチャレンジャーに戻った。負けてよかったとは絶対に思わない! けど......いい意味でのリセットにしなきゃいけない。本当にゼロからのスタートだから。スウェーデン遠征では負けてしまったけど、勝つためだけのサッカーをしていたら、あれだけの収穫というか、希望は見つけられなかったと思うんです。でも、代表としては勝たないといけない。今の状況だと今後もそれは続くはずです。U-20世代の活動も終わって、これから新しい選手もどんどん入ってくる。まずは3月のアルガルベカップをどう戦うかですね」

 ようやく横一線のチーム作りが本格化する2017年。新たな抱負を語る熊谷からは、なでしこジャパンを支える覚悟が伝わってきた。進化を続ける熊谷が、不動のCBとして最終ラインを固めるのか、それとも目下ヨーロッパで奮闘中のボランチとしてその能力を開花させるのか、はたまたその両方か。まだまだ右肩上がりの成長を見せる熊谷の生かし方次第でチームカラーも大きく異なるだろう。高倉監督の手腕と、大きく化けそうな熊谷のプレーに期待したい。

早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko