一九六四年の東京五輪前後に建設された都内のビルの魅力を伝えようと、同じ年に生まれた文筆業鈴木伸子さん(51)が「シブいビル」を出版した。二度目の五輪が開かれる二〇二〇年に向けて都心の再開発が加速する中、「この時代のビルが東京から全て消えてしまう前に」との危機感から一冊にまとめた。 (小林由比)

 外観を特徴付けている屋上の回転展望レストラン、内部のモザイクタイルの壁画、ビルができた当時からある地下の喫茶店…。取り上げたビルの一つ、東京交通会館(千代田区有楽町)だ。「石が埋め込まれた床とか、何げない部分に温かみを感じる」と言う。

 他にも、民芸調の陶板タイルが美しい有楽町ビル(同)、外壁にガラスブロックを使った柳屋ビルディング(中央区日本橋)、当時最新の輸入ガラス材を使った格子に覆われた新橋駅前ビル(港区新橋)など、二十のビルが登場する。外観や内部のデザインの特色や歴史が、カメラマン白川青史さんの写真と共につづられている。

 この時代のビルは、歴史的な価値を共有しやすい戦前の建物に比べると注目されにくいが、鈴木さんは「今のビルにはない工法やデザインが面白く、歴史を経てきた輝きもある」と解説する。

 雑誌「東京人」の編集に携わり、現在は街歩きなどをテーマに執筆する。数々のビルは、東京で生まれ育った鈴木さんにとって思い出や愛着のある場所だ。

 「新しいものがどんどんできるのが東京という街。それ自体に反対ではない」と鈴木さん。それでも、「今からつくろうと思ってもつくることができない技術や雰囲気は、すでに歴史的価値。戦前の建物も取り壊しが決まると止められない、ということが繰り返されてきた。そうなる前に、若い人たちにも『シブいビル』の価値を知ってほしい」と願う。

 「シブいビル」はリトルモア刊、税別千七百円。