ビジネスで新幹線を利用している人であれば、車内でさまざまなサービスを担当しているパーサーの仕事ぶりをよく知っていることだろう。めまぐるしく車内を往復してワゴンサービスなどを行う一方、停車駅では乗客の見送りをし、グリーン車ではおしぼりの配布などのサービスも行う。その仕事は非常に多岐にわたるが、おもてなしは非常にハートフルだ。

彼女たちのきびきびとした働きぶりに励まされて仕事に向かうビジネスマンも多いことだろう。それでは、彼女たちパーサー自身は、仕事をどのように捉えて乗務に赴いているのか?東海道新幹線に乗務しているジェイアール東海パッセンジャーズのスタッフにお話を伺った。






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―― パーサーに求められる「心」は?

「自分が就職活動を進めていく上で、まず、自分が好きなことは何なのかを考えてみました。するとそれは、誰かを喜ばせること、元気づけることだろうと思い当たったのです。それであれば、たくさんのお客様と触れ合うことができる仕事が良い。車内販売の仕事は、お客様に呼び止められて、お客様が欲しいと考えている商品をお売りすることになる。販売員に求められるのはおもてなしの心であると、そう思えたんですね」

と、現在の仕事を志望した動機を語ってくれたのは、(株)ジェイアール東海パッセンジャーズに勤める薊(あざみ)紫帆さんだ。

薊さんの仕事は東海道新幹線のパーサー。つまり、車内販売やグリーン車におけるサービスなど、東海道新幹線の車内での乗客サービスを広範に受け持つというものである。新幹線を利用したことがある人なら誰でも、すぐに彼女たちの働く姿を思い浮かべることができるだろうし、ことに近年は、仕事の内容が高度化していることも理解できるだろう。


大切なのは「グリーティング」

では、パーサーはどのようなことを想いながら、毎日の乗務に臨んでいるのだろうか。薊さんは「乗務に際してまず心がけていることは、グリーティングとアイコンタクトです」。グリーティングとは、デッキで乗客を迎える、見送りするということだ。

このとき、車内販売では特に商品を買わなかった乗客とも言葉を交わすことがあるという。「『ありがとう』と言って下さることもあり、このようなときには私たちも、気持ちが伝わったのかな、旅のお手伝いができたのかなと思えて、心が和みます」と薊さんはいう。短い挨拶を交わすだけでも、旅が味わい深いものになることは、乗客にとっても、乗客をもてなす側にとっても、何も変わりないようだ。



―― 4人で販売とグリーン車を分担

新幹線パーサーの仕事は多岐にわたる。「のぞみ」の場合であれば4名が乗務し、グリーン車での乗客サービスを行う2人と、ワゴンサービスを行う2人に分かれる。グリーン車のサービスでは、おしぼりの配布、車内改札を行う。

ワゴン販売は、車内販売の基地が設けられている11号車から自由席側の1号車まで遠いことから、グリーン車担当のうち1人が車内改札などを終えた後、トレーを使用して1号車からの車内販売も行い、車両によってサービスに格差が生じないよう留意しているという。トレーを用いての販売は東京から名古屋までの間で行われ、名古屋到着前にはエプロンを外した制服姿となって、名古屋駅でのグリーティングを行う。

そして名古屋発車後は車内を巡回し、車内、ゴミ箱に不審物がないか、トイレが正常に機能しているかも確認する。さらに巡回時には、乗客に何かに困っている人がいないかにも目を配り、必要があれば、切符の変更などの手続きも行って、車掌とも連絡を取り合う。


自由席のお客様にはパワーがある

新幹線の座席には指定席と自由席があるが、その差はそれぞれの乗客の行動にも表れるという。指定席車両は乗客が移動しても席が確保されていることから、買い物などに積極的だ。ホーム上の売店も、指定席車両のあるそばに設けられる。一方、自由席の乗客は積極的に動くことはなく、どうしても買い物の機会は減りがちだ。

このあたりについて、商品を販売する側はどのように感じているのだろう。薊さんは「指定席のお客様は、買い物ひとつであっても計画的に行動されていると感じます。自由席のお客様は、ホームで列に並ぶことを優先されますから、飲み物などの買い物は後回しとなりがちで、その分、車内販売の需要が高くなりますね。自由席のお客様にはパワーを感じます」と語る。

一方、グリーン車の場合はまた違いがあるようだ。「グリーン車のお客様は、私たちとの接し方に余裕を感じます。私たちの仕事にはグリーン車のお客様へのサービスもあるのですが、私たちからおしぼりを受け取る短い時間のあいだで『ありがとう』と感謝の言葉を頂くことがあります」と薊さんはいう。


―― 名古屋の手前でコーヒーが売れる?

では、列車の時間帯の違いによって、乗客のニーズはどう変化するのだろうか。

「平日の朝であれば、圧倒的にビジネスのお客様が多いですから、ワゴン販売ではコーヒーのニーズが高くなります。逆に夕方は気分転換をしようということで、アルコール類が売れるようになりますね。昼間はビジネスとレジャーの半々という印象ですね。人気商品はコーヒー。朝であればサンドイッチとコーヒーのセット。夕方であればビールというところです。それから北海道の日本酒も人気がありますね。お客様から『おいしいね』と言って頂いたこともあります」(薊さん)

車内販売のワゴンには50種類くらいの商品が載せられているが、品揃えは季節によって変わるほか、期間限定の販売品や、キャンペーン商品が扱われることもあるので、定番商品以外は、いつも何かが入れ替わっているという。コーヒーはホットであれアイスであれ、定番の人気商品であるが、これも「キャンペーン期間は豆が変わることもありますから、これもいつも同じ味というわけではありません」という。

さらに、コーヒーには売れるタイミングがあり、名古屋駅の手前で売れ行きが活発になることもあるのだとか。これは、車内販売のワゴンが浜松を過ぎたあたりで自由席に到着することや、名古屋で下車するビジネスマンが、最後に一杯のコーヒーを飲もうとすることなどが絡み合ってのことであるようだ。


「全てが灰色に見えた」最初の乗務

もっとも、パーサーにとってむしろ気になるのはワゴンの扱いで、静岡、浜松の近辺では車体の傾きによって、ワゴンが動いてしまうこともあり、取り扱いに気を遣うのだという。さらに通路で販売を行う際には、ワゴンを片側に寄せ、乗客が通れるスペースを確保しているというが、それでも荷物を携えている乗客が通りづらいこともあり、皆の気が立ってしまいがちな混雑時には特に細かな気配りが大切であるという。

そんな薊さんも、もちろん初乗務のときは、大変な緊張を強いられ、「すべてのものが灰色に見えて、1号車までたどり着けないと思った」のだとか。そして今は後輩を指導する立場になり、自身の経験と、初めて教えられたことを後輩に伝授しているという。それは「まず笑顔で人と接しろ」ということで、笑顔で人と接し、笑うことでお互いの緊張を取り除く。そうして経験を積んでゆくうちに、少しずつ視野が広がってゆくのだという。


―― 先入観にとらわれないことが大事

そのような仕事の中で、何よりも気を付けていることは?というと、ワゴンの扱いというようなことではなく、「先入観に囚われないこと」であるという。

例えば、乗客から列車の乗り継ぎについて質問を受け、それが自分の熟知しているはずのルートであっても、必ず確認をしてから返事をする。安易な対応をして、間違えた情報を伝えることは、鉄道で働くプロとして許されないことだから、というのがその理由。こういった細やかな心遣いがあるからこそ、新幹線の車内という数多くの乗客と常に接し続けなければならない場所での勤務が続けられるのだろう。

ところで身近な話題を一つ。新幹線の車内で販売されているアイスクリームは、なぜ、あれほど硬いのか?を聞いてみた。

「よくそういう指摘を受けます。乳脂肪分の高いことが、新幹線のアイスクリームの硬さの理由です。ですから、時間をおいて味わって頂くということと、お急ぎになるのであれば、ホットコーヒーを注ぐお客様もいると伺っています」と薊さん。明るい口調で“裏技”を伝授してくれた。


著者
池口 英司 :鉄道ライター、カメラマン

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