典型的な結婚できない女、杏子、32歳。

慶應大学卒業後、丸の内の某外資系金融でセールス職に就き、年収は2,000万円を優に超える。

美人だがプライドが高くワガママな彼女は、男運が悪く全くモテない。さらにハイスペックゆえ、男が近寄りたくない女ナンバーワンとまで噂されている。

婚活に危機感を持ち始めた杏子。本腰を入れることを決意し、結婚相談所に登録した。しかし、初のマッチングデートを済ませたものの上手く行かず、婚活アドバイザーの直人から痛烈なダメ出しを受ける。

その後も社内のモテ女を観察するが、さらに凹む杏子。だが、改めて直人のカウンセリングを受けて挑んだ2回目のマッチングは、なんと大成功!今夜は初デートの予定だが...?



―何なのよ、何なのよ......!!!!

杏子は、腸が煮えくり返る思いで、スマホを睨めつけている。

今日は、いよいよ結婚相談所で知り合った正木とのディナーを予定している土曜日だ。しかし、今朝からもう数十回もスマホを確認しているが、正木から詳細の連絡が来ない。

杏子は、昨日の金曜日から、正木からの連絡を心待ちにしていた。普通、土曜日のディナーの予定であれば、前日には詳細の連絡をするのが一般的なマナーではなかろうか。

昨日も仕事そっちのけで一日中スマホを気にかけ、しかも23時を過ぎて我慢の出来なくなった杏子は、自分から一度正木に電話を入れていた。

―昨日も電話に出なかったし、もう当日の昼過ぎなのに...。あり得ないわ!!!

杏子は意を決して、再びスマホの通話ボタンを押す。呼出し音だけが鳴り、留守番電話サービスに切り替わる。

正木は、自分とのデートを目前に何をしているのだろうか。考えたくはないが、今日の予定を忘れてしまったのか。もう一度通話ボタンを押す。やはり応答はない。最後に、もう一度だけ...。

杏子は結局、合計7回の不在着信を正木に残し、スマホをソファに思い切り投げつけた。

限界が、近づいていた。


杏子の怒りの矛先は、どこへ向かう...?!

「土曜デートの約束は、水曜日に締め切る by ルールズ」は正解?


「私、今夜の正木さんとのディナーはキャンセルしますわ!直人さんから正木さんにお伝えください!」

耐え切れなくなった杏子は、怒りの矛先をどこへ向けたら良いか分からず、婚活アドバイザーの直人に電話をした。

「急にどうしたんですか。まさか、正木さんから連絡が来ないからって殺気立ってるんじゃないでしょうね。」

杏子は早速直人に心の中を見透かされ、言葉に詰まる。

「だから杏子さん、感情的になるのはやめてください。まだ昼の12時を過ぎたばかりですよ。どうせ予定がないなら、とりあえず待機していてください。夕方まで連絡がなければ、僕の方からも聞いてみるので。」

「で、でも...!私、そんなに都合の良い女じゃありませんわ!“ルールズ”にだって、土曜日のデートの約束は水曜日までに締め切るべきって書いてありました。それに、私からも7回も電話したんですよ!それなのに、連絡しないなんて、おかしいじゃないですか!!」



杏子は食い下がる。そうだ、正木は自分を舐めている。そんなデート、自分からキャンセルしてしまえばいいのだ。それが正しいモテる女の行動だ。

「えっ...、7回も電話したんですか?あなたって人は、本当に...。それに、ルールズって、あの恋愛本のことですか?参考にするのは良いですが、杏子さん向きの本ではありませんよ。感情的な女性は、どうせルールズの教訓は守れないんです。

それに、正木さんはお医者様ですよ。夜勤などで連絡ができないだけでは?とにかく深呼吸をして、まず心を落ち着けて、夕方5時まで待ってみて下さい。」

「この私に、あと5時間も待ちぼうけしろって言うんですか?!」

「杏子さんには難しいかも知れませんが、練習と思って、ゆったりと構えていればいいんです。男性に振り回されないようにして下さい。」

「振り回されてなんていませんわ!!もう、いいです!!!」

振り回されるという言葉にカチンと来た杏子は、一方的に直人との電話を切った。もういい。正木から連絡が来ても、今日は予定が入ったと言って断ることにしよう。杏子は断固決意した。


「ルールズ的モテ行動」を実践した結果は...?

計画性のない男のデートなんて、キャンセルしてやる?


「杏子ちゃん、俺だよー。オレオレ。電話いっぱいくれたのに、ゴメンねー。朝まで夜勤で、電話折り返すには時間が早すぎたから、起きたら連絡しようと思ってたんだぁ。電話番号しか分からないから、メールも出来なくてさ。相談所って不便だねー。」

正木から電話が来たのは、14時過ぎだった。

声から察するに、本当に寝起きのようだ。杏子は彼の謝罪の言葉を聞くと、怒り狂っていた今までの自分が、急に少し恥ずかしくなった。

が、惑わされてはいけない。自分は決めたのだ。

「あ、いえ...。私こそ、何度も連絡してしまって...。ちょっと他の予定があったので、別の日に変えてもらおうと思って、何度もかけてしまったんです...。」

杏子は決意した通り、モゴモゴと、慣れない作り話を口にした。きっと正木は焦り、杏子にひれ伏してデートを懇願するであろう。


「男に振り回されるな by 直人」


「えっ?俺が連絡しなかったから...?そっかぁ、じゃあ、今日は会えないのかぁ。残念だなぁー。俺、今日を楽しみに夜勤頑張ったんだけどなぁ。でも、俺が悪いし、仕方ないかぁー。」

正木にアッサリと引き下がられそうになり、杏子は焦る。

「あ...、で、でも!だ、大丈夫です。まだ決めていなかったので。今夜、予定通りで大丈夫です。」

予想外の展開に、咄嗟に下手なセリフを吐いてしまった。直人の呆れ顔が、頭に浮かぶ。

「え、本当に?大丈夫なの?やったー。じゃあ、場所はどこにしようか?」

一瞬下手に出たものの、杏子はまたしても顔が歪む。正木は前回の電話で、「神楽坂に行こう」と言っていたのだ。やはり、まだ店も決めていないのだ。

「えっと...?神楽坂って、言ってませんでした...?」

杏子は苛立つ気持ちを抑え、なるべく柔らかい声で聞き返す。

「あ、そうだったっけ?神楽坂なら、俺、家から近いから助かるよー。じゃあ、19時くらいに神楽坂で待合せでいい?お店は決めておくねー。」

そうして、正木は電話を切った。

またしても、モヤモヤ感が杏子の心を巣食う。

―神楽坂を指定したのは、自分の家から近いからって理由だったの...?

「自分から電話をしない」
「男には自分の元まで会いに来させる」

これらも「ルールズ」の教訓の一部であったが、杏子は既に、違反だらけだ。

―それに、お店が決まってないんじゃ、服装も決めにくいじゃないの...。

そもそも、正木は初デートに相応しい店を探し、予約を取ってくれるのだろうか。土曜の夜に、店を探して難民化するなんて展開にはならないだろうか。

モヤモヤ感は怒りに変わりかけ、杏子はまたしてもスマホを手に取ったが、そこで「男に振り回されるな」という直人の言葉が頭に浮かび、ハッと我に返る。

―私は...、振り回されてなんかいないわ...!

杏子はあれこれと考えるのはやめ、デートの前に、メディテーションヨガ(瞑想ヨガ)へ行くことに決めた。


次週10月4日火曜更新
いよいよ、神楽坂デート!杏子は上手く乗り切れるのか...?!


【これまでの崖っぷち結婚相談所】
vol.1:美貌とキャリアを手にした女の哀しいプライド。そして、その本音。
vol.2:結婚相談所という禁断の領域。エリート美女が、市場価値を算出される!?
vol.3:男の賞賛と畏怖の眼差しが、女の自尊心を満たす?!エリート女の暴走デート
vol.4:どんなに美人でもモテない?勘違いと高飛車のダブルパンチの痛い女
vol.5:社内のマドンナ的存在のモテ女に見せつけられた、圧倒的な「モテ」格差
vol.6:自分との戦い。恋愛偏差値の低さを自覚することから、婚活は始まる
vol.7:「美人のドヤ顔、超ウケる」 ピーターパン症候群的な医者からの、意外な反応
vol.8:生まれ持った美貌と才能だけでは、婚活市場で勝てない。アラサー女の現実