京都小山園のほうじ茶、薩摩しろくま、コーヒーミルク、バジルレモン――。

東京・上野末広町にある人気焼肉店『生粋』の盛り合わせコースを締めるのが、この4種類から選択するスイーツのかき氷です。氷の削りはかき氷専門店も顔負け、フワッフワで口どけが良く、後味も爽やか。

しろくまとコーヒーミルクの甘い系はなじみのある味で、特に驚きは感じられませんが、ほうじ茶は焼肉の油っぽさを消してくれる存在で香りもいい。バジルレモンは、口に運ぶとハーブ独特の香りがふんわりと広がり、焼き肉の油っぽさから口の中を解放してくれます。





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焼肉の締めはスイーツ!?

私は週2ペースで都内の焼肉店を訪店しています。予約困難店含め100店舗以上を訪店しており、その動向について独自に研究しています。その私から見て、実は今、『生粋』のかき氷のように、食後の焼き肉の油っぽさをさっぱりと変身させてくれるだけでなく、目にも楽しいスイーツを充実させている焼肉店がどんどん増加しています。


・よろにく(東京都港区):薩摩しろくま(小)800円、(大)1,000円、京都小山園のほうじ茶(小)800円、(大)1,000円

・にくがとう(東京都中央区):特製ふわふわかき氷(プリン味、抹茶味)各500円

・赤坂KINTAN(東京都港区):ミルクかき氷980円

・正泰苑総本店(東京都荒川区):オリジナルかき氷(イチゴみるく)580円、+200円でお好きなアイス付


まだまだあるスイーツメニュー

先述した『生粋』は、『よろにく』の系列店ですので、同様のスイーツかき氷メニューが並びます。

赤身肉に並々ならぬこだわりを持つ、赤身焼肉『にくがとう』(東京都中央区)のお勧めスイーツもかき氷です。特製ふわふわかき氷には抹茶味とプリン味があり、著者はプリン味を食しましたが、見た目の色と、カラメルを混ぜて食べる味は、フワッフワの氷の食感ながら、ソフトタイプのプリンの存在を感じさせる一品でした。

『赤坂 KINTAN』もミルクかき氷がメニューに名を連ねています。幾つかの店舗を構える人気の総本店である正泰苑もオリジナルかき氷のイチゴみるくで勝負しています。


焼肉好きが聖地と呼ぶ 『肉山』までがジェラートに

焼肉店のスイーツは、かき氷以外でも進化しています。たとえば、『うしごろ』(東京都港区)の超なめらかプリンとほうじ茶プリン。

『西麻布けんしろう』(東京都港区)では、産地直送のこだわり玉子で作るクレームブリュレのプリン系の他に、炎のバーニングバナナなんて変わり種スイーツもあります。

独特の味付けのタン塩で有名な老舗焼肉店『静龍苑』(東京都江東区)では、プリンをオーダーすると、併せて3種類のソース(コーヒー味のソース、ほろ苦ソース、やわらかな甘目ソース)が出てきました。それぞれの味で楽しめる本格的なプリンでした。

吉祥寺の予約困難な有名店『肉山』が2号店である『肉山 名古屋』を今年8月17日、名古屋市中区錦3丁目にオープンしました。ひと月もたたぬ9月4日には『肉山 名古屋』がプロデュースしたジェラート&カフェのお店、『ジェラ山』をオープンさせましたが、場所は同地区、中区錦三丁目でした。

自然素材を使ったジェラートと美味しいお酒とコーヒーが楽しめるカフェで、『肉山 名古屋』と同じ町内であれば、食後、訪店するには自然な距離です。


“焼肉女子”が増えた理由とは?

『正泰苑総本店』や『静龍苑』の老舗焼肉店のように昔から、美味しいスイーツを提供していた焼肉店もありますが、『肉山』が『ジェラ山』をプロデュースしたように、明らかにここ数年、スイーツを進化、充実させている焼肉店が増えたのも事実です。

スイーツ=女子という、シンプルな式が成立するほど、女性客が増加しました。つまりスイーツの進化は、焼肉女子が増加したことに起因しています。


焼き肉女子が増えたワケ

理由は2つあります。

1つめは、『焼き肉店の部位メニューが細分化された理由』で、紹介したメニュー部位の細分化に起因しています。これまでの焼肉はやはり、ガッツリ食べたい男性が、煙モクモクの店内でタンにカルビにロースを繰り返し発注し、白飯をかき込む。そういう食シーンが容易にイメージできる食べ物でした。

一方、女性はどうでしょうか。筆者がインタビューをした29歳のOLによれば、「1種類あたりの量は多くなくてもいいので、沢山の違う種類のお肉を食べたい」。

この意見は複数の女性から耳にすることがありますので、おおむね遠からずの女性の総意だと思われます。メニュー部位が細分化したことにより、男性とは違う女性の食シーンに焼肉店の部位の提供スタイルが、合致してきました。

複数ある微妙な部位の違いを楽しみながら、少量ずつ食べる女性特有の食べ方と合致してきたといえます。

しかもその部位ごとに塩やタレだけじゃなくて、出汁や卵に潜らせたり、塩昆布やウニを乗せたりなど、食べ方が多様化しています。複数の部位を提供するということと、食べ方の多様化で焼肉店は、女性客を取り込むことに成功しました。

結果として、「インスタグラム」や「Facebook」に投稿する女子も合わせて増加しました。焼肉店の肉の盛り方の工夫、魅せ方の工夫は投稿をして「いいね」を稼ぐ格好の素材だったからです。さらに顧客を囲い込むためのセオリーとして、スイーツを充実させたのは、必然です。


2つ目の理由とは?

2つ目は30歳未満単身女性の可処分所得の増加です。総務省の統計データ、全国消費実態調査によりますと、若年勤労単身世帯(勤労者世帯のうち30歳未満の単身世帯)の2009年10月、11月の1か月平均可処分所得をみると、女性に関しては増加しています。

男性の可処分所得は21万5,515円で、女性は21万8,156円となっており、女性が男性の可処分所得を初めて上回りました。可処分所得とは、収入から税金と社会保険料を差し引いた金額で所謂、手取額に近い所得になります。

可処分所得の男女逆転よりももっと注目したいのは、前回との同可処分所得の比較数値です。男性が、1万6,336円減少しているのに対し、女性は2万2,254円増加しています。可処分所得の増加は外食需要の増加に直接的に影響しますので、俯瞰して見れば焼肉女子増加の一因と言えます。

本調査は、5年ごとに行われます。2016年度の全国消費実態調査の単身世帯の家計収支及び貯蓄・負債に関する調査結果では、経年で比較できる当該資料は無いのですが、大幅に変わらないものと推測します。


女性客を囲い込む焼き肉店の戦略

「甘いものは別腹!」という格言めいた言葉がありますが本当でしょうか?

焼き肉に関する意識調査によれば、焼肉の食後、「スイーツを食べたい」という女性は73.9%もいました。結果から判断すると、焼肉食後、お腹に余力を残してでもスイーツ目的に2次会に繰り出す女性の姿が容易に想像されますので、概ね甘いモノは別腹だと考えられます。

焼肉と食後のスイーツという相関があると仮定すれば、話の筋は見えてきます。焼肉店の後に、他店にスイーツ目的に退店されるのであれば、自前でよりスイーツを充実させて、他店に2次会へ行くお客まで取り込む、囲い込む戦略は理にかなっています。

女性客を囲い込む、かき氷にプリンにジェラート。専門店と遜色のないスイーツの域まで進化させてきた焼肉店のスイーツは、今後はどこへ向かうのでしょうか?

焼肉に関する意識調査によれば、焼肉を食べたくなる季節を尋ねたところ、トップは「夏」26.9%、「春」「秋」「冬」はいずれも10%未満でした。

ヒントは、この季節性なのかもしれません。焼肉が夏の食べ物と認識されているのであれば、プリンは別として、かき氷にジェラートと夏を想起させるスイーツとして合致しています。

ただ、焼肉がさらに需要を加速させるのであれば、「夏」以外の「春」「秋」「冬」の需要も喚起されます。従い、「春」「秋」「冬」の季節をより細分化した季節ごとのスイーツの進化が期待できます。

焼肉女子増加による焼肉店でのスイーツ価値が向上した今、スイーツでさらにお客さんを呼べる焼肉店が、強さを発揮していきます。


著者
小関 尚紀:リーマン作家/MBA

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