高級車と美女。

コインの表裏のように互いに無くしては語れない極上のコンビネーションは、いつの時代も我々の心を掴んで離さない。

車中で東京の男たちが織りなす、魅惑の美女たちとの今宵の駆け引き。これまで、ランボルギーニオーナーの金曜深夜、BMWオーナーのビタースイートな関係、元カノとの横浜でのドライブデートが忘れられないフェラーリオーナーの話をお送りした。

今週のEpisode 4は……41歳、美容クリニック経営のドクターの、アヴァンチュールなドライブデート



「トオル、私って女として魅力ないのかな?」

赤坂のバー『さち』のカウンターで、トオルと仲間たちは恋愛話に花を咲かせていた。平日や土日に関係なく、トオルはこうして行きつけのバーカウンターで職業や年齢に関係なく作った『独身会』の仲間を連れ、たわいもない話をするのが習慣になっている。

長年の友人である美人医師の加奈子は、ファンデーションの崩れた顔で横でぶつぶつと呟いている。付き合って半年になる同い年の男が、結婚は考えられないと加奈子に別れを切りだし、挙句の果てに一回り年下の女のもとへ行ったらしい。

トオルは都内で美容クリニックを経営しており、今年42歳になる。結婚は、今はしていない。20代後半の時、1年の交際期間を経て電撃結婚するも、たったの2年で結婚生活にピリオドを打った。

所謂、「性格の不一致」とトオルの「不徳の致すところ」だ。友人よりも一足先に離婚を経験し、「結婚生活は自由を制限される鎖のようなもの」というイメージが頭を離れない。



出会いの分だけ理想だけは高くなっていき、最近ではこのまま独身貴族になってしまいそうな予感がしている。最近の口癖は、「いい子がいれば結婚したい」。

トオルが目当てで通院する女性も数知れず、「41歳独身のドクター」というキャッチフレーズだけでも引きはあるのに、クルーザー遊びで焼けた肌に、長年のジム通いの賜物である均整のとれた身体は、年齢を感じさない男臭さを放っていた。40を過ぎてから男の貫録が出てきたのか、トオルの市場価値が下がることも、デート相手に困ることもない。

「お前、飲みすぎだぞ。」そういってトオルは加奈子の手からグラスを取り上げると、残りのウィスキーを一気に飲み干した。

「男は結局、若い女が好きなのよ。」と言い放つ加奈子を否定することは出来ず、トオルは逃げるように席を立った。


男が好きなのは結局……

デート相手は、24歳の美人看護師


「おかえりなさい」

化粧室でLINEのメッセージを確認すると、スマホの画面にはハートのスタンプが踊っている。医師の友人が若い子たちとお食事会を開くと言って、広尾の会員制レストランで開催された会にいたのが、麻里子。都内の美容外科クリニックで看護師として働いている24歳で、最近デートしている子だ。

1週間前にシンガポールでのカジノ旅行から戻ってきたばかりのトオルは、帰国したら一緒に美味しいものでも食べに行こう、と日本を発つ前に麻里子を3回目のデートに誘っていた。誘う相手の女性もレストランの場数を踏んでいると、こっちの経験値を値踏みされるような気がして気持ちも萎えるものだが、彼女にはその心配も無い。

「楽しみだな^^♪」

これまで、二回り近く年下の女子とデートしたことはなかった。当初は、こんな年上の自分とデートとなると何か裏があるんじゃないかと疑うこともなかったわけでもないが、ずっと年下の麻里子に甘えられると可愛くてしょうがなかった。

女は美貌や学歴よりも、可愛げ。加奈子には悪いが、トオルのこれまでの恋愛遍歴からこの結論に至った。



月曜、19時半――

仕事を終えたトオルが麻里子を迎えに行くと、彼女はグロスをたっぷり塗った唇に、短いスカート姿から出るほっそりとした足を露わにして、ランボルギーニ ウラカンの助手席にするりと乗り込んできた。

2シートの車に乗るのは初めて、と横でキャッキャと喜んでいる。「高級車好きの男は結婚相手には向かない」と嫌悪感を示す同世代女子が多い中、麻里子は男が喜ぶ「さしすせそ」を無邪気に、かつ巧みに使い、トオルのプライドをくすぐる。

「お腹は空いてる? 水槽が綺麗なお店があるんだ。」トオルはそう言うと、ランボルギーニを銀座6丁目へと走らせた。



銀座という立地条件もあって駐車スペースがなかなか見つからなかったが、ようやく近くの駐車場にスペースを見つけ、歩いて銀座7丁目にある『水響亭』に到着した。麻里子は店内の大型水槽と青く光る通路に感動したのか、スマホで写真を撮りまくっている。


テーブルに案内され、コースが運ばれてくると、麻里子はスマホを取りだして写真をパシャパシャと撮り、食事の合間もインスタグラムを更新している。同い年の女が同じことをしたらなんだ?と思うが、彼女であれば何でも許せてしまった。指摘しても、麻里子は少し頬を膨らませるくらいだから、可愛いものだ。

セミナーで学んだ最新の美容医療の蘊蓄を語ったり、ドクター仲間の話をしても、同じ業界で働く彼女はうんざりせずに聞いてくれるのも嬉しかった。彼女が知らないことを自分が教えてあげているような感覚もあり、食事中は始終、話が弾んだような気がした。

食事が終わると、2人はドライブも兼ねて新宿に向かうことにした。参宮橋近くに住む麻里子を家へ送りがてら、パークハイアット東京の『ピークバー』から夜景を見せてあげようと思い立ったからだ。



信号が赤に変わると、トオルは右手をさっと彼女の足元の方へ差し出した。麻里子は両手で優しく握り返す。

「麻里子ちゃんは、最近誰かに言い寄られてたりしないの?」

麻里子は首を横に振る。麻里子はトオルに同じ質問を返すと、トオルさんこそモテそうで心配……と心細そうにしている。

―トオルさんにもっと甘えたいけど、子供っぽいって思われちゃうのは嫌……

二回りも年が離れていると、さすがに彼女に入れ込むことはないなと思いつつ、年下の女の子に1人の男として見られているのは純粋に心が弾むものだ。

ただ、口では年を気にしないといいつつ、内心はオヤジくさいと思われていたら……という一抹の不安は残る。


視線を感じたトオル……ホテルのロビーで見かけたのは

ロビーで偶然再会したのは……


41階にある『ピークバー』に上がるエレベーターの中でも、麻里子はトオルの腕にしがみついてぴったりと身体を寄せた。彼女に好かれるのは嬉しいが、真剣になられても困るな……と思わなくもない。付き合ってほしい、なんて言われた瞬間にTHE ENDだ。トオルは自分がひどい男にも思えた。

自分たちが座るテーブルの横を通る時に視線を感じたが、人に何を思われようと気にしない。トオルは車を運転するのでアルコールは控えたが、麻里子はぶどうのカクテルをオーダーし、最初のレストランで飲んだシャンパンが効いているのかすぐにほろ酔いになった様子だ。甘えるようにこちらを見つめてくる。

「さっきから、あそこの女の人がトオルさんのこと見てるよ」



「そう? 気のせいじゃない」

たしかに、ずっと視線を感じていた。暗がりの店内ですぐに顔を認識出来なかったが、スマートフォンの画面を確認しながら、ちらちらとこちらを見ている様子だ。

帰り際、化粧室に行った麻里子を待ってロビーで立っていると、横から見慣れた顔がこちらへ歩いてくるのに気がついた。トオルは目を細めて、近づいてくるその女性の顔を見た。



カオリだ。


トオルの前妻。

……さっき感じていた視線は、カオリだったのか。

カオリの横には、自分よりも少し年上に見える男がいた。数年前、3歳上の男と再婚したと風の噂で聞いたが、今の夫だろうか……優しそうで身なりはきちんとしてはいるが、垢抜けない男。



―お待たせ。


トオルは突然の出来事に動揺していたようで、麻里子はどうしたの?と心配そうにトオルの顔を覗いた。その時、カオリは何も気付いていないかのように、目の前をスッと背筋を伸ばして玄関口へと歩いて行った。

平日の夜から、パーク ハイアット 東京のバーで何をしていたのだろう。土産袋を手に持っているようだから、何かカンファレンスか何かにでも参加していたのだろうか。

約10年ぶりに見かけたカオリは、少しやつれているようにも見えたが、決して不幸そうではなく安心した。トオルが見慣れた、エルメスのバーキンを持ってクリスチャン・ルブタンを履いた女の姿はそこにはなかった。

今、俺と同い年だから42歳か。

彼女は、今の自分を見てどう思っただろう……相変わらず自由気ままなで能天気だね、なんて言われるかもしれない。ふと、カオリと離婚した時に言われた言葉が頭を過った。

「麻里子、家まで送ってくよ」



ショックを受けたトオルの横で、助手席の麻里子は心配そうにしている。口数が少なくなったトオルの様子を感じ取って、麻里子も静かに車内に流れる音楽を聴いていた。

40を過ぎてもなお「独身貴族」を称号の如く振りかざしていた自分に、トオルは優越感というよりも、寧ろ少しばかりの罪悪感を初めて感じていた。助手席に座る麻里子の存在を横目に、いつまでも「落ち着く」ことのない自分に、焦燥感を感じないわけではなかった。


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次週9月30日金曜更新予定
美女ドライブ、最終話!未読無視はいつまでも続けられない……掟破りなお台場ドライブデート。

<モデル:桃谷ふじ>
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[取材協力] Car In Lifestyle
都内の20代後半〜30代の高級車オーナー7名で結成したチーム。高級車のある極上なライフスタイルを追究し、定期的にツーリングに出掛けている。