「一億総中流社会」

かつて日本はそう呼ばれていた。

「普通が一番幸せ」と今なお信じる人も多いが、それは本当だろうか?

容姿、学歴、収入。全てにおいて「中流」の少し上に位置する人間は口を揃えてこう言う。

「上を見ればキリがないが、知らなければいい世界もある。」

“中の上”に位置するが故に、上も下も、いろんな世界を見すぎて起こりうる悲劇もある。

これまで登場したのは、男友達に“中の上”と烙印を押されて困惑したメグミ。

彼女の出没エリアや恋愛観などその生態に迫った。

今回は、あえて“中の上”を選ぶメーカー勤務のイケメン・サトルの話に迫る。



“中の上”が一番幸せ?東大卒の大手メーカー勤務のイケメン


今回話を聞いたのは、大手家電メーカー勤務のサトル、31歳。細身で背が高く、笑顔が印象的な爽やかタイプのイケメンだ。学生時代はサッカー部のキャプテンだった、という話も頷ける。

「平凡な人生なので、面白い話ができるかどうか…。」

人懐っこい笑顔を向けそう謙遜するが、これまでの彼の人生は聞いている限り非の打ちどころがない。

彼は東大工学部を卒業後、そのまま大学院に進み大手家電メーカーに就職。周囲には、専門分野関係なく総合商社や外資系の証券会社に就職した仲間も多かったというが、機械いじりが好きだった彼は「メーカー以外の選択肢はなかった」と話す。

現在、新製品を開発する部署で活躍するサトル。技術者としての能力はもちろんコミュニケーション能力にも非常に長けており、社内でも将来を嘱望される人物の一人だと聞いた。

しかし彼が語る将来の夢は、物心ついたときから一貫していた。

「僕の夢は、幸せな家庭を築くこと。平均的より少し上の年収をもらって、あとは家族を大切にしたい。“中の上”って実は一番幸せなんじゃないかな。」

現在、彼の年収は800万円ほど。多くを望まない、それが彼の特徴だった。


サトルが“中の上”以上を望んだ、たった一回の出来事とは…?

全てを器用にこなすがそれ以上を求めない男


彼には野心というものがまるでないようだ。

「こんなこと言うと嫌味に聞こえるかもしれませんが…。」

彼はこう続けた。

「仕事をして改めて気づいたのですが、僕は他の人の半分くらいの力で全てをこなせるんです。」

受験勉強、就職活動、昇進試験。自分の実力以上の結果を望んだことはなく、全てを器用に“こなしてきた”というサトル。

「これまでの人生で大きな挫折がないのが、僕の一番の弱点です。」

自嘲気味にそう言った。

しかし、ここで一つの疑問が湧いた。「幸せな家庭を築くこと」が夢だという彼が、31歳で未だ独身なのはなぜだろう?


家庭的な彼女との結婚を前に起きた事件とは…?


すると彼は少し悩んだ後、あることを打ち明けてくれた。

爽やかな彼らしく、付き合った人数はこれまで3人。一番長く付き合ったのは大学時代にアルバイト先で出会った一つ年下の真理だった。

真理は女子大出身のお嬢様で、控えめで女の子らしい家庭的なタイプ。爽やかなサトルと彼女は周囲も公認のお似合いなカップルで、結婚も秒読みだった。

しかし、サトルが27歳のときに悲劇は起こった。きっかけは、大学時代の友人に誘われて行った飲み会だった。

その友人は高校時代からの付き合いで、職業は外科医。忙しくて滅多に飲めないから、と平日の22時に呼び出され「しぶしぶ行った」と語る。

そこに居合わせたのが由美子だった。彼女は慶應卒の皮膚科医で、真理とは正反対の長身の美女。サトルを見てもにこりともしない彼女だったが、「これまで見たこともないくらいの美女」だったという。



これまでは、感じが良くて可愛らしい子を無意識に選んでいた。「自分の実力以上は望まない」、それが彼のポリシーだ。

結論から言えば、彼は女医の由美子に一目で恋に落ち、ずっと付き合っていた真理に別れを告げた。

由美子と出会ってからは、彼女が生活の中心になった。メールの返信に一喜一憂し、会えると言われれば何があっても飛んで行くし、会えなかったら地の底まで落ちた気分になる。

しかし、彼がいくら「付き合おう」と言ってもはぐらかされるばかりだった。中途半端な関係が嫌になり離れようとすると、「サトル君といるときが一番落ち着く」と甘い声で囁かれる。そんな関係が3年もの間続いた。


曖昧な関係を望む由美子の秘密とは…?

自分の実力以上の幸せを望まないのは、彼の本心なのか?


そんな付き合いをずるずると続けていたが、友人から由美子は同じ医者である一回り上の男と婚約したと聞かされる。その男の離婚がようやく成立したらしいと。

結局サトルは、不倫中の彼女の“寂しいときの避難所”でしかなかった。



「でも、今思い返すと彼女は一度も僕に“好き”とは言いませんでしたね。外見は高飛車な美人だったけど、寂しがり屋で自分の気持ちに真っ直ぐな子でした。」

落ち着いた調子でそう語った。

サトルはその後友人の紹介で彼女ができ、来春結婚する予定だと言う。

婚約者は、由美子と正反対な家庭的なタイプ。彼女からのアプローチで付き合いだしたという。その馴れ初めを幸せそうに語るサトルだったが、少し遠い目をしてこう言った。

「彼女のことはもちろん好きなのですが…。由美子と別れて以来、人を好きになるっていう強い感情が湧いてこないんですよね。もしかしたら、僕は一生こんな感じなのかもしれません。」



結婚したら早く子供を作り、郊外に家が欲しいと語るサトル。これから「平凡で幸せな家庭を築くこと」という夢に向かって歩き出すのだろう。

今後、彼は由美子に出会ったときのように、何かを強く望むことはあるのだろうか。

自分の身の丈以上の人生を望むことは、大きな失敗につながることもある。しかし、望まないと自分の限界値以上の人生は望めない。

「中の上が一番幸せだ」

彼を見ていると、自分自身に必死にそう言い聞かせているように思えてならなかった。


次週10.8土曜日更新
「上を見たらきりがないと言うけれど…。」MARCH卒・大手総合商社勤務の男の苦悩